沈む船と希望の光【5】
独裁者の末路はだいたい決まっている。革命が起き、捕まった独裁者は裁判にかけられる。だいたいその時点で裁判なんてものが無意味だと誰もが気づく。それでも形式にとらわれる人類は見世物のように裁判を開き、傍聴席で罵声が浴びせられながら裁判官から最後に言い渡される判決を待つ。死刑以外言わない裁判官と目の前で分かっているのに、罪状やその罪について長い長い演説を聞かされる。そして、遂に裁判官から判決が下され案の定死刑が言い渡される。民主の前で公開処刑が執行され、その首を民主の前に晒し、最悪は過ぎ去ったと誰もが歓迎し、パーティーを開く。ある者は歌い、ある者は踊り、ある者は朝まで酒を飲んで、誰もがその時を共有し幸せな顔になる。それからそれは後世へと語り継がれ歴史となる。
くだらない。私はそんな処刑される連中とは違う。
塔が突然浮上しだし、上空を飛んだ。それを地上にいたルーシーは空を見上げながら逃げていく塔を見続けた。そして、その塔は緑色を発光し、突然空から消えた。だが、ルーシーは元からそれが狙いだった。連中の逃げた先に組織に最も近づくことが出来る。あの男から最後に自分によこしたルーンの力でルーシーは移動を開始した。ルーシーもまた光に包まれ同じように一瞬にしてその場から消えた。
残された炎はルーシーが消えたことで命を失ったかのように消え、炎は自動で鎮火した。
◇◆◇◆◇
その頃、メガコウから脱出した2つの小船は風に曝しにあって今にも振り落とされやしないかと、ジャスミンやシーラは船にしがみついているのがやっとだった。そこに波の揺れも加わる。周辺を見渡してみても島は見当たらない。船もだ。そして、忘れてはならないのは自分達はまだ魔の三角海域にいるということだ。この海域はメガコウが出現するだけでない。天候も変わりやすい。今は快晴であるが、それがいつ変わるか分からない。山と同じだ。こういった大自然にいると、人間は無力に感じる。それは人がどれほどの進歩を遂げようと到底かなわないぐらいに。自然に囲まれた生活に憧れるとか言う奴は自然の本当の凶暴さを知らないのだ。自然は気まぐれで人間のことなんて全く考えない。だが、それは当たり前だ。この世界は人間のものではないのだから。それを人はつい忘れがちだった。
問題はその時々人間に牙を向ける自然のど真ん中にロジャー達はまだいるということだ。そして、追い打ちをかけるようにアトリも脱出しベル達の船を追いかけていた。ベルとロジャーは二人で逃げるようにオールを持つ手を必死に動かした。アトリの船も屈強な男達が船を漕ぎ続けた。
すると、アトリが拳銃を取り出して、銃口をベル達の船に狙いを定めると、引き金を引き始めた。
最初の一発目の銃声が響いた。発射された弾はベル達には当たらずどこかへと飛んでいった。二発目を撃ち、更にもう一発と続いた。いつ、自分達に当たるのか分からない恐怖にジャスミンは悲鳴をあげた。
本来なら交代制で漕いだ方が効率が良いのだが、力のない二人には任せられなかった。
ロジャーは流石男子なだけあって弱音を吐くことはなかった。ベルもここで自分が弱音を吐くわけにはいかないと思っていても、頭のどこかで限界を感じていた。これがいつまでも続くわけではない。
どうしたらいいのか…… 。
ふと、ルーシーの顔が脳裏から浮かんだ。まだ、ルーシーと最初に出会った頃、ルーシーと何故か競争することになった。前から変わった子だとは思っていたが、足には自信があったのでその勝負を受けた。ルーシーも足は速い方だったし間違いなくルーシーは女子の中では上位、それでも私の方が上だという自信はあった。だが、実際ルーシーは頭を使って私に戦略勝ちをした。私にとってはルーシーとの関係を持った中で一番の印象深い思い出になった。それは今も変わらない。
そうか。これも同じだ。力業じゃ駄目なんだ。頭を使わなきゃ。
「ロジャー、力を抜いて。私と同じように漕いで」
ベルはそう言いながら腕だけでなく体全体を使って漕ぎ始めた。
「ロジャー、外側に押し付けて漕ぐとオールがズレずに漕ぎやすくなるよ」
「分かった」
ロジャーはベルの動きを早速真似た。確かに数段かスムーズに漕げるようになっていった。
気づけば、アトリ達の船とどんどん距離を離しにいった。
その時だった。さっきまで快晴だった空が急に暗くなり始めたのだ。
「嘘!?」
ベルはまさかこれから嵐か? と慌てたが、それは全く違った。暗くなった空に現れたのは前に見たことがあるあの緑色のオーロラだった。




