最後の冬【05】
怪鳥が現れた直後、巨大な積乱雲スーパーセルから回転を更に増した竜巻が発生しだした。その竜巻は通常の細長いものと違い規模が巨大なものだった。
「皆は逃げて!」
ルーシーがそう叫ぶと、サンサ達は一斉に後方へと全速力で走り出した。
巨大な自然災害級の竜巻を発生させたあの力は間違いなくルーンの力…… 。
ルーシーは水のルーンで竜巻の下部から一気に冷却にかかった。竜巻は徐々に勢いを失い消滅していく。
それを見た怪鳥は鳴き声を上げた。多分、あれは怒っているのだろう。
怪鳥が巨大な羽を羽ばたかせると今度は鋭い風が刃のようにルーシー目掛けて飛んできた。ルーシーは自身の手前に巨大で分厚い氷の壁を一瞬でつくり防ごうとしたが、鋭い風はその氷の壁を貫き、ルーシーの片腕を僅かにかすり、鋭い線の傷をつけた。そこから血が流れるのを一瞥したルーシーは舌打ちすると、今度は反撃に出た。まずは砂のルーンを発動させ怪鳥の目を砂で覆わせ視界を奪った。手がない怪鳥にとって風で飛ばそうものならその鋭い風が自身を傷つけることになる。そうと分かってやったルーシーは宣言通り火のルーンを発動させ、怪鳥目掛けて火球を放った。
「焼き鳥になりやがれ!」
ルーシーの手から放たれた火球は勢いよく飛び、ヴェロニカは怪鳥に向かって「ちょっと避けなさいよ!」と叫ぶも、視界を突然奪われた怪鳥は混乱状態で冷静ではなかった。そしてそのままルーシーの火球を直撃すると火球は勢いよく怪鳥を覆い全身を焼き始めた。
怪鳥は悲鳴のような鳴き声を放つ。
ヴェロニカはそれを見て「何やってんのよ!」と左手甲にある『偽』水のルーンを発動させた。
「あれは!?」
放たれた水は直ぐ様怪鳥を覆った炎を消していく。
「ふん、あんたの水のルーンみたいに冷却に使ったり温度を上げたりは出来ないけど、それでもあんた以上に私の方が多く技が使えるのよ。例えば」
ヴェロニカはそう言って右手人差し指を突き出し、ルーシーを指さすと刹那強い光が発光した。
バチッ!
それは一瞬だったがルーシーの胸を貫いた。
ルーシーは即座に胸をおさえ倒れ込む。
「威力は弱いけど雷の『偽』ルーンよ」
ヴェロニカはそう言ったがルーシーの体に強い電気が走ったのは事実だ。雷に打たれたみたいに胸の辺りの血管が変色している。
ルーシーは血を「ペッ」と吐き出すと、立ち上がり、ルーシーは水のルーンで雨を降らした。
「バカそうに見えて頭が回るのね。ムカつく」
「ねぇ、あんた一人? 他に仲間がいるんでしょ」
ヴェロニカは舌打ちした。
「私一人よ。私だけじゃ不満なわけ? 言っとくけどあの時よりこっちは偽のルーンを増やしてるんだからね。それに対してあなたが使えるのは火と水と砂……あと移動系のルーンだったかしら。おそらくは空間かしら」
「さぁね。言うわけないじゃん。あんたみたいにべらべら喋るバカじゃないんだから。あ、ごめん。傷ついた?」
「死ねっ!」
ヴェロニカは風の『偽』ルーンで怪鳥がしたみたいな風の鋭い斬撃みたいなのを放ってきた。
「風の一閃」
ヴェロニカはその技を連続で放っていく。ルーシーはとにかくそれを避け続けた。一閃は地面に突き刺さり、穴を次々とあけていく。
ルーシーは避けながらも火のルーンで応戦した。
火球を次々とヴェロニカに放ち、ヴェロニカは左手で下から水を発生させ水の壁をつくるが、水の量が足りないのかその壁は薄く、火球は簡単に貫きヴェロニカの服にかすると、そこから炎が意志を持ったように広がり始めた。
「面倒な能力!」
ヴェロニカは自身を水で濡らし、なんとか燃え上がるまえに沈下させた。だが、体は早くも火傷をしヒリヒリし始めていた。
「あんたの『偽』のルーンについてはだいたい分かったよ」
「なにが分かったって?」
「操れる水の量も威力も本物に比べれば屁の河童ってことよ!」
「ナメんなぁ!! こっちがどれだけルーンを解明しコピーを生み出してきたか」
「知るか」
「いいわ。見せてあげる。とっておきの私の最大の切り札を」
ルーシーは身構えた。ヴェロニカは嘘は言っていないと直感したからだ。だが、ヴェロニカは直ぐに切り札を使ってはこなかった。ヴェロニカは空を飛ぶ怪鳥へ振り向いたのだ。
「お前も少しは役に立てみせろよ。それでも神の生まれ変わりのエリミネーターか? お前の最大限の力を見せてみろ」
怪鳥はそれに答えるように大きな鳴き声をあげた。だが、怪鳥の目はルーシーの砂のルーンとさっきの火球で潰されてしまい、視界は塞がれたままだった。
それをヴェロニカが右腕にある『偽』ルーンを発動させ、人差し指から熱線を放った。怪物の眉間あたりにルーシーがまだ知らないルーンを刻むと、途端にルーシーは怪鳥から鋭い視線を感じた。
「あれ、怪鳥の目の役割をしてるのか!?」
「あら、野生の勘? そもそも本当にあなた人間? ルーンを宿すのも複数を使いこなすあたりも……」
ヴェロニカは六人目のルーシーそっくりの女を思い出し、ルーシーがただの少女ではないのではないかと疑心になっていた。
だが、ルーシーはなんのことかと「はぁ?」とマジのトーンで返してきた。
「まぁ、いいわ。どうせ殺してしまえば関係ないんだから」
「死ぬのはあんたら。私じゃない。分かったかおバカさん」
ヴェロニカは舌打ちした。
「殺す!」
それから二人は暫く睨み合った。
そして、最初に動き出したのはヴェロニカだった。
「しなれ!風鞭」
「!?」
ヴェロニカが発動したのは『偽』風のルーン。だが、さっきの弾丸みたいな風の一閃と違い、利き手から風の鋭い一線が突然曲線のように曲がりしなるように変則的に方向を変えながらルーシーのところへ飛んできた。
パチン!
ルーシーは避けられず咄嗟にガードした左腕に鞭のようにあたり、更に風の刃が皮膚を切り裂いた。大きな致命傷とはならなかったが、風に切られたルーシーの切り傷から血がドバっと吹き出した。
だが、対するヴェロニカの周りを一瞬で炎がつくり出す巨大な蛇に囲まれ、ヴェロニカは逃場を失っていた。
「さっきの仕返し」
「エリミネーター!」
ヴェロニカは怪鳥を呼び、怪鳥は突風を起こしながら炎の蛇に囲まれたヴェロニカを救い出した。
「あの女、エリミネーターと連携してやがる」
ルーシーはそう言いながら空を見上げた。
怪鳥の背に乗ってルーシーを見下ろすヴェロニカ。
ルーシーは空を飛ぶ怪鳥に向かって火球を飛ばし続けた。
怪鳥はその火球を次々と回避していく。
「どうした? 切り札があるんじゃなかったのか? 使えよ早く」
ルーシーはヴェロニカに対して煽り続けた。
「ふん、切り札は最後にとっておくものよ。火災旋風」
怪鳥が起こす竜巻とヴェロニカの『偽』火のルーンの合体技で、炎の竜巻が目の前で上がった。ルーシーはそれを見て鼻で笑った。
「火は私のルーンで操れるの忘れたの?」
「あ、そうだった」
「間抜け」
ルーシーが生み出した炎の蛇が炎の竜巻に突っ込むと、一瞬飲み込まれたかに見えた蛇が逆に竜巻を乗っ取り、渦は巨大な炎の蛇の渦へと姿を変えた。
「ふん、仕方ないわね。なら奥の手よ」
だが、そう言う前にルーシーは何かを指さした。
「え?」
ルーシーが指さしたのは怪鳥の足の裏、そこにルーンが刻まれていたのだ。
「お前、この刻印でエリミネーターを操ってたんじゃないの」
ヴェロニカは舌打ちした。
「だから何よ。どうせあんたは終わりなんだから!」
ヴェロニカはそう言うと、両手を天に向かって伸ばした。すると、陰鬱な空から光が射し込み始めた。それは暗闇の地上から神が降臨してくるかのような神々しい光が眩しく光った。
「な、なんのルーン?」
「あんたは私が生み出したコピールーンを偽物だって言ったけれど、あなたの使うルーンだって本物と言えるかどうかは分からないのよ」
「どういう意味?」
「つまり、原初神から生まれた神々のルーンは元は原初神のもの、力だってことよ。そして、これはその原初神のルーン」
「まさか!?」
「これは光り輝く剣、そして終わりの宣告。世界にラグナロクを起こし、我々の目的は完遂する。この技の名はレーヴァテイン! 死にな」
「やらせるかぁぁ!!」
炎の竜巻を取り込んで巨大化した炎の蛇が大きな口を開いて空を飛ぶ怪鳥とヴェロニカに襲いかかった。だが、それはもう手遅れだった。
一瞬、天から光が振り下ろされ、それは炎の蛇を口から奥へ一線に貫き、そのまま地面へ突くと更にその奥、ユグドラシルの核まで突き進んだ。
ラグナロク。
最後の冬に起きた出来事。
終わりの始まり。




