砂のエリミネーター
目の前の傾斜がきつい砂の山を登りきると、その天辺でヤンは口笛を吹き始めた。それは遠くまで飛び、暫く待ってみると今度はどこからともなく口笛が返ってきた。
「仲間からだ。このまま真っ直ぐ進めと」
口数がすっかり減って沈黙していたサンサ達に微かな希望が差し込み照らされた気分になった。さっきまで足取りが重かったのが少しだけ軽くなった気分だ。
それから砂の山を降りると、更に続く砂の山をあと二つ越える必要があり、あとは気合いで乗り越えるしかなかった。
既に体中は湧き出る汗が服の中で垂れて、それを吸い込んだ服は重みを増していた。ルーシーは後ろを振り返ってみたらジャスミンの顔がげっそりとしてミイラみたいになっていた。人間、干からびたら本当にあゝなるんだなと思った。この中で一番体力がないから、体力には自信のあるベルが肩を貸している。でも、身長差が二人にはあるから、腕を伸ばしているジャスミンはそれでも辛そうだった。シーラはというとベルの後ろをついて歩いている。ベルの背中の影に隠れることで多少マシになっているのだろうか? あんまり変わらなそうな気がした。
対して他の皆は私達よりまだ体力があるような雰囲気だ。勿論お互い大変で辛いんだろう。それでもあまり表情に出ていなかった。ただ、額から汗が流れ出ることはどうにも出来ない。
もう一つの山を私達は登り始めた。
一歩足を踏み出すと、ずしりと足が砂に沈んでそのままだと砂に埋もれ靴の中にまで砂が侵入をしようとする。その前に足を前に出す。だから足腰が一番負担がかかる。だから足から疲労が伝って次に痛みが電気信号のように伝って一方で足から一番遠い脳では太陽を恐れ早くこんな場所から脱出しようと警告している。口の中と皮膚はカラカラで私もジャスミンのようにミイラになるのは時間の問題かもしれない。多分シーラも私と似たような状況だ。
しんどい。
そのしんどさを耐えて耐えてようやく天辺へ辿り着くと黄金の絨毯がまた一望出来た。
山は何度か登ったことがある。勿論、自分がいた世界で緑が生い茂った場所だ。その山に比べたら砂の山なんて高さはたいしたことではない。なのにそれより辛く、しんどく感じるのは暑いのもそうだけど、まるで自分が巨大な砂の蟻地獄に囚われているように感じるからかもしれない。それは砂の牢獄。そして、砂は私達人の味方ではない。太陽もだ。これがもっと太陽が地上から離れたらマシになるかもしれない。地上と太陽の間にある空気はカラッとしていて、風はあまり涼しいと呼べるものではなかった。もし、これが地上と空がくっついてしまったら私達は太陽に焼かれて死んでしまうんだろう。
ルーシーはおかしくなって突然笑いだした。
ヤン達は心配になって大丈夫か訊ねた。
ヤンは「熱中症か?」と訊いたがルーシーは大丈夫と答えた。しかし、ヤン達にはそうは見えなかったようで一旦水分補給を兼ねた小休憩をとることにした。しかし、長時間いるわけにはいかなかった。
十分もしないうちに立ち、私達は砂漠の山を降りてもう一つの砂の山へ歩き続けた。
問題が発生したのはそれから間もなくのことだった。
三つ目の砂の山を登っている時、遠くの方で突如ルーシー達のお目当てだった巨大なタコのエリミネーターが砂漠から現れだした。墨のかわりに砂を吐き出しながらそのエリミネーターは何かから逃げるように移動した。そして、直後に砂漠から現れたのは巨大な口だった。
それを見たルーシーは思わず呟いた。
「ウツボだ……」
タコにとってウツボは天敵。だが、目の前にいるのは海にいる生き物とは違い巨大な怪物と砂漠だ。
しかし現にエリミネーターは大量の砂を吐き続けながらとても長いウツボの怪物から逃げていた。
「ルーシー」
サンサはルーシーを見て、お互い目線が合った。
これはチャンスだ。ルーシーは釣り竿を出し、火のルーンを宿した。
暑い砂漠で火なんて使いたくなかったが、水のルーンが使えないこの砂漠では仕方がない。
ルーシーは火の蛇を生み出すと、タコのエリミネーターとウツボを蛇で絡ませ捕らえた。そして、釣り竿を思いっきり持ち上げる。
「お、重いっ!!」
巨大な怪物二体分。しかも、二体とも逃れようと必死に大暴れして抵抗してきた。
「ルーシー」
サンサは駆けつけ釣り竿を持って手伝った。そこにベル、シーラ、ジャスミンも加わる。
「どうするつもりだ!?」ヤンは大声をあげるが、ルーシーは当たり前のように「釣るの!」と答えた。
火の蛇は抵抗する二体を焼きながら二体を食らいついた。
「いいぞルーシー。そのまま奴を焼きだこにしてしまえ」
ベルがそう言ったのでルーシーも「いいね」と答えて更に火力をあげだした。
だが、そうすれば辺りの気温もまた上昇しだしてしまう。
「た、短期決戦で決める!」
ルーシーは構わず火力を上げ続けた。
ヤンはそれを見て「なんだかよく分からないが手伝うぜ」と言って長銃を持ち、二体の怪物に向かって撃ち始めた。それにヤンの仲間達も続く。だが、これだけ派手に暴れれば砂漠にいる他の怪物達まで呼び寄せてしまうことになる。
周辺の砂から次々と背びれが現れだした。それを見たシーラが叫ぶ。
「ルーシー! 早く決めて!」
ルーシーもヤンも怪物達の出現に気づいた。
「ルーシー、離すんだ。このままじゃ囲まれて逃げられなくなるぞ」
でも……とルーシーは口から出そうになった。だが、そもそもヤン達はこの件には無関係だ。自分達を救ってくれた恩人達を死なせるわけにはいかない。
ルーシーは仕方なく捕らえた二体を離した。
「逃げるよ、皆!」
ルーシーはそう言って猛ダッシュしながら離した二体を一瞥した。
二体ともいち早く砂の中に入ってその場から逃げていた。火は砂で消されている。
すると突然ヤンが「まずいな」と言い出した。
「何?」とルーシーが訊ねる。
「嵐が来そうだ」
「えっ!?」




