VS槍使いの青年
その頃、ジャスミンは槍使いの青年ぽい組織メンバーから逃げていた。
「正直、逃げてばかりじゃ興醒めなんだよね」
そう言って青年は槍を突き出した。刺されば痛いだけでなく、その箇所が爆発するという武器。逃げるなという方が無理な話しだった。
(しかし……さっきから狙ってこっちはやってるのに、この女なんで自分の突きをこう何度も避けられるんだ? まぁ、いいか。こういうのは避けられない程攻撃しまくれば当たるでしょ。数撃てば当たるって言うしね)
「乱れ突き!」
高速の突きがジャスミン目掛けて繰り出される。それが少し当たるだけでも致命傷になり得る。
「ほらほらほら!!!」
ジャスミンは避けられないと悟り、思わず剣でガードしてしまった。それを見逃さなかった青年は笑みをこぼす。
青年の槍の先が剣身に当たると刹那、爆発が起きジャスミンの持っていた剣が、その箇所から真っ二つに折れ、刃先が近くの地面へと突き刺さった。
「あはははは、なんだその剣。特別な剣だと聞いたのに本当に拍子抜けだな。まぁ、いいや。これでその剣を警戒する必要もなくなったわけだし」
(おかしいな……カーラはこの剣でやられたんだぞ。それとも剣それぞれ効果が違うということなのか?)
ジャスミンは折れた剣を見て、その場で尻もちをついた。
「嘘!? 折れちゃった……」
折れた剣を見て驚愕するジャスミンを見た青年は少し安堵した。どうやら運は自分に回っているようだ。もし、自分の相手がカーラを殺した相手だったら事前情報無しで勝てたかは怪しい。カーラは傲慢だが、一方で自分が負けるような戦い方はしない。臆病だし卑怯だ。だから、そんなカーラが負けたのが意外だった。
空から各戦闘の様子をドローンが観察している。おかげで敵の情報は戦っていない自分にも伝わる。
恐らく、全員が持っている剣はどれも何かしらの効果がある。
(まぁ、壊してしまった後じゃこの剣がどんな能力を持っていたか分からなくなっちゃったけど)
青年は折れた剣先からジャスミンに視線を移す。ジャスミンは青年と目が合ったことで殺されると思い、折れた剣を何度も振るった。だが、折れた役立たずの剣は持ち主同様、ただ空気をきるだけで何の意味もなかった。その折れた剣が青年に届くわけもない。青年は笑いながら「そんな剣でどう勝つつもりなのかな」と言いながら自分は槍を構えた。
「そろそろ死のうか?」
ジャスミンは半べそかきながら剣に向かって「なんとかしてなんとかして」と叫び続けた。
「その剣は死んじゃったんじゃないのかな? 折れちゃったし」
「そんな」
「まぁ、自分には関係ないけどね」
「い、いや……死にたくない」
遂にジャスミンは泣き出した。
(なんなのこの女。調子狂うな。そんなんでよくここまで生き残ったよ。まぁ、その運もここで尽きるけど)
「それじゃさようなら」
青年はそう言ってジャスミンに目掛け槍を突き出そうとした。だが、ジャスミンは悲鳴をあげながら青年に向かって折れた剣を突き出した。その直後、折れた箇所からいきなり黄色い光が青年に向かって伸び、青年の腹を貫いた。
「は? なにそれ……」
「え……」
ジャスミンの持つ剣、その剣の名は『フルンティング』で、意味は突き刺す。その名の通り、突き出すことで初めてその剣は効力を発揮する。
剣でありながら光の槍のようにもなるその武器はリーチを自在に操れることで戦場での戦法を格段に広げる。青年は後ろを振り返った。青年を貫いたその光は永遠に伸び続け、槍とかそういったレベルの伸びではなかった。
「なんだよ……チートじゃん」
青年は槍を払いその光の槍みたいに伸びるそれを切り落とそうとした。だが、壊れたのは青年の槍の方だった。槍がへし折られ、槍の先端が飛んで近くの建物の壁に突き刺さった。直後、その壁が爆発した。
(こっちの槍の当たり判定はなかったのに、自分の槍が折れた? どうなってんだこの光は……)
青年はその光を掴もうとすると、右手がジュウウと一瞬で焼けた。手を直ぐ様離し、焼けた自分の手を見た。皮膚が焼かれ血が流れ出ていた。
「なんだよ……楽勝だと思ったのにさ」
青年はジャスミンを見た。ジャスミンは既に泣き止んでいた。
「でも、運が尽きたのは自分だけじゃないからね。あんたも相当の強運でここまでこれたんだろうけど、自分もカーラと同じく肉体改造してるんだよ。僕の場合は自爆だけどね」
「え?」
「せめて、道連れにしてやる」
直後、大爆発が起こり、黄金都市に爆風をもたらした。
◇◆◇◆◇
「やられたかボウ」
スキンヘッドの男はそう呟いた。ボウとは青年の名前だった。組織のメンバーの姿は生前の姿。ボウはあの姿の年齢で徴兵され槍を持って戦場へ出てそこで死んだ。だから、ボウが槍にこだわるのはその生前の人間だった頃の影響だろう。そんなボウは自分が死んだのは自分が弱かったからだとそう強気で、自分に肉体改造を求めた時も万が一やられるくらいならせめて相手を道連れにしたいと自分に言ってきたが、ボウはメンバーの中でも本当は平和主義だった。恐らく、ボウは徴兵される前は本当に優しい青年だったのかもしれない。それを人間の戦争で変えてしまった。ボウにとって人間とは何かを、戦争を通じて無理やり答えを出した。あれが人間の本性だ、だからこそラグナロクで人間を滅ぼすことにも躊躇いがなかった。そんなボウであれば最後に自爆を選ぶことも想像がつく。計画の為なら改造にも躊躇いはない。そして手術は無事成功した。爆発の威力は広範囲に及ぶよう設定した。ボウは最後まで兵士として戦った。それがボウの『意識』だからだろう。己に従って最後は散ったのだ。
「さて、私もそろそろ動くとしようか」




