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ラン・ルーシー  作者: アズ
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砂漠調査

 円錐形の蓋をした陶製鍋を使ったトマトの肉団子を夕食にし、それを食べ終えたルーシーとヤン達は岩の上でテントを張り、一夜を過ごした。だが、生き物達の熾烈な争いという騒々しい夜の恐怖にルーシー達は中々眠りにつくことは出来なかった。

 そうして朝日がのぼり砂漠が再び静かになった頃、ルーシー達は目をうつ向かせながらテントの外へ出た。砂漠は相変わらず黄金色の絨毯が果てまで続いていたが、あれほどの騒ぎがあったにも関わらず、生き物の死体一つ見当たらなかった。砂に埋もれたのか、食われて残骸すら残らなかったのか。

「その様子だとあまり眠れなかったみたいだな」

 ヤンはルーシー達を見るなりそう言った。すると、ジャスミンはヤンに気になってたことを訊ねる。

「あの砂漠にいる生き物達はどうやって生息しているんですか? あの砂の中では酸素もない筈です。あれでは海に生息する魚がエラで呼吸するようには出来ない筈です」

「その通りだ。これはまだ立証されたわけではないが、この砂漠の最深部に空洞があるんじゃないかっていう仮説がある。空洞説と言われているが、その空洞から砂漠のある地上へと上がって来ているんじゃないかって話しだ。地底は海の深海と同じく未知の領域だ。勿論、本当かどうか分からないし、あの生態だって謎だらけだ。ただ、分かっているのはここにいる生態はこの砂漠でしか見ることが出来ない。他の場所ではまず存在しない。連中はたまに地上に現れては砂を吐き出し、多分その時に呼吸をしてまた砂に潜っている。だが、砂漠に大量の生物がいるとしたら、やはり砂漠の下に生息可能な場所があるのかもしれない」

「では、砂漠を調査しているのもそれを見つける為?」

「そうだ。まぁ、それだけではないんだが、調査も重要な任務だ。君達を見つけたのはたまたまだし運が良かった」

「調査は順調なんですか?」

「順調ではないな。この暑さだし砂漠は危険が沢山だ。だからといって大人数で調査するわけにはいかない。例え軍隊を動かしたところで武器は万能ではない。群れに囲まれ犠牲を生むだけだ。ここには身を守れる場所が少ない。あるのはこの砂漠に点在する岩の上だけだ。だから少人数が一番なんだ。まずは砂漠を知ることだ。砂漠を知る者、自然を知る者は、世界を制する。そう考えたら人間はまだまだだ。多分きっと何百年、何千年かかったところで世界はとれないだろう。人間の手に収まるほど世界は狭くないってことだな。だから空の果て、海の果ての先に何があるか分からない俺達はお前達が別世界から来たと言ってもあまり驚かなかったのはそれが理由だ。それだけ常識で語れる程俺達人間はまだ世界を知らないからな」

「成る程……」

 ジャスミンは圧倒された。まさか世界を語り始めるとは。でも、そんな自分達はその世界を救おうと旅をしている。確かに、世界にはまだまだ謎が多い。同時にもっと知りたいと感じた。





 その後、ルーシーとヤン達はテントを片付けると移動を開始した。

 その前にヤン達は予備で持っていた帽子を貸してくれて、ルーシー達はそれを被った。それだけ砂漠の太陽は人間にも毒だった。まさか太陽が人間にとって害になるなんてこれまで考えたこともなかった。暑い時はあっても、人は太陽と共に生きた。むしろ太陽がない方が人にとっては生きられない、それだけ当たり前の存在だった。太陽がなければ植物は育たない。植物は太陽の光で光合成をすると学校で教わったのを思い出す。それに先生は太陽がないと人間はおかしくなってしまうと。具体的には鬱になったりするんだとか。本当にそうなのか分からないけど、先生がそう言うならそうなんだろう。そんな太陽がここでは長時間浴びるだけで命に関わる。かといってどこを振り向いてもあるのは地平線彼方まで続く砂漠で日陰になる場所がほとんどない。しかも長く広い距離のある空間で、人間生きられる場所は点在する岩の上だけだった。そんな過酷な場所には更に人間よりも恐ろしい生き物達が夜中に生存競争という名の戦いが起きるのだ。まるでカオスな夢を見ているような世界。でも、それは現実だった。そして、カオスに見えるこの世界でもよーく見たら秩序は存在した。そこは紛れもない「ありふれた世界の一つ」に過ぎなかったのだ。

 私はただそれを知らなかっただけなんだ。




 それは人とは違う生き方、自然、空間が存在した。自分はそれに触れることで未知の体感をしている。それはこの砂漠のようにあり得ないくらいに暑く死にそうだったり、黄金で一見綺麗そうに見える砂漠の真下では怪物達が潜んでいていつ地上に姿を現すか分からない恐怖があったり、日常にはない体験を今まさに私達はしている。だが、それも長居すればイメージも最初の時とだいぶ変わってしまう。それは例えばうんざりする殺風景で見飽きたと感じた光景も、きっと慣れなんだろう。たった一夜を過ごして一日が始まり暫く移動しただけなのにだ。

 おそらく体験には鮮度があって、それを記録、言葉にした時には既に鮮度は落ちてしまうんだろう。

 自分はこの旅の体験を本というかたちで記そうと当初は思っていた。でも、それを後回しにしていてずっと何も記そうとしなかった。今になって自分はそれを後悔している。あの時記録しておけば、その時のイメージと思い出す時のイメージの錯覚のような間違いに気づけたかもしれない。

 今からはちゃんとマメに記録でもつけようと思う。そして、旅が終わった時、自分がそれを読み返した時にどう感じるのだろうか。あれ? そんなんだっけ? と思う時が出てくるんじゃないのか。

 本を子どもの時に読んだ時と大人になって読み返した時に感じたイメージが違うみたいに。

 それは大人と子どもと違うからなのか、人間の記憶の曖昧さなのか、それとも再体験する時にまた違った新鮮さを感じるように神によってそうつくられているからなのか。

 でも、きっと体験は本当の意味では記録出来ないものなのかもしれない。だって書いてるうちから鮮度が落ちるから。

 だから、体験は多分本当は言葉に出来ないものを言うんだろう。

 それでも私は出来るだけ記録をしておこうと思う。




◇◆◇◆◇




 砂漠を移動する前、一つの問題があった。それは食料と水だ。特に砂漠では脱水症状が一番起こり得る。対してヤン達は自分達の水と食料の分しか持ち歩いていなかった。あの夜でルーシー達はヤン達の貴重な食料と水をわけてもらった。ルーシー達はその点ヤン達に申し訳なく思っている。ただ、ルーシーの水のルーンはこの砂漠地帯では全く役に立たない。ここは砂漠を少しでも知るヤン達を頼るしかなかった。

 ヤンは移動先を既に夜のうちに決めていた。そこは他のチームが担当するエリアに向かい、そこで食料と水を分けて貰いながら一旦任務から離脱し、拠点へと帰還することだった。




 というわけでヤンとルーシー達はそのエリアへまずは向かって灼熱の砂漠をひたすらに歩き続けていた。

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