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ラン・ルーシー  作者: アズ
7/91

凶器の頭 【1】

【地名】


オリヴィエ《森》…ルーシーの故郷

アストル《街》…別名ガーゴイルの街

毒砂……《砂漠》…マスクとゴーグル必須。でなければ毒にやられる

マーニ《都会》

モナ《港町》


【生き物】

馬……6本足で二本の前足、四本の後ろ足を持つ

鴉……生物の死骸を食べるが人間には危害がない。不吉の象徴と言われたりする



【知識】


①『毒砂』や『死んだ土地』『痩せた土地』があるのは基本人間の科学の仕業。その点、オリヴィエはまだ影響がない。その周辺は豊作。


②文字は表音文字と表意文字の二種類あって、学校では表意文字を習う。義務教育を受けなかった国民が一定数いた為にこの表意文字が分からない大人もいたりする。


③世界は一つではない。平面説を証明し、海の落下地点から下に落ちると、そこにもう一つの世界がある。その世界を全て旅した詩人がいて、その人物の冒険譚を記した著書にルーシーは影響を受ける。

 太陽の反射で時に眩しくなりながら、穏やかな、しかし、時に気性荒く、まるで生きているよう。そこには沢山の命の住処でもあり、それを人は時々釣ったり漁をしたりして、その命を頂く。そうして当たり前に頂いていた私は食卓に顔を出すそいつが住む広大で深い海を知らずに生きてきた。私はそれを今友人達と共に甲板の上から飽きることなく眺めていた。この海の向こう側にはまだ私達の知らない世界がある。不安と好奇心がアンバランスに好奇心が上回って、その先の地平線を見つめる。

 時は流れ、船にある砂時計が落ちる頃、反対側から『マーニ』が見えてきた。

 その街並みは、まず石造りに幾何学模様がデザインされ変わったかたちの建造物が幾つも現れた。建築様式にも色々ある感じがし、その空間の中には自然をぽんと突然取り入れた独立樹がある。それはまるで灰色の景色に緑を足し、景観を飽きさせない役割を果たしていた。

 変わったデザインと言えば、海沿いに一つ、リーゼント(ダックテールとポンパドールの組み合わせをここでは以下リーゼントとあえて表現する)のような片持ち梁の窓がないコンクリートの建造物があった。そこに意味や機能性というよりも、芸術的デザイン性によって生み出されたものに見えた。所々におかしな建造物があるのは、都会に住む建築家の芸術的センスだろう。

 すると、船員の一人が私達に声を掛けてきた。

「そろそろマーニだ。降りる準備をしておいてくれ。あと、知ってると思うが、マーニではおかしな病が流行している。噂では毒砂が風で運ばれたからだって言う奴もいるけど、それだったらもっと前から流行してなきゃおかしい。とにかく噂は信じるな。本や先生より信憑性がない。無知が広めた嘘だ。それを信じたばかりに手遅れになる奴らの方が多い。世の中そんなもんさ。だから、君達もマーニに長居しない方がいい。病にかかる前に出ることだ」

「ありがとう」とルーシー達はお礼を言った。

「それではよい旅を」

 赤い船は都会の港に着くと、ルーシー達は荷物を持って降り始めた。全員荷物は背負える鞄で両手は手ぶらでいた。それが旅の基本だと本で学んだからだ。

 港には他の大型船があり、まず見ることがない他国の国旗が掲げられた船もそこに混じっていた。白い旗に黒い太陽を意味するシンボルが記された旗。旗は象徴であり、国旗以外にも店や会社のシンボルとして入口近くに掲げられたりもする。旗はどれも傷つければ厳しい罰則が課されるのはどの国でも同じで、警察に逮捕される。他国の国旗の場合は事情が異なりその国に身柄が引き渡され、その国の法で裁かれることになっていた。自国の国旗を掲げる場合はそれを汚すことが禁じられている為、注意する必要がある。

「あれはケシスの船だね」とサンサは国旗を見てそう呟いた。

 ジャスミンは「へぇー」と言ったが、国は学校でも学んできたことだ。

 ケシスは鉄と火薬の国とも呼ばれ、武器を大量に生み出しそれによる利益を得た一方で、それによる事件が多発し治安は悪化した国だ。鉄の採取で森も削られ、無惨な姿をしている。それによって生み出された黒い謎の生き物が突然出現し出すと、その黒い生き物は人々を襲い、襲われた人間は死んだまま他の人間を襲い始め、今では黒と人間との対決が起きているのだとか……口碑によれば、ケシスの三代目国王は利益の為に悪魔と取引した結果、悪魔がその国に現れるようになり、それが黒い生き物の正体で、悪魔と取引した国王は不死身となり、その姿は醜い怪物にされ、四代目国王が三代目国王を地下深くに封じたと言う話しだ。話しが本当なら三代目はまだ太陽の届かない地下深くで生きている可能性がある。冒険家であり詩人家はその三代目の国王を探し確認をしようとしたが、途中で断念したと冒険譚に記されてある。

 だが、私達はケシスに用はない。行くのは地平線の向こう側だ。その船を手に入れる為にここへ私達は来たのだ。

 国は世界を旅しようという冒険家に賞金を出す政策を出しており、国王は新たな開拓地を探しているようだった。私達はその賞金と与えられた船で冒険が出来るというわけだ。

 役場までは地図があるのでそれを辿って行くことにした。

 通り道には女性の白い彫像があり、背中に翼を生やしていた。あれは天使? 人の神は人の姿をし、人の悪魔は人を醜くした姿をしているというのがこの国の宗教だ。

 サンサは街のパンフレットを見ながら「違法行為した者が現れたらあの彫像が動き出し捕らえてくれる魔法が仕掛けられてあるんだって」と説明してくれた。

 ジャスミンは「へぇー」と相槌した。

 マーニを取り囲む巨大な壁は他の街の壁より高い設計であったが、現在はその老朽化した壁を取り壊す工事が進められていた。壁に関しては壁の補修が何度もされてきた痕跡があちこちで見られるが、いつ倒壊してもおかしくないことから取り壊しが決定された。その後、新たな壁の建築がなされるのかと思えばそうでもなく、その後は大きな通り道にするということで、現在は半分までは着工を終えており、残り半分という状況だった。

 ルーシー達は港から役場までは距離がある為、途中からランドー(馬車)に乗った。移動用タクシーのようなもので、都市部ではよく見られる移動手段だ。そのランドーから圧倒される街並みを見惚れながら役場まで向かった。

 途中、玩具屋の前で小さな子どもが大泣きし、それを見て困り果てている母親の姿があった。その後で自分の財布を取り出し覗き込んだところを見ると、子どもの駄々にお母さんは敗北したようだ。泣く子と地頭には勝てぬという言葉がある。道理が通じないのはあの教師達も言えた話だ。だから、無言で従うのでなく、無言のまま逃げ出すだけだ。だが、親はそうはいかない。生活に関わる大人達も会社のお偉いさんからは無理にでも従うしかない。例え違法行為であっても、それに従わなければクビを宣告される。そのくせ、社会は理不尽でトカゲの尻尾切りに合う。腐った世の中だ。だから逃げ出すことも時には必要だ。でも、逃げ続けることは出来ない。その先にだって試練はあるのだから。




 役場に到着すると、私達はその建物の中へ入り受付にいる職員に声を掛けた。

「あの、すみません」

 職員は中年男性で黒縁メガネを掛けていて、黒髪が薄くてっぺんが剥げかかっていた。その男は私達を見て、口ではなく目で ん? と言葉にした。

「君達、学校はどうした? 何故子どもだけでここにいる? 親はどうした?」

 すると、ベルがルーシーに「逃げよう」と耳打ちした。

 仕方なく、私達は一斉に走り出し逃げ出した。

 そりゃ怪しまれるのは当然だ。船に乗るときだって怪しまれはしたが、乗り切れたからその調子で役場に行ってはみたがそう上手く続きはしなかった。

 逃げる私達を複数匹のくちなわが現れシーッと声をあげながら追いかけてきた。

「あれに捕まらないで!」とサンサは叫んだ。

 魔法の一種で、くちなわに捕まると、それはたちまち体を縛りつけた後で縄になる。食らいつきはしないが、兵士が使うくちなわは捕らえられたあとも抵抗すると、毒を持った牙で首を狙い食らいつき、とどめを刺すものもある。

 足は私達の方が速かった。建物から出た私達は更に遠くへと逃げた。




◇◆◇◆◇




 かなり走った。追手がいないことを確認した私達は呼気を整える。すると、そこに怪しさ満点30代くらいの男が現れた。リーゼントに服の上のボタンを外したところからは剛毛が見え、白いブーツを履いていた。そしてその男はいきなり私達に「やぁ」と声を掛けてきた。私達はそんな男に警戒する。

「そんな怪しがらないでくれないか。俺は怪しい人じゃない」

「いや、怪しいんだけど!」

「それより君達を保護しようと恐らく職員や警察が君達を探し始める頃だ。どんな事情かは知らないが、もし良かったら隠れ場所を提供しよう」

「怪しい!」

「勿論、断ったって構わない。どうする?」

 サンサは即答で「絶対信用出来ないよ」と言ったが、ベルは反対に「いや、そうしてもらおう」と言った。サンサは即座に「どうして!?」と訊くとベルは「弱いから」と答えた。

「いざとなれば私が倒す」

「ひ、酷いな……」

 ルーシーは悩んだ。護身用のナイフくらいの武器なら持っている。いざとなれば抵抗は出来ると思うけど……ルーシーは自然と男の凶器のようなリーゼントを見た。

「俺のイカした髪型が気になるのか? 無理もない。カッコいいだろ?」

「うん、ついてこう。この人なら大丈夫だよ」

「いや、今酷い悪口に聞こえたんだけど」

「案内して」

「う……いいだろう」

 こうして、私達はリーゼント男についていくことにした。そして、案内されたのが甲板で見たあのリーゼントみたいな建物であった。

「……」

「これが俺のイカした家だ」

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