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ラン・ルーシー  作者: アズ
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砂の海

 耳、目、気配に敏いのは普段から森という自然で生まれ育ったからだろうか。ルーシーは皆より一段早く風と砂が作り出した丘の上に立つ男に気がついた。肌の黒い男はポンチョに帽子を被って長銃を持っていた。その真横には大型犬が立って男と同じく此方を見下ろしている。

「逃げろ」

 男はそう言うと、指を使って口笛を吹き始めた。口笛はよく響き渡り、音は砂漠の果てまで飛んだ。

 ルーシーも口笛が出来るがあの男のようには出来ない。どうやったのか興味が湧いたが、それよりあの男が逃げろといった意味の方が今は重大だ。

「皆、早くここから離れよう」

 ルーシーはそう言って走り出した。男はそれを見届けると長銃を構え遠くに狙いを定めた。ルーシー達がいる後方、砂漠から背びれが現れだした。それも一つではなく三つ確認が出来る。

 サンサ達はその追ってくる鮫のような背びれを見て驚いた。

「え!? なんで砂漠に魚がいるわけ」

 すると、長銃を持つ男は長銃で砂漠の中に潜む生き物を狙って撃ち始めた。その間にどこからともなく口笛が聞こえてきた。

 もしかすると、あれはメッセージを口笛で飛ばしてやり取りしているのか。

 ルーシーは走りながら遠くのエリミネーターが砂漠の中へ消えた辺りを一瞥した。結局、エリミネーターの姿は見えなくなってしまった。

 いったいここはどんな世界なんだ。




 銃声は数発続いた。

 そのうち一発はルーシー達を追いかける背びれに弾丸が撃ち抜いた。

 背びれに穴が空き、赤色の血が流れ出ると、突然一緒に追いかけていた二匹は血を流している一匹を襲い出し共食いを始めた。

 ルーシー達はその間にそいつらから逃げおおせることが出来た。

 男がルーシー達の前にやってきたのはその後のことだった。

 男は長身で口元は髭が伸びている。

「お前達は何者だ?」

 男は真っ先にまずそうルーシー達に訊ねた。

 それにはまずサンサが先に答えだした。

「私はサンサ。仲間はルーシー、ベル、ジャスミン、シーラ、ロジャー。信じて貰えるか分からないけど、私達の旅の目的は……」と言ってサンサはこれまで起きた出来事をなんとかとりあえず男に一通りの説明をした。

 男は説明の終始、表情を変えるといったことはせず、むしろ此方を観察するかのような目を向けていた。

 サンサが黙ると男は口を開いた。

「俺はヤンだ。お前達のことはよく分からないが、お前達の事情に口を挟むつもりはない。だが、ここではお前達の常識は通用しない。お前だけなら真っ先に砂漠に食われて死ぬだけだ」

「なら、私達に教えてくれる? 砂漠の生き方を」

 ルーシーは真っ直な目を見たヤンは顔の汗を布で拭ったあとで「いいだろう」とあっさり承諾した。

「まず、ここの砂漠は生存競争が激しい。さっき見ただろ? 弱った獲物がいれば仲間でも襲う。ここでは弱ったやつは餌だ。砂漠の中にそういった化物みたいなのが沢山潜んでいる。だが、奴らは砂漠から滅多に姿を現さない。理由はこの日差しだ。連中にとって長時間太陽を浴びることは猛毒でそれだけで死んでしまうからだ。だから普段は砂漠の深海と呼ばれる深くに潜んでいる。ここの砂漠はそれだけ深い。昔、人間は砂漠を深海を調査しようと大型の機械で掘ったことがあるが、その機械ごと砂漠に飲まれた。だから誰も砂漠の深海を知る者はいない」

「それじゃ、さっきの鮫みたいなのも砂漠の深海から現れたってこと?」

「さっき巨大なタコの怪物が砂漠に飲まれただろ? あれだけ派手に争えば深海にいる連中にも気づかれる」

「なら、普段は地上には現れたりはしないんだね」

「そうだ。ただし、だからといって地上が安全とは限らない。俺達人間だって太陽に長時間当たるのは危険だ。それに地上では砂嵐が起きる。あと夜海もだ」

「夜海?」

「日中でも突然夜みたいに暗い時間があらわれる。その時間だけは深海の連中も地上に現れだす。夜海は不定期だし波の出現時間もバラバラだ」

「それって夜も危険ってことだよね?」

「そうだ。だから俺達は夜の砂漠では活動しない。岩場を見つけ、その上で過ごす。夜になれば砂漠中に生き物の鳴き声や砂漠が波打つ音がして騒がしくなる。沈黙していた砂漠が夜には別もんみたいに生存競争の場と化す。人間以外の生き物の戦争みたいなもんさ。だから人はここをこう呼ぶ。冥界と」

「冥界?」

「突然太陽が届かない暗黒が辺りを覆い一瞬にして化物同士の争う地になるからだろう。その時間だけ嘘みたいに暑かった場所が刺さるような冷たい寒さが襲う。それほど、生きるには過酷な場所だ」

「成る程……」





 それからヤンは仲間の元へ行くと言ってルーシー達を案内した。

「私達を信用するの?」

「ここでは常に死と隣り合わだ。誰もが助け合わなければ長生きは出来ない。それをこの場所は人に教える。人間は一人じゃ生きられない。助けるに理由なんて必要ない。それに、お前達も俺の事情を知らないだろ」

「うん、知らない。あながそこまで言う冥界の砂漠に何でいるのかとか」

「……事情は人それぞれだ」

「分かった。私もあなたの事情に口を挟まない」

 ヤンは鼻で笑った。




 暫くすると、砂漠の上に魚のようなかたちをした大きな岩が見えてきた。

「あれって自然で出来たの?」

 ルーシーの質問にヤンは「さぁな」と答える。

「仲間はあの岩の上だ」

 岩をそのまま登るのは大変だが、上からロープが降ろされ、ルーシー達はそれを使って引き上げてもらった。

 岩の真上には四人の男女がいて、皆男と同じ格好をしていた。武器も同じ長銃だ。

 ルーシーはそれを見て「助けてくれてありがとう。私はルーシー」と言って手を出した。

 あの長銃では一度に沢山は連続して撃てない。装填する時間が必要だが、あの時はそんな合間はなかった。となれば答えは一つだ。

 唯一の女性がまず手を出したルーシーの手をとり握手をした。

「いいのよ。私はアガーテ」

 アガーテは美形で豊満な胸の持ち主でヤンや他の男達と違い肌は白かった。

 残りの三人は黒い肌で全員屈強そうな男達だった。若い順にジョゼ、ビクター、コリンだ。年齢が高いほど、髭の濃さが違い、青年に近いジョゼに至ってはむしろ髭は剃られていてなかった。

「それより何であんな危ない場所にいたの?」

 その問いにルーシーが答える。

「エリミネーターを追っていて……多分巨大なタコみたいなのがそれだと思うんだけど、砂の中に沈んじゃって……」

「? 理由は分からないけど砂漠は広大よ。探すとなると流石に無理だと思うわ」

 するとヤンは「どちらにせよ今日はもう動かない方がいい。一日はもうじき終わる。夕日が見えてから夜は早い。そしたら夜だ」と警告した。

 夜になれば生存競争による砂漠の生き物の戦いが始まる……ということだろう。




 日が落ちる前にヤン達は焚き火の用意をした。それに火をつけだす頃には空は夕日になり、そしてヤンが言う通り早く夜になった。

 焚き火を私達は囲みながら、ジャスミンはアガーテの手伝いで何かをすり鉢で擦り、シーラは自分のスケッチブックでこれまで見てきたエリミネーターを説明する為に絵を描き、それを横からジョゼとビクター、コリンが覗いていた。ルーシー、サンサ、ベルはヤンと今度について話し合いをしていた。

 その時だった。砂漠の至る所から生き物の色んな鳴き声が響いてきた。

「始まったな」

 ヤンはそう言った。

 ジャスミンは恐る恐る岩場の下の砂漠を覗いてみた。すると、さっきの背びれの大群が砂漠を泳ぐように大移動を開始していた。

「あ、あんなにいるの!?」

「そうよ。人間が食物連鎖、生存競争のトップにいると思われてるけど、ここはそうじゃない。ここでは人間なんかは一番下よ。人間なんて直ぐに死んでしまう」

 ジャスミンは思わず唾をのみ込んだ。

「人間は自然が生み出した砂漠の海には敵わない」

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