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ラン・ルーシー  作者: アズ
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凶器の頭 【2】

 人をつけにした連中だと目の前にいる少女達を見て思った。案内する道中、彼女達のそれなりの話しは聞けた。その上で四人についてリーゼントなりに考えた。

 まず、ジャスミン……教師達に遅れていると言われ、自身もそれに納得してしまっている。本人は周囲の協力で一時は成績をあげたが、自信がないのは相変わらず。自分自身の強みを見つけられず何者にもなれない彼女の存在は薄い。彼女は死ぬ気で努力する前に投げ捨て諦める習慣がある。かといって甘く育てられたからというわけではない。親から散々ダメ出しされ、それに聞き慣れた哀れな子だ。俺の評価としては周りに影響されやすい子だといったところだ。大きな間違いはない筈だ。どうせここまで来たのも、自分だけじゃないんだろう。せっかくの友達を失いたくなかっただけじゃないのか?

 ルーシー……彼女は「田舎」という点にコンプレックスを抱いているようだ。そこから抜け出したいと思っていたところに、外の世界を知り、まるで取り憑かれたかのように旅を思いついた無鉄砲な少女といったところか。

 ルーシーとベルはまだまだ子どもだと分かる。

 俺がいまいちよく分からないと思ったのは後の二人だ。サンサとベル。ベルの方の家は相当な金持ちの家だろう。二人とも単純に学校が嫌になったから抜け出したというわけではあるまい。他に理由があるが、それを隠していているようだ。

 そう思うと中々の面々だ。一人は無鉄砲、一人は自分に自信がなく、あとの二人はよく分からない。なのに一緒にいて、これから大きな旅をしようと言うんだ。最近の若者は恐ろし過ぎる。そこまで成長が早いものなのか。自分がその年を考えたら、まだ親に生意気言いながらも甘えていた自分を考えると、この子達の度胸に面食らわされる。しかも、その船や予算も国の政策を利用しようとするあたりは賢い。だが、それもそこまで。追い返されたあたり、その後の事はまだ考えていない様子。

「どうだ、もし俺が君達の代わりに国に申請し船と金を手に入れるというのは」

 四人は怪しそうな目を向けた。

「そりゃそうか。まぁ、突然会ってそんなうまい話しを聞かされたら誰もが疑うよな。なら、いいぜ。それでも」

「え?」

「お前達が他に手があるというならそれでいい。お前達の旅を邪魔するつもりはない。悪かったな」

 すると、ベルが見返りを尋ねてきた。

「偽善者ではないんでしょ?」

 やはりそう来たか。ふむふむ、計算通り。やはり俺の読みに狂いはないぜ。

 こいつは自分が賢いと思っている。実際、確かにその年齢では大人じみたところがある。家柄だろうか。だが、それがアダになることもあるんだぜ。自分が賢いと思っている奴程騙される。

「勿論だ。船はお前達のものさ。でも、金は頂く。俺はさ、お前達のような冒険者をこうして手助けしているのさ。お前達は旅ができ、俺は金を得る。いい取り引き条件だろ?」

「……そうね。分かった、それで取り引きしましょう」

「ベル、いいの?」とサンサは尋ねた。

「どっちにしろ私達には船が必要よ。このリーゼントの案以外で私達が手に入れる手段があれば別だけど」

「よし、それでいこう」とルーシーは即答した。

 ふふふ……ちょろい奴らだぜ。やはり、ガキを騙すのは最高だ。

「それじゃ役場まで行ってくるから、その辺りで寛いでいてくれよ」

 殺風景で家具の少ないその部屋に四人を残すと、一度家を出た。二階建て、一階は玄関と階段スペースしかなく、自宅スペースは二階になる。男臭漂う部屋には女性を匂わせるものはなく、実際独身だった。

 男は自宅から離れた。ただし、行き先は役場ではない。同じリーゼントの仲間達がいる本拠地、そして、リーゼント族を集める為だ。




◇◆◇◆◇




 ……というのがベルの読みだった。

 大抵、騙す側は騙すことに必死で騙されることには慣れていない。当然、騙す側が騙されると思っていないからだ。ベルは空気を読み、騙されたふりをつくり、あのリーゼントはまんまとそれに気づかなかった。

 哀れな者は自分が哀れであることにまず気づかない。その者にとって常に哀れは他者だ、ベルはそう私達の前で言い切った。

 ずっと黙っていたが、ベルは家で何かあったのかもしれない。でなければ私達と一緒に旅へは行かないだろう。裕福な家庭に生まれ過ごすわけで、そこに不自由はない筈だ。でも、彼女の胸の奥底には触れてはいけない領域があるような気がした。流石のルーシーもサンサも察するのだが、ジャスミンはどうもそこの辺りの察しが悪かった。

「ベルは随分詳しいんだね。私なんか何がなんだか……でも、ベルがいると本当に心強いね。確かお父さんは」

 サンサは咳払いをした。ベルは何で止められたのか分かっていなかった。でも、ベルは大きなため息をつくと、なんでも質問してくる子どもを想像し、素直な目で自分語りを始めた。

「私と父は顔が似ていないの。ただ、似ていないんじゃなくて、全くなの。私の母とも違う。私はあるときに両親に尋ねたの。私の本当の親は誰って? 両親は驚いたけど、でも怒りも否定もしなかった。まるで罪悪感から神へ懺悔するかのように告白したわ……私は両親の本当の子じゃなかったの。私は訊いた。私は捨てられたの? そうなんでしょ? って……責める相手を間違えたけど、あのときの私は目の前にとりあえず八つ当たりするしかなかった……えぇ、自覚してる。あのときは私が愚かだった。両親はずっと私の本当の親については語らなかったけど、決して捨てたわけじゃないって断言したわ。私には意味が分からなかった。なんで捨てたわけじゃないのに、私は知らない人に育てられたの? って。今の両親に不満があるわけじゃないんだけど、でも、それを知ってしまった以上、私はあの家にはいられない。そのとき、あんたが来たってわけ」

 目でルーシーを指した。

「そうか……でも、いいの? その両親にはベルを本当の子として育ててきたんじゃない? ベルを育てると決意したその時からそういう思いでいたと思う」

「分かる。突然いなくなって両親に本当に失礼だなって思うよ。でも、私はあの家で甘えちゃいけないんだ。両親がそうして欲しくても、今の私にはそれが無理。だから、この旅で自分を試そうと思っている。もし、この旅を果たせたらもう一度、両親に会って話す。怒られてもいい。沢山謝って、それで、ちゃんと私の気持ちを話すよ」

「そっか。そう決めたなら私はそれ以上何も言わない」

「ありがとう」

「それよりこれからどうする? 結局船は手に入らないぞ」

「うーん……もう方法は一つしかないかな。冒険行く人の船見つけて乗せてもらうしかないかな」

「まぁ……だとしたら港かな」

「うん」

 こうしてルーシー達は切り替えて再び港を目指した。その列の最後尾にジャスミンはまた自分はドジってしまったんじゃないかと自分を責めた。どうも上手くいかないのは昔からで、自分は直したいと思っているのに、思っているように上手くいかない。そんな自分に嫌気が差したからこそ、変わりたいと思ってここまで来て、少しは変われたかと思ったのに、全然変わっていない自分にまたジャスミンは肩を落とした。得意なこともなければ、地理はもとより知らなくて、本当に情けない。でも、この旅で変わると決意した以上、私は変わってやるんだ。そして、私は自立出来る大人になってみせるんだ。




◇◆◇◆◇




 喧騒な都会というのはどうも私には苦手だなとルーシーは思った。あれ程、あの森から抜け出したいと思っていた自分だというのに、見てみれば意外と良いことばかりでないと沢山気付かされる。特に、賑わいこそあるが、人々との距離が軽薄に感じるのは私の勘違いだろうか。店のカウンターに立つ店員もマネキンみたいな死んだ表情をしているし、働く人々も余裕のない顔をしている。分厚い化粧をした女性に、皆似たような流行者を着て歩き、どこか個性を失ったかのような、主張らしき表現が服装からは現れてこない。あぁ、そういえば学校の制服もそうだった。誇張より協調、雰囲気を乱されたらきっと奇異な視線を向けられるんだ。だから、皆雰囲気を乱さないよう空気をつくっているんだ。男はほとんど長髪はいなくて、女の着る服装はスカートがほとんどだ。そう考えると、スカートを嫌がった私はまるで嵐のようにそれをかき乱してきたのかもしれない。

「クスッ……」

 本当におかしい。笑えるくらいにおかしい。

 もっと他の場所も知りたい。人酔いもしない、それでいて面白いものが見たい。ここは飽きる。灰色っぽくて、とても窮屈で息苦しい。頭がぐるぐるしそうだ。慣れてないせいだろう。でも、それだけじゃない。空気が悪い。毒かもしれない。目に見えない毒がこの都会には沈殿している。なら、早いこと都会に出た方がいい。ここにいては病気になってしまう。本当に。

 そんな時、港へ行く私達の遠い背後で男達のざわつく声が耳に入ってきた。振り返ると、あのリーゼント男が私達を探し回っていた。しかも、同じ頭をした仲間を引き連れて。周囲は「リーゼント族だ!」と次々と避けるように連中に道を譲っていく。そうして一直線に私達とリーゼント族の間に人はいなくなり大通りができた。

「探したぜ。まさかいなくなるとはな」

 どうやらここにも迷惑な奴がいたようだ。その長い頭でこれまでもさぞかし乱してきたんだろう。その凶器のような頭で。

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