太陽の航海
歩き続けて体感として一時間は経ったんじゃないだろうか。相変わらず茫漠たる砂漠を見続けると喉の乾きを覚える。かといってどこを振り向いても目の逃げ場がない。海のように流動する砂がつくり出す景色はかたちを変えて砂漠を歩く者たちを迷わそうとした。しかし、視界に入るヤンの足取りには自信が見れた。ヤンは地平線の向こうに見える太陽を目印にして歩き続けていた。私達もその後に続いた。途中、遠くの方で雪崩のように砂の山が崩れるのが見えた。どうやらそこに砂の中に潜む怪物がいるようだ。それが此方へやって来る気配はない。ヤン達は周囲に神経を尖らせながら次のポイントまで気持ち急いだ。
「あとどれくらい?」
「もうバテたのか? まだ一時間も経っていないぞ」
「え……嘘でしょ」
「いや、嘘じゃない」
「なんで! 結構私達歩いたよね?」
後ろを振り返れば夜に過ごした岩は完全に見えなくなっていた。だが、ヤンは頑なに一時間も歩いていないと言い張った。
とても信じられなかった。
それじゃ砂時計を見続け三分が長く感じたようなトロさじゃないか。
でも、よく考えたら太陽は全く進んでいなかった。朝日から少し空に上がっただけだ。
太陽もゆっくりと移動していた。
「それじゃあとどれくらいなの?」
ルーシーはヤンにそう訊ねた。ヤンは即答で「半日以上はかかる」と言った。
ルーシーはそれを聞いて頭が真っ白になった。絶句して空を見上げると、青色が広がっていた。見慣れたブルーはまるで地上にはない本物の海のようだった。きっと太陽はその空の海をゆっくりと航海しているんだ。そして私達の頭上を通過してそして静かに日が沈んでいく。その太陽は徐々に空を暗くしていき、まるで命の炎がこの世から消えていくかのように。火の粉を飛ばしたような空の輝きを放った後、太陽はまるで死んだように暗闇をつくり出すんだ。それはまさに冥界そのものだ。怪物達が恐ろしい太陽がいなくなったことをいいことに蠢きだし、人間はそれにビクビクさせながら岩の上で安全を確保し、太陽がこの世に蘇るのを待つのだ。そうやって一日が繰り返される。でも、全く同じ一日じゃない。砂が流動性であるように海もそうだけど、同じ姿をしていないように毎日が違っている。
そんな妄想を膨らませながら思い足取りをなんとか前に進めた。実際、足場も悪いし、足が砂にいちいち沈んでいく。靴の中にも砂が入ったりして、それもいちいち靴を脱いで砂を出さなくてはならない。
遠くではボス、ボスと砂が沈む音が遠くでする。
エリミネーターを沈めた奴だろうか? しかし、エリミネーターとやり合える怪物っていったいどんな怪物なのか。そもそもそんなのがいる砂漠っていったい何なのだ。 ……いや、この砂漠事態が人にとっては巨大な罠なのかもしれない。いつ出現するかも分からない、その上足場が悪いときた。まるで人間を捕らえ殺す場所みたいだ。そんな狂った暴力の地でヤン達は命をかけてまでいったい何がしたいのだろうか。例え空洞説が真実だと仮にしても、それが何だと言うのか。
「ねぇ、ヤン。空洞をもし見つけられたとして、それをどうするの?」
「どうって? 見つけたら国に知らせるまでだ」
「それって命をかける程なの? ねぇ、いったい空洞には何があるっていうわけ?」
「さぁな。誰も知らない。そりゃそうだろう。誰も見つけたことがないんだから」
「そんなあるかもどうかも分からないのに命かけられるのは何で?」
ヤンはそれ以上答えなかった。それは答えたくないのか、それとも秘密にしておかなければならないことなのか。どちらであっても、ヤンと自分では壁のような距離がある。それも当然か。出会って直ぐで心が開くわけもないか。それならこの話しはここまでだ。
また、沈黙が私達を包んだ。
耳が痛い。
ルーシーは深く息を吸った。




