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107話 ~3章~ ラーダガース

 小島をぐるりと一周してみた。

 

 とりあえず各自のポケットを金貨や宝石でパンパンにしながら歩いてみたが、分かりやすい出口のようなものは用意されていないようだ。


「どうしたもんかねぇ……」


 頭を掻きながら皆を見るが、いくらか事情が分かりそうな魔術師組でもほとんどお手上げだった。


「この空間の全体から魔術的な要素を感じます。おそらく転移系ですね……ここまで大掛かりな物は初めて見ました」

 

 カトレアが製作者の仕事ぶりに舌を巻けば、ティントアも同じ調子で頷いている。


「俺たちと同じレベルの術師が十人以上いないと、実現できない、だろうね……しかも、全員が転移魔術の体系を得ている専門家、って条件付き」


 うちの天才児ちゃんも前の二人に続いて似たような感想だった。


「竜の体の中がさ、どこか別の場所に通じてるっていうのは分かるんだけど、でも分かるのってそんだけだね。この転移術すごいよ! 全く違和感なかったもん!」


 アッシュがイライラしながら金貨の山を蹴り飛ばす。


「お前らなァ~、すげぇスゲェって褒めててもしゃーねーだろ! 出る方法考えようぜ。それこそフーディの魔炎砲でもぶっ放してみるか?」


「アッシュに乗って飛んでいけないの?」

 クロエがごく普通の疑問を口にした。


「なんか転移? とかいうのが起きたんだろ? 普通に上のぼっても帰れねんじゃねーの? つか全員を引っ張って飛ぶのも無理だぜ。重量オーバーだな」


「転移してるからね。飛んで帰るのは無理だよクロエ」

 フーディが珍しく先生っぽい感じを出している。


「転移ってなに?」とクロエが聞いたが、

 フーディは「転移は転移だよ!」と教える気ゼロだった。

 

 まあ、とりあえず簡単には出られないという事か。


「もしさぁ……ここからずっと出られなかったらどうしよ……ご飯とか」

 

 フーディが心配そうな声を出す。

 ご飯どころの騒ぎではないのだが、いやまぁご飯も大事なんだけど……。


「そうですねぇ。たぶん一番美味しそうな人から食べられちゃうでしょうね」


「な、なんでカトレア、あたしのことジッと見てるの……?」


「いや~何故でしょうね? お腹がすいて来たから、ですかねぇ?」


 確かに誰かを食べるならフーディが美味しそうだ。

 

「あたし絶対おいしくないよ! ヴィゴの方が美味しいよ! ねっヴィゴ? ヴィゴの方が美味しいよね?」

 

 俺の服を掴んでグイグイ引っ張られるが、

 この流れで『そうそう俺の方が美味しいんだよ~』とは言わんだろう。


「ちょっと待った!」


 クロエがバーン! と手を突き出して待ったをかける。


「冷静に考えてみて欲しい。そしてわたしのボディをよく見て欲しい」


 あぁ、ハイ。何でしょうか。


「どう見てもわたしがイッチバン美味しいと思う。その自信がある! ねっヴィゴ?」


 ねっ、じゃねーよ。

 ここで同意したら俺が味見した人みたいになっちゃうだろう。


「ちょっと待てーい!」


 ああ、次はアッシュか。


「あのなお前ら、俺ァ半天使だぜ? 前に言ったろ、天使の手羽先はけっこう美味いってな! だから俺が一番ウマいと思うぜ?」


 何なんだお前ら。

 どうして我先に食われようとしているんだ。


「いやぁ食料問題も無事に解決しましたねぇ」とカトレアがころころ笑っている。

 

「ちょっと待って」


 最後にティントアも参加したか。


「人が、居る」


 静かに指を指す方を見たら確かに人が居た。


 何と言ってボケるんだろうか? 

 そればかり気にしていたから驚き過ぎて思わず大きな声が出てしまった。


 白地に金の紋様が施されたローブを深々と被った老人がいつの間にかすぐ側に立っていた。


「うわぁっ! ビックリしました! 白金魔導会(しろがねまどうかい)のローブですよコレぇ!!」


 カトレアも思わず大声をあげていたが内容と声量とタイミングのせいでアホの子みたいに見える。


「なんだテメーこの野郎! さっさとここから出しやがれコラァ!!」


 おいおい待てアッシュ。

 全くお前は秒速で喧嘩を売るんじゃないよ。


『……待っていたぞ、六王連合。私の名前はラーダガース。イスタリオス様の部下だ』


 老人の声は年季のはいった古さの中にも芯があった。


『竜に飲まれて落ちたというのに、随分と余裕があるようだな』


 う~ん、お恥ずかしいところをお見せしてしまった。


『まずは借金返済おめでとう。さて、頼みがある。この宝の山の中に”紫水晶(むらさきすいしょう)で作られた矢尻”がある。それを探し出してくれんか?』


 おざなりに祝われた後、急に本題を投げて来たな。

 ここへ一人でやって来られるなら自分で探さなかったのだろうか?


 ティントアが空中でいくつか印を切ってから呟いた。


「この人、幻影だね。姿だけ、ここに送ってきてる」


 なるほど。

 幻影では物に触れられない。


 だから俺たちに手伝いを頼みたくて腹の中で待っていたのか。


「じゃあ、ラーダガースさん。その紫水晶の矢尻、ここから出る方法と交換でどうでしょうか?」


『元よりそのつもりだ……一応、お前たちがここで暴れて竜が死ねば魔術が解ける。そうすればお前たちも出られるのだが、このアンカラドにも役目がある。後で出してやるから殺してくれるなよ?』


 ほう、そうだったのか。

 今後は竜に飲まれたらとりあえず暴れてみることにしよう。


 紫水晶の矢尻とやらは簡単に見つかった。

 何と、運よくクロエのポケットに入っていたのだ。


「後で加工して首飾りにしたかったのにぃ」とクロエが少し残念そうだった。


「まあまあ、こんど俺が何か買ってあげるから」


「ハイ! じゃあオッケーです!」

 クロエのこういう所は本当に素直で可愛いと思う。


『さて、こちらの用は済んだ。いつでもここから出してやれるが、準備は良いか?』


 いつでも出られる……そう聞いて各自が更に持てるだけの財宝を抱え始めるとカトレアが忘れていた、と声を出した。


「白面鏡、どこにあるんでしょうか?」


 あ~……すっかり忘れていた。

 ごめん、アラゴルスタン。


『白面鏡ならそこにある』


 ラーダガースが事も無さげに顎で指すと金貨の山の中に大きな楕円の姿見が埋まっていた。

 この人、めちゃくちゃ話が早いなぁ。


『では、良いか?』


『あの、色々と聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?』


 カトレアの台詞には俺も頷くところだ。


 白金魔導会について。

 黄金竜アンカラドとの繋がりについて。

 俺たちの事をどこまで知っているのか。


 質問は山のようにある。


『そうだな。数日の間は騎王国に滞在するだろう? 紫水晶の矢尻を受け取りに行く時に話そう。それで構わないか?』


 カトレアが俺に視線を送る。

 問題ないだろう。嘘はないように思う。


 あちらが望む物をこちらは持っているのだ。

 引き換えに話してくれるというのも信用できる。


「承知しました。では、お待ちしております」


 ラーガガースは短く『それでは』とだけ言った。

 そして良く響く柏手を三つ打つ。


 すると一瞬だけ眩暈がして世界が暗転した。

 暗闇が訪れたわけではない。


 俺がどれだけ目を凝らそうとも見えないのだ。

 まるで強制的に瞼を落とされた感じだ。


 続いて時間が引き延ばされたような感覚が訪れる。

 静けさが広がる闇の中、一秒ごとに時が長くなる。


 感知できる物は己の鼓動だけ、それが遅く、遅く、どこまでも長く伸びていく。


 ドクン、ド、クン……ド……ク……ン。


 もしかしたら死を迎える時は、こうやって心臓の音が遠くなるのを聞かされるのかも知れない。


 次に俺の心臓が鳴るのは、一体いつだろうか?


 耳に痛いほどの静けさの中。


 意識を手放した瞬間さえも曖昧になり、俺はどこかへ落ちていったのだった。

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