最後の冬【02】
暫く外をルーシー達が歩いていると、道に人集りが出来ていた。一つの幌馬車に複数の家族が大きな荷物を持って乗り込んでいるところだった。それを町の住人達が見守っていたのだ。家族全員が乗り込むと間もなくして馬車が動き出し、町の出口へと走り去っていった。それを住人は見届けていた。中に深いため息を漏らす者までいた。
「どこへ行こうと同じさ。むしろ都会の方が食料不足で厳しいというのに」
「本当に……全く世界はどうなってるんだろうね。あちこちで雪が降るなんて」
「早いとこ春が来て欲しいよ。ずっと寒いままじゃ嫌だよ私は」
「でも、大婆様が言ってたよ。もう春も夏もやって来ないって」
「まさか大婆様の言う通りになるなんてねぇ……このまま私達は世界と共に終わりを迎えちまうのかい?」
老婆達の会話を耳にしたルーシー達は顔を見合わせた。世界の終わりとあの老婆は確かに間違いなくそう言った。
ルーシーは「あの、ちょっといいですか」と老婆に話し掛けた。
◇◆◇◆◆
老婆の話しをまとめると、この町にはよく当たる預言者(占い師)という大婆様がいて、その人が災害や町の危機を預言して、それを回避する為の助言をしたりするのだが、その大婆様は昨年の今頃辺りに一つの預言をした。それは近い日に長い冬が訪れ、それは徐々に酷くなるだろうと。太陽は雲に覆われた空で隠れ、それすら見ることは叶わなくなる。長い冬は不作をもたらし、食料不足を引き起こし世界中で大混乱に陥るだろう。しかし、それを打開する手立てはなく、世界は最後に終わりを迎える。これが私達にとっての最後の冬となるだろう。そして、数ヶ月後、大婆様の言われた通りに雪が降り始めた。春は訪れず、夏も雪が降り続き、そして遂には秋を過ぎて冬になってしまった。それは世界中で起きていて、各地にいる預言者もまた大婆様と同じ預言をしたのだと。
老婆達は最後に大婆様の居場所を教えてくれた。
「詳しいことを聞きたいなら大婆様に会ってみるといいよ」
ルーシー達は老婆にお礼を言ってから早速教えてくれた大婆様に会いにその家へと向かった。
大婆様の家は町を出て少し離れた小さな丘の上にちょこんと民家が建っていた。煙突からは白い煙がむくむくと立ち上がっており、ルーシー達はその家の玄関の戸を叩いた。
「すみませーん」
暫くしてから内側から扉が開くと、中から白髪に黒いローブを着た年寄りが現れた。シワシワの顔と手に小柄、見た目はまるで魔女のようだった。
「ほぉ……来たか」
「?」
「すると、お前がルーシーか」
「どうして私の名前を!?」
「お前だけではない。それにそろそろお前達がやって来ることも分かっていたわい」
「もしかしてそれも預言?」
「とにかく外は寒い。中に入りなさい」
そう言って大婆様はルーシー達を中へと招いた。ルーシー達は首を傾げながらとりあえずお言葉に甘え中へとお邪魔させてもらうことにした。
中は温かく、暖炉には薪が燃えパチパチと音を鳴らしていた。
「さて、どこから話したらよいか……そうだな、まずは私が何故君達が来ることを知っていたのか、それから話そうか。先程ルーシーが言った通り、ワシには未来を見る力、預言の能力がある。これは天性のようなもので遺伝で引き継がれるようなものではない。預言者は決まって小さい時から能力に目覚め、それから自分が預言者だと分かるようになる。ワシが世界の終わりを預言したのは昨年の今頃だ。そして、今年の冬をもって世界は終わり、ラグナロクを迎える」
「!?」
「ワシは必死にどうやったら世界の崩壊を回避出来るのか占った。だが、どの占いも結末は同じだった。唯一の救いの可能性があった君達が言うところのエリミネーターとやらに頼る方法も考えたが、占いは変わらず崩壊の未来をワシに見せた」
「エリミネーター!? それじゃ」
「エリミネーターを探しにここまで来たのだろ?」
ルーシーは頷いた。
「知っての通り、ユグドラシル崩壊を企む連中がいる。そして、そのボスであるアンノウンがこの世界へ迫ってきているのだ」
「アンノウン!?」
「それってルーシーが言ってたやつだよね」とサンサは訊いた。
「アンノウンを止める方法はない。この世界のエリミネーターをもってしてもだ。君もそれを理解して、アンノウンを対抗する為に力となるルーンを集めているのだろ?」
「それじゃ早くそのエリミネーターの場所を」
ルーシーが言いきる前に大婆様は待たず首を横に振った。
「エリミネーターは死んだ」
「え!?」
「もう、どの世界を探してもエリミネーター、ルーンを見つけることは出来ないだろう」
「そんな……でもどうして!?」
「アンノウンの手下の仕業さ。連中は君が世界を回ってルーンを探していることを知り、その前にアンノウンが手を打ったのだ」
「手を打った?」
「お前達がまだ出会ったことがないメンバーの一人が世界中のエリミネーターが持つルーンを片っ端から奪っていったんだ」
「え、奪った??」
「勿論、その奪ったルーンを組織の連中は自分に宿すことは出来ない」
「それはどうしてですか?」とサンサは訊いた。
「連中は一度死んでるからだ」
「死んでる!?」
「魂のない死体をアンノウンの力で過去の意識を宿させ擬似的にゾンビのように活動を可能にさせているからだ。だが、さっきも言った通りそれは魂ではない」
「どういうこと?」とベルは訊いた。
「これは説明が難しいのだが……そうだな、例えば物や場所には過去の思い出という『意識』が宿ることがある。それが悪さする現象を悪霊のせいだと言われたりするが、あれは魂というより過去の『意識』だな。それは死体にもある。魂はそれだけ強大な力を持っていて、周囲に痕跡を残すだけでなく暫く周囲に影響を与えるのだ。だから生霊も魂から放たれた『無意識』によるものってことになる。だから、魂ではないのだよ。魂は必ず死後の世界へ送られるのだからな。さて、さっきの話しになるが、アンノウンはその人がもたらす『意識』に着目し、それを利用して自分の駒を生み出したんだ。それが連中さ。そしてその駒にはボードゲームのようにそれぞれに役割がある。駒はその役割を果たしながら目当てであるラグナロクを引き起こすというわけさ」
「もしかしてアンノウンって……」ルーシーは今の話しを聞きながらある可能性を思いついた。
「ほぉ、お前さんも気づいたか。アンノウンの正体に。実はワシもそうじゃないかって考えてたところだ。だが、正体が分かったところでアンノウンを倒す手立てを失った今、もうアレを倒すのは不可能になってしまった」
「そんな……」とジャスミンは言った。
でも、ルーシーはまだ諦めていなかった。
「どれくらい時間がある?」
「ん? あまりないが」
「まだ残ってるルーンがある」
「ほぉ……」
「連中の支配下にあるエリミネーターだ」
「成る程、それならまだルーンが残っているか。しかし、あまり時間が残っていないぞ」
「そこをなんとか時間稼ぎ出来ない?」
「アンノウン相手に時間稼ぎか……随分無茶を言う。だが、なんとかやってみよう」
「ねぇ、預言は絶対じゃないんでしょ?」
「選択によって未来が変わる。それは枝分かれした選択肢の先にある未来のようにな。だからワシらは『行動』するのみさ。人が運命論の自由意志の衝突を考えた時、選択も決定されたものとして考えるよりワシはそれぞれの選択(自由意志)の先にある運命が絶対と考えるようにしている。つまり、人間には選択と行動によって足掻くだけの手段は残されている」
それを聞いてルーシーは少しだけ笑顔になった。
「それとルーシー。行く前に言っておくことがある。ルーンを奪って回った謎多き六人目についてだ」
「六人目?」
「アンノウンが最後の駒に用意したものだ。そいつはずっと動きがなかったのに、突然動き出した。その……」
「なに?」
「……そいつはお前にそっくりなんだ」
「え……」
◇◆◇◆◆
場所変わって組織のアジト内部、円卓。
そこでヴェロニカはスタンフィールドに会っていた。
「どういうことなの!? あなたも新入りの顔を見たでしょ? どうしてあの女とそっくりな姿してるのよ。あいつ全身焼かれて皮膚のない死体だったでしょ? それがどうして」
「それを聞いてどうする」
「え? どうするって」
「あれはあの御方が最後に用意した駒。つまり、特別ということだ」
「特別……それって私達よりってこと?」
スタンフィールドはヴェロニカの問いに答えなかった。それがヴェロニカには腹が立った。よりにもよってあの女のそっくりが自分より特別だということに。
「ムカつく!」
ヴェロニカは拳を円卓に振り下ろし殴りつけると、ヴェロニカは怒りのままその部屋を出て行った。




