104話 ~3章~ 黄金の息吹
「魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎ほぉぉぉぉぅ! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎ウホッ! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! ハクシュン! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲! 魔炎砲!」
多いな!!
フーディが魔炎砲を狂ったように放つ。
ティントアとカトレア以外の全員が思いっ切り引いていた。
エレンイェルもアラゴルスタンも隠しようがないほど顔を引きつらせて居るし、後ろに控えている騎士たちも似たようなものだ。
後ろの方では「火山が噴火したのか!?」なんて声も聞こえて来るくらいだ。
一旦は打ち止めなのか、フーディが全力疾走後の犬みたいにハァハァ言いながらが止まった。
「とり、あえず……いったん……休憩……あー……何か途中クシャミでた……」
あぁ、やっぱりクシャミ出てたのか。
一瞬だけ何か変だなと思っていたのだ。
「お疲れ様フーディ。竜退治、一人で終わらせちゃったな」
「え? まだ生きてるよ!」
え? あれでまだ息があるのか!?
「うん、あいつ火炎竜だね。だから炎は効きにくいみたい。だからね、とりあえずいっぱいブツけておこうと思って! これだけやったからノーダメージって事もないと思う」
爆炎の中から姿を現した黄金竜アンカラドは確かに生きていた。
だが、フーディが言った通り、かなりの痛手を負っている。
翼を使って魔炎砲を凌いだのだろう。
大翼は焼け焦げ、もはや空を舞うことは叶わぬ姿となり果てている。
『……滅多矢鱈と撃ちよって……まさか四元の王が蘇っていようとはな……』
思考が飛ぶような衝撃だった。
俺たちの事を知っているのか?
以前、商人連国で戦った再屋のロジェも骸の王の名を口にしていた。
ごく稀に俺たちの情報を知る存在が居るのだ。
思わず全員で顔を見合わせたが、今そんな猶予は与えられない。
黄金竜アンカラドが怒り、空気を震わせて叫んだ後、大きく息を吸った。
その予備動作、知っている。
そしてこの竜が火炎竜なら答えは一つ。
灼熱の竜の息吹きが襲い来る。
「炎が来る! 散開しろ!!」
思わず指示を出したが、アッシュが一足先に飛び出していた。
「任せろヴィゴ! 炎なら俺が跳ね返せる!」
聖炎烈光で迎え撃つ気か、ならここはアッシュに任せる。
火力勝負の打ち合いなら、フーディが回復すれば二名体制で行える。
圧倒的に俺たちが有利だ。
アッシュが腰だめに拳を構えて相手を待った。
真っ向から撃ち合うというわけだ。
竜の口が開かれる。
炎の真っ赤な色を想像していたが、予想は裏切られた。
なんだこれは?
何が吐き出されたんだ?
キラキラと輝く金銀財宝。
紅玉、蒼玉、翠玉の雨あられ。
大量の金貨が恐るべき速度でこちらにやってくる。
黄金竜アンカラドの息吹きは、その体に貯め込んだ財宝を吐き出す技だった。
黄金の息吹が煌びやかな光を持って俺たちを襲う。
マズい。
見た目こそ美しいが、あんな速度で飛んでくる金属と石の固まりは無慈悲な死の雨だ。
近くに居たクロエとカトレアを担いで身をかわすことは出来る。
フーディにはすぐ近くにサリが居る。
アッシュが前に出てしまったせいでティントアのカバーだけ遅れてしまう。
「アッシュ!! 何とかしろ!!」
俺に言われるまでも無い、そんな必至の形相でアッシュは既にこちらを振り向き、天使の翼を広げていた。
「ティントア!! 俺の翼に隠れろォ!!」
身を挺して庇う。
体の耐久力を考えればそれしか手が無い。
間に合うのかアッシュ……何とか間に合わせてくれ!
金銀財宝が辺りにバラまかれ、騎士の鎧と盾にぶつかり合って甲高い音がいくつも響く。
喧噪が治まって顔を上げる。
アッシュとティントアはどうにか立っていた。
呆然と立ち尽くす姿に不安を覚えて駆け寄る。
「アッシュ! ティントア! どこに当たった!? 怪我を見せろ!」
「……ッ……けっこう痛ぇな……でも、まぁイケるぜ。俺よりティントアは大丈夫かよ!?」
アッシュの方は問題なさそうだが、この男をして”けっこう痛い”とは、かなりの衝撃だったはずだ。さっきから無言のティントアが怖い。
「あれ? いま、俺……攻撃、くらってた……よね?」
ティントアがおかしなことを言っている。
そりゃそうだろう。
アッシュが庇ったとはいえ、あの量の攻撃が飛んできて無事なわけがない。
現に俺たちより後ろにいた騎士たちは受け損ね、何人も呻きながら負傷しているのだ。
「……なんでだ? いや、当たったんだ……その感触は、確かに……」
ティントア自身も不審に思ってか、思わず考え込む。
だが、謎を解き明かす時間の余裕は与えられない。
第二波、黄金竜は更なる攻撃のため息を吸っている。
「あっ、そうか!」
ティントアがふいに明るい声を出して飛び出して行く。
あっと言う間も無かった。
黄金の息吹がまたも襲う。
金銀財宝。宝石を含む贅の極致。
輝きを持って彩られた死の礫がやって来る。
あろうことか、ティントアはいつの間にか最前線で両手を広げ、それを受け止めた。
俺が叫ぶ間もなく、ティントアは黄金を全身で浴びた。
それなのにピンピンしている。
「やっぱり! 思った通りだ。負債の呪いだよ。俺たち、この息吹は効かないよ。当たった瞬間に消えていく! 返済されてるんだ」
おいおい、そんなまさか……。
だが、確かにそうだ。
俺たちの身に触れた金銭的な価値がある物は、強制的に返済される。
思わず確かめたくなって足元に広がる金貨に触れたが、呪いの効果は以前として発揮されている。
いや、しかしティントアよ。
お手柄ではあるが思い切ったな……。
本当に無事でよかった。
ということで、カトレアが目をチャリーンと輝かせて言った。
「とりあえず息吹を受けるのは耐久力のあるヴィゴくんでいきましょう!
万が一すぐに返済完了した場合、ヴィゴくん以外だと即死する可能性があります!
それ以外の人は付近の金目の物に触りながら他の攻撃に備えましょう!
ヴィゴくんも安全策のため、直撃はなるべく避けて下さい!
アッシュくんはヴィゴくんのサポートです!
六王連合全員で黄金竜アンカラドの金策行動を開始します!」
これがイスタリオスの啓二だったのか!
俺たちは金の亡者となり、戦場を駆け巡るのだった。