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ラン・ルーシー  作者: アズ
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沈む船と希望の光【1】

 そこは暗闇だった。ベル達にとってそれは既視感ある光景だった。しかし、未だ状況が飲み込めていないアトリの部下達は暗闇の中で喚いていた。対してベル達は喚くわけでもなく、死んだ、今度こそ死んだ、と絶望していた。

 そんな時だった。遠くから松明の炎が近づいてきた。人影は思ったより小さい。子ども?

 先に気づいたのはサンサだった。

「ロジャー!?」

「サンサ?」

「ロジャー!! どうしてここに??」

「それはこっちのセリフだよ。僕はルーシー達を追いかけて船を見つけ海に出たら巨大な怪物に食われ、それからずっと怪物の腹の中で彷徨ってたんだ」

「そうだったんだ」

 そんなロジャーは裸足で服はボロボロ、髪はボサボサで体は汚れ垢だらけだった。海水の臭いで体臭はそこまで気にならないけど。

「それより驚いたよ。君達にここで会えるなんて。でも、どうして?」

 サンサは事情を1からロジャーに説明した。その間ロジャーはサンサの話しに驚きっぱなしでいた。

「まさか、そんなことになっていただなんて」

「でも良かった。ロジャーが無事で」

「無事って言えるかどうか……」

「あぁ、そうだったね……私達まだ怪物の腹の中だもんね」

「僕なんかずっと出る方法を探してたけどずっとこのままだよ」

 そんな二人の会話を見ていたシーラはこっそりジャスミンに「あの子誰?」と訊ねた。

「ルーシーの友達だよ。学校は違うけど、結構二人は仲良い感じかな。あ、でも最後喧嘩してたかも……」

「へぇ……」

 シーラはそう反応しながら心の中では、彼氏? とやや嫉妬心を抱いていた。それはどうしてか自分にも分からなかった。ただ、単なる友達で女の子を追いかけて海を出ようだなんて考えない。少なくともこの男はルーシーを女の子として見ている。それが嫌だった。でも、最後に喧嘩したってことはルーシーはこの男子のことが好きでもないかも。

 そんなことを考える自分は我に返り、自分は最低だと直ぐに考えを止めた。

 今のは忘れて聞かなかったことにしよう。

 と、そこへアトリがベルを呼ぶ声がした。連中がやって来る。ベルはロジャーに「何か武器とか持ってない?」と訊いた。ロジャーは首を横に振った。

「僕の鞄は海に流れちゃったからそもそも何も持ってないよ」

 これって最悪な状況、皆は一同にそう思った。




◇◆◇◆◇




 その頃、ルーシーは男から森にあるという塔について話しを聞いていた。

「その塔はいつの間にか出来ていたんだ。最初に見つけたのは森林調査の職員だ。森の中に勝手に建造物が建っていたもんだから誰が建てたんだってちょっとした騒ぎになってね。そしたらその塔に住んでいた人がいたんだ。それが今の大統領さ。大統領は就任してからもそこに住み続けている。普通はあり得ないけどね。大統領は緊急時に直ぐに動けることや警備の問題とかでだいたい歴代大統領が使ってきた官邸に住むことになっている。強制ではないけどこれは前代未聞だよ」

「それじゃ大統領はあの塔に?」

 男は頷いた。

「具体的な場所は分かる?」

「どうするつもりだ?」

「その塔に行くつもり」

「それは無理だ。大統領を警護する人達で警備は厳重だ。簡単には近づけないよ」

「それでも行かなきゃ」

「どうして?」

「その大統領とやらに用があるからだよ」

「大統領に!? いやいやそれこそ会うのは無理さ。そもそも大統領に会ってどうするつもり?」

 ルーシーは自分が別世界から来たことや世界を破壊しようとするスタンフィールドやその連中を追っていることを話した。

 勿論、簡単には飲み込めるとは思っていない。案の定、男はルーシーの話しをほとんど信じていない感じの反応をしていた。

「まぁ……そんな反応するだろうとは思っていたけど、別に信じなくていいから。元々私一人でやるつもりだったし」

「まさか一人で乗り込む気!?」

「そうだけど。それじゃ私は行くよ」

 ルーシーはそう言うとオートウォークから隣の地面へ飛び降りた。そして、向こうの森を確認すると、ルーシーはそこへ向かって走り出した。




◇◆◇◆◇




 場所変わって森の中にある緑色の塔。その塔内部にこの国の女大統領ともう一人の青年がいた。

「あなたがここにやってくるなんて随分珍しいこと」

 眼鏡チェーンがついた銀縁の眼鏡をかけ赤色の口紅、ロングの金髪、赤色のスーツに高いヒール、すらりとした細い足に豊満な胸の美女は目の前の黒髪の青年を見た。

 女と男の頭上には巨大なシャンデリアが飾られてあり、その真下にいる青年の姿はサスペンダーに長い槍を持って、髭のない精悍な顔を大統領に向けていた。

「僕の世界はたった今滅んだところですから」

「あら、仕事が早いのね。流石だわ」

「いえ、そんなことありませんよ。カーラこそこの世界で何をしてるのですか? 既にスタンフィールドからメッセージが伝わった筈ですよね?」

「えぇ……でも、せっかくここまできたのに簡単に壊してしまうのは勿体ないでしょ? だから、私の望む結末にするの。沈むゆく船がどのようにして沈没し、そこに乗船する人々がどのように右往左往するのか」

「成る程。それなら僕も興味があります。一つの物語、そのエンディング僕も近くで見ていてもいいですか?」

「えぇ、歓迎するわ。物語には観客がいないとね」

「それで、どんなエンディングにするかは決まっているんですか?」

「えぇ。本当は何もない無個性で何者でもない空っぽな人間がただ自分という『らしさ』を求め、結果迷走し、そのまま沈む船にこぼれ落ちて、冷たい海の底へと沈んでいく話し。本当なら男達が私の政策に抗い革命や暴動を起こすのかと思ったけど、この世界の男といったら情けない。簡単にやられてしまったわ。今じゃ男だけの小さな町を築いたみたいだけど、そこをこれから鎮圧する予定よ」

「楽しそうですね。ですがカーラ、気をつけて下さい。一度沈んだかに見えた船が再び浮上してくることだってあるんです。例えば、この世界にスタンフィールドが言っていたルーシーが現れたとか」

「あのヴェロニカを負かしたという子が? それは面白い。丁度クライマックスの盛り上がりがまだ足りなかったところだったの。それくらいの試練はむしろ大歓迎よ」

「それは良かった。僕も楽しみだ」

 それが君の物語にならないことを祈るよ。でも、そうなった物語も僕は好きだけどね。

 僕は誰の味方でもないし、僕達の関係なんて元からそんなものでしょ? 

 どっちに転ぼうと僕は楽しめればいい。

 ただカーラ、君は本当に嫉妬深いよ。

 まだそんなに人間のことを根に持っているなんて。

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