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ラン・ルーシー  作者: アズ
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沈む船と希望の光【3】

 鬱蒼とした森から煙があがった。それを森を巡回していた警護の連中が見つける。直ぐに無線で連絡をし合いながら状況確認と、大統領を移動させる準備に取り掛かると、森には既に赤い炎が広がっていて、消火には時間が掛かると予想された。大統領を避難させるルートの安全を確認させる為の部隊を出しつつ増援を要請する連絡も行うのだが、肝心の大統領は塔からは動こうとはしなかった。それが襲撃犯の狙いだと大統領は察知していた。大統領を警護する人間は仕方なく塔を砦として増援が来るのを待つしかなかった。だが、それを炎が遮った。孤立する大統領達。それがルーシーの狙いだった。

 ルーシーの読み通り、連中が塔から移動しないのを確認すると、ルーシーは次の手に移ろうとした。

 対する警護側からはルーシーを視認出来なかった。ルーシーは炎の影に隠れていたからだ。

 その炎は風に煽られて広がる心配がなかった。気性が悪い炎でもなければ無機質な感じでもない。かといって生きているかのような野性的な炎というより、飼い慣らされた炎というべきか。とにかく自然に発生する炎とは違っていた。それもルーシーがルーンによって生み出された炎だからだろう。しかし、そんな炎だからこそ塔に籠もる大統領にはあれがルーンによる炎であると確信が持てた。

「早速、仕掛けてきたわね」

 大統領であり組織のメンバーであるカーラにはまだ余裕があった。

「さぁ、いでよ。私のエリミネーター」

 その言葉を合図に、空から雷鳴が轟きだした。不吉を予感させる黒い雲が現れ、それが渦を巻くとその中心部から巨大な馬に跨って黒い鎧と百腕と百の剣と槍を持った騎士が現れた。顔は人間の頭蓋骨をしていて、眼窩の暗闇の部分からは赤色が光っていた。

「何あれ?」

 ルーシーは空から突然現れた化物を見てそう呟いた。いや、あれが何かは分かっている。エリミネーターだ。

 大統領は塔の窓から外を眺めエリミネーターの出現を確認すると、エリミネーターに森に隠れる少女を探し出し殺すよう命令した。命令は口に出さなくても心の中で命令しても通じた。

 あれはこれまで見つけたエリミネーターの中でも特別なエリミネーター。戦いに特化したエリミネーターだ。


 『戦』のルーンを司る百腕の武神。


 すると森から炎の蛇が現れ、空にいる百腕の武神に飛びかかった。だが、百腕には百の武器が握られ、その半分以下の持っていた武器を振り回し、炎の蛇を切り刻むと、細かく散って火の粉となって森へ飛び火した。そこから火が燃え広がり始める。



 バチッ。



 刹那、いや、それより速く音を置き去りにしてしまう馬の速度は、気づけばルーシーの真上にその百腕の武神が現れ、既に百ある武器を構え振り下ろす直前だった。

 ルーシーが空を見上げヒヤッとする前に百ある武器が振り下ろされ、その辺の森ごと地面深くへ突き刺した。

 それを安全な塔の内部から見ていたカーラは笑い声をあげた。

「たいしたことなかったわね。ヴェロニカやスタンフィールドとやり合って生き延びたと聞いたから少し身構えちゃったけど、これじゃオーバーキルかしら」

 だが、百腕のエリミネーター相手ではこの結果も当然か……カーラがそう思って慢心した時、百腕の武神が突然爆発した。

「な、何事!? まさか、あれを食らってもまだ生きてるというの」

 百腕の武神は煙をあげながら森へ落下した。

「『戦』の武神なのよ。それが攻撃を受けるなんて」

 森から無数の炎の蛇が現れだす。

「あれがルーシーの力だと言うの? 聞いてたより強いじゃない……」




◇◆◇◆◇




 その頃、ベル達はメガコウの体内にいた。そこでロジャーはアトリに見つかり、状況は更に悪化していた。とはいえ、アトリもこのままではロジャーがずっと脱出出来なかったように、自分達もそうなるだけだった。食料は直ぐに底をつく。そこでアトリと幹部は部下の数人を銃で撃ち殺すことにした。数発銃声が連続で続き、悲鳴があがった。

 あの男は血も涙もない人の皮を被った獣だった。

 遺体は船から落とし、海水に沈んだ。血が遺体から流れ、辺りは数人の血で赤くした。

「どうして仲間をそう簡単に殺せるんだ」

「ロジャー?」とサンサは言った。

 男は振り返りロジャーの顔を見た。

「生意気な顔だな。次はお前が死ぬか? どうせ生き残るには切り捨てなきゃ全滅だ。それとも偽善だけでこの状況を乗り越えられるとでも?」

「僕はまだ脱出を諦めたつもりはない」

 アトリは鼻で笑った。

「そりゃいい。なら、俺もついでに出してくれよ。出来るもんならな。だが、出来なきゃ今度はてめぇが死ぬ番だ」

「あぁ、俺達は脱出する。でも、お前だけは絶対に脱出なんかさせない。させてたまるか」

「ロジャーやめて!」

 アトリ達は威勢を張るロジャーをあざ笑いながら、アトリはロジャーに近づき彼の目の前に立った。それでもロジャーは一歩も退かなかった。アトリはロジャーを睨みつけた後、アトリの拳がロジャーの頬を殴り、それによろめいたロジャーへ更にアトリは蹴りを入れた。ロジャーはその場で吐き出すが、アトリは構わずロジャーを蹴ったり殴ったり、相手が降参するまで暴力を続けた。

「やめて! ロジャーが死んじゃう!」サンサは泣き叫びながらアトリに懇願するが、そんなんで獣のアトリが止まるわけもなかった。

 暫く殴り続け、アトリの拳がロジャーの血で汚れた頃、アトリはようやく暴力を止めた。結局、ロジャーは謝るどころか降参すらアトリに弱音を一切吐かなかった。それがアトリにとっては憎たらしく感じた。いっそ拳銃で殺してしまおうかとさえ考えたが、たかがガキ相手にムキになる自分を想像するとなんだか興醒めしアトリは立ち上がった。甲板上で転がるロジャーから離れ、アトリは一人部屋へ戻った。

「大丈夫か?」

 ベル達はロジャーに駆け寄った。ロジャーの顔面はアザだらけで、口と鼻からは出血が見られた。ベルはポケットからハンカチを取り出すとそれでロジャーの顔を綺麗にした。

「無茶するな。どうなるかと思ったじゃんかよ」

「ごめん……」

「こんなところで死んでどうする? ルーシーを追いかけてここまで来たんでしょ?」

「う、うん……」

「実は脱出方法に考えがある。協力してくれない?」

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