偽物と本物
世界が終わりを迎える。それは巨大な地震と嵐と噴火というものではない。隕石が空から降ってきて全人類が絶滅することでも、海面上昇によって全てが海に沈むことでもない。ジグゾーパズルを高いところから落とすように、繋がっていた1ピース、1ピースが剥がれていくように、地面と空が崩れていくのだ。剥がれピースの隙間から闇が覗く。そこには何もなく、生き物も植物も自然も空気も光も無い。虚無がそこにあり、さっきまで生活をしていた人々はその虚無へと放り出される。だが、恐怖は一瞬で終わる。虚無である以上、そこに人も物も自然も存在していられない。虚無に放り出された人々や瓦礫や自然は虚無に入った瞬間に消滅するのだ。
誰が世界の崩壊を想像出来ただろうか。多くは世界の崩壊の前に寿命をむかえるだろうと誰もが思い込んでいた。だから、世界がゆっくり崩壊に向かっていても、その予兆を危機として察知する者は学校を卒業した知識人ですら予見出来なかった。
僅か、予見したのは学校を飛び出した少女だった。だが、その少女も世界の崩壊、ラグナロクを止めることは出来なかった。
「ご苦労さま。あなたの役目は終了よ」
ヴェロニカがそう言うと、怪鳥の背中から飛び降り『偽』風のルーンで自身を浮遊させた。エリミネーターである怪鳥は世界の崩壊を招き、それは自身の消滅をもたらした。
肉体は灰のように空に舞い、ルーシーの左上腕に刺さるような痛みが走る。
怪鳥が宿していた風のルーンがルーシーに刻まれたのだった。
だが、結局崩壊は止められなかった。
全てが失われ、この世界、ユグドラシルは完全に消滅する。
崩壊の合間、まだルーシーは無事だった。ルーシーは新たに手にした風のルーンを使ってヴェロニカ同様空中を飛び、二人は向かい合った。だが、その空間もいずれ消滅する。時間の問題だった。
「たかが人間がラグナロクを本気で止められると思ったわけ? 預言は絶対なのよ。これがこの世界の運命ってわけ。あなたもいずれ死ぬ。最後に言い残したいなら今のうちよ。私が聞いてあげる。あなたの最後の言葉を」
「お前達のことは知っていた。お前達が意識だけの存在だってことは」
「……」
「これはヴェロニカの意志だったのか?」
「!?」
「いいや、違う。お前はヴェロニカじゃない。アンノウンに支配されたただの駒だ」
「私が偽物だって言いたいならそうよ! 私は本物なんかじゃない。結局、私は全てが偽物だったのよ」
「でも、もしヴェロニカの意志に本物が残っていたなら……まだ、望みを残してあるんでしょ?」
「!?」
「あなたは納得してやったの? 原初神の復活だっけ? あなたの性格じゃ原初神なんて本当はどうでもいいんでしょ? いつまで組織のメンバーのふりをしているの? 私があなたの最後の言葉を聞いてあげる。だから」
「ムカつく。なによ、私が勝ったのよ。なんで私が負けたみたいな……本当にムカつく女ね。こんなことじゃなきゃ、あんたのこと嫌いじゃなかったのに」
「それがあなたの本当の言葉ね」
「あーあ、もういいわ。本当に……」
すると、視界が徐々に白くなっていく。光に包まれたヴェロニカは最後にどんな顔をしたのか。それはルーシーには分からなかった。最後に何かヴェロニカは言ったようだったが上手く聞き取れなかった。
だが、ルーシーにはなんとなく分かる。
本音でぶつかり合った僅かな時間だったけど。
あいつはどこか本気じゃなかった。
エリミネーターも。
多分きっと完全には支配されてはいなかったんだ。
ルーシーはそう思うことにした。
気づいた時にはルーシーは別の場所に立っていた。
「やぁ、久しぶりだね」
その二人の声をルーシーは覚えていた。
それは人の姿をして人ではないもの。
『愛』のエリミネーターだった。
◇◆◇◆◇
その頃、円卓の場ではスタンフィールドともう一人が着席していた。
「自ら消滅を望んだか……」
スタンフィールドはそう言った。もう一人は無言のままだった。スタンフィールドはそのもう一人の方を向いた。
「さて、次はお前が役目を果たす番だ」
スタンフィールドが向けたのは六人目のルーシーそっくりの少女だった。




