沈黙
【前回までのあらすじ】
ルーシーは理不尽な校則で自由を縛りそれが正しいことだと意味も無く大人達に従わされる、ある種の絶対の関係性から飛び出し自由となったルーシーは仲間と共に夢だった世界を渡る旅に出る。そこで、宗教によって容易に騙され家族がバラバラになったリアなど色んな出会いとそこで起きている人間同士の争いや問題を目の当たりにし、更にその裏で暗躍する謎の組織に遭遇する。組織の目的はユグドラシルから再び神を取り戻すこと。
世界は元々は一つの巨大な神から誕生した。それは根を張り枝が伸び緑が広がるように世界もまた広がり、それは今のユグドラシルのかたちとなった。
ルーシーはそこで世界を救うという目的の為に逃亡する組織メンバーを追うのだが、そこは死を想像させる沈黙だった。
神話にあるユグドラシルという木から複数の世界が枝分かれのように伸びているように、世界とユグドラシルは言っても切り離せない関係にある。そして、ユグドラシルが木をイメージされたように木が生命であるように、ユグドラシルも、そして世界もまた生きている。木は成長を続け根を広げ、マルチバースを広げる。しかし、誕生するものの宿命にあるように、それには必ず終わりが存在した。神話の通り神に死があるように、世界も、ユグドラシルもまた死が存在し、それはこの世に永遠は存在しないことを意味した。
ルーシーが逃げる大統領を追った先にあったのは暗闇の世界だった。自然も生き物も空も地上も存在しないそこはまるで「死」の世界のようだった。光が無い世界ではルーシーの炎のルーンによる明かりだけが頼りだった。
何故、女はここへ逃げたのか? 何も無い場所に組織のアジトや仲間がいそうにも感じない。
地面と空の境界もない世界でルーシーはただ浮遊していた。浮遊と表現したのはこの世界に重力が存在しなかったからだ。まるでユグドラシルから放り出された無の世界のようだ。
そこまで考えてルーシーは思った。連中は世界を崩壊させることが目的だった。もし、この空間には本当は人がいて、動物や植物があって、風や火や光があったとしたら……ここはそれら全てが失われたまさに死の世界なのかもしれない。そう考えると死とは無に近いものか同等なのかもしれない。
辺りをルーシーは見渡した。どこを向いてもその先にあるのは暗闇だった。ルーシーの炎では太陽のように全てを照らすことは出来ない。
まるで、本当に孤独のようだった。
人は当然、虫も植物も無い。そんな場所に長くいれば孤独感が襲い、それは次第に恐怖にかわりこの場所から早く出たいと思うようになるだろう。
でも、それは最初の神も同じだったのではないのか?
だから、自らの命をかけてユグドラシルを生み、新たな生命を誕生させたんじゃないのか?
ルーシーは拳を強く握りしめた。
やはり、敵の目的は間違ってる。
ルーシーは再びこの沈黙が広がる世界から逃げた組織のメンバーを探し出した。
とはいえ、ここはどこまでも続く闇だ。まるで、深淵を覗いているようだ。
刹那、ルーシーはその深淵から視線を感じた。まだ、何か見えたわけではない。それでも、見られているという感覚だけがルーシーを震わせた。
何かいるのか?
逃げた大統領? それともスタンフィールドかそれ以外か? 組織のメンバーが逃げた先である以上、仲間がいてもおかしくないが、こんな場所にそもそもいるのか?
その時だった。ルーシーの頭上に羽が落ちてきた。ルーシーはそれを手に取ると、それは黒い羽だった。
「羽?」
何か飛んできた気配も羽ばたく音もしなかった。ルーシーは頭をあげ上を見た。だが、何も見えない。
でも、何かいる。
そんな気配だけはずっとしていた。
なんだか怖い。
今まで色んな敵を相手にしてきたが、こんな恐怖を感じたのは初めてかもしれない。
ルーシーは身構え、いつでも力を発動出来るようにした。
もしかすると、自分がここに来たことで深淵に住む何かを目覚めさせてしまったのか? いや、そもそもその何かは、エリミネーターが言っていた黒幕、アンノウンじゃないのか……
そう思った直後、闇の奥から空間が歪み、そこから嫌な風が流れ込んできた。
来る!?
それは歪みから現れだした。
黒い翼にどろどろの躰をした何かが。
「なに……あれ……」




