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ラン・ルーシー  作者: アズ
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最後の冬【03】

 ルーシー達がルーンを求め別世界へ移動すると、その世界でも雪が降っていた。どうやら世界のあちこちで『最後の冬』が訪れているのはあの大婆様の預言通りだった。

 時間があまりないルーシー達はとにかく連中の手掛かりとなる情報を求め移動を始めた。その数分後、最初の住人を見かける。その人物は寒そうに襟を立てながら一人男は歩いていた。




◇◆◇◆◆




 その男は昨年まで断食芸人をしていた。だが、それも遂に職を絶たれていた。世界規模で起きる食料難民の増加により、誰もが飢えと戦っていたのだ。それに対して彼の芸はそんな民衆達に大きな反感と嫌悪を明らかに与えた。結果、彼は長年続けてきた彼にとって人生でもある断食芸の人気は失われていった。だが、元々男に予兆が無かったわけでは無かった。一部、断食芸の何が面白いんだという冷たい言葉が投げかけられたことはあった。だが、そこに観客がいれば男は芸を続けた。今ではどうして断食芸が流行ったのか、何で人気だったのか、かつての観客ですら記憶にないだろう。そして、断食芸は結局一発芸でそこまで面白くなかったという記憶が上書きされる。それがこの男にとっては辛かった。かといって自ら自分の芸を捨てて新しいものに飛び込むことに嫌気があった。それまでの芸を自ら否定した気で嫌だったし、周りに惑わされ自分の芸というものを見失うんじゃないかという不安があったからだ。しかし、そんな心配以上に男はこれからどうやって食っていくのかという心配をしなければならない事態になっていた。体を張った芸を続け身体をボロボロにしても、人を長く楽しませるのは思った以上に大変だった。それは芸人になると決める前から覚悟していたことだったが、こうも現実を思い知らされると男は孤独感に苛まれた。家族には今更頼るわけにはいかないし、相棒がいるわけではない。フリーでやってきた男に次の就職先があるわけでもなかった。

 男はただ一人、襟を立て顔にかかる冷たい風避けにしながら雪が降り続ける道をゆく宛もなく彷徨うように歩き続けた。

 すると、向こうから少女数人が歩いてくるのが見えた。




◇◆◇◆◆




 第一村人に早速ルーシー達が声を掛けて話しをすると、男は断食芸人だと知った。聞き覚えのない言葉にルーシー達がそれは何か訊ねると男は一瞬驚いた反応をしてから、少し寂しそうな顔をルーシー達に見せた。男は「そうか……君達の年齢になると断食芸人すら知らないんだな」と言ってから断食芸について説明をしてくれた。それによると自ら檻の中に入り監視人の目の前で断食を披露し、断食日数の記録を更新して皆から歓声を受けるということらしい。だが、男はその仕事をぱたりと失ってゆく宛が無く、とにかく風避けになる場所を探していたんだとか。

 ルーシーは火のルーンを使って男に熱を与えた。男はそれに驚き今度はルーシーが男にルーンについて説明をした。

 男は半信半疑で本当に理解出来たかは怪しいが、自分達が変わった『塔』を探していると話すと、男は心当たりがある顔をしてから男はとある方角へ指さした。

「あっちにそれらしい塔ならあるけど」

「ありがとう」

「なんだかよく分からないけど、まぁ頑張って」

「おじさんもね。ねぇ、これからどうするつもりなの?」

「どうするかは分からない。行き当たりばったりはこれが初めてじゃないし、なんとかなるよ」

「断食芸のことはよく分からないけど、それ辞めたら?」

 ルーシーは悪気なくそう言った。それは男も分かっていたし、誰かにもそう言われた。辞め時が来たと男も思っている。それは男が自分の意志で自由とは無縁の檻に自ら入って断食をするという強要されたわけでも罰せられたわけでもない矛盾した行為が世間から理解されなくなって冷めてる時点でもう辞め時だった。だが、男はそれでも自分の芸を芸人として貫きたいプライドがあった。

「ありがとうな。だが、俺にはこれしか食えていけん。それで食えなくなったとしても、断食芸人としては万々歳だ」

「バカ」

 だが、男は断食芸人を結局は貫くことを決意し考えを変えるつもりはなかった。

 ルーシー達は結局、男が指さした方角へ向かった。男は少女達が行くのを見届けてから橋の下を見つけ、そこで雪風を防いだ。

 すると、男の腹が鳴った。

「そういや何も食べてなかったな……」

 地べたに座り込むと、その地面には雪が積もっていた。それをすくって暫く見つめてから男はハッと我に返りそれを遠くへ投げ飛ばした。雪は地面に落ちて積もった雪と同化した。

 男は最後に食べた日を思い出す。

「お! そういえば新記録かもな」

 男はそう言って暫く休むことにした。少女がかけた魔法で男はその分記録を伸ばすことが出来た。それがこの男の最後の冬だった。




◇◆◇◆◆




 ルーシー達は男が教えてくれた方角へ進むと本当にそこに塔が建っていた。そして、その塔の前にあの女が立っていた。

 それはヴェロニカだった。

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