新しい釣り竿
暫くして『愛』のエリミネーターが戻って来た。二人の手の中には本当に見たことがない珍しい材料が揃えてあった。
「これがそう?」ルーシーは二人に近づいてその材料を覗いた。
「一つ一つ説明するね。まず、糸だけど強度は多分抜群。蜘蛛神の巣から採った糸。それから……」と持ってきた材料を説明しだす。
ルーシーはそれを聞き終えてから二人にお礼を言ってそれらを受け取った。
「しかし、釣りなんて田んぼでザリガニ釣るぐらいしかしたことないな」
「そうなの? 田んぼってここじゃない別世界だよね」
「そうだよ」
「あちこち別世界に渡っているんだ。でも、確かエリミネーターは自分のシマから離れないんじゃなかった? 例外はあると思うけど」
ドラゴンがその例だった。
「そうだね、基本的に別世界へはエリミネーターは自ら行こうとしないね。まぁ、組織の連中とか僕達のように人間ぽいエリミネーターは別だけど」
「へぇー」
「それより出来そう?」
「うん、もう少しで出来るよ」
エリミネーターはルーシーの手作業を見ながら感心していた。
「ルーシーは器用なんだね」
「そう?」
ルーシーはそう言いながら新しい釣り竿に新ルアーを取り付けていった。
「完成!」
ルーシーがそう言って見せたのは、ロッドが夜空に輝く星々に三日月が入った釣り竿だった。
「釣り竿って詳しくないんだけどいろんな種類があるんだよね?」とエリミネーターが尋ねた。
「うん、そうだよ。と言っても釣りのプロじゃないし、手製の竹竿を使ってたから。子どもだし贅沢出来ないでしょ?」
「成る程。それで、どんな特徴があるのさ」
エリミネーターがそう尋ねてきたのでルーシーはニヤリとして「知りたい? なら今見せてあげる」と答えた。
ルーシーは釣り竿を振る。すると、ルアーが自動で二人のエリミネーターを追い始めた。
「おっ! 早速か」
二人は素早く追従するルアーを避けていく。
「自動で追うのか!?」
そういえば……エリミネーターがルーシーに渡した素材に結果を持ってくるという意味の『レーヴァ草』を渡したような……まさか! その草と丈夫な蜘蛛神の糸を一つにしたのか!?
「いくら逃げても無駄だよ」
なら! とエリミネーターは知恵を使って糸を絡ませてそうはさせないようにした。
頑丈な糸程、絡んだ時が一番厄介だ。
エリミネーターは泉を囲む森の中へと逃げ出した。直後、追従していたルアーが止まる。
(どうやら此方の狙いは即バレしたみたい……でも、この後どうするつもりなのかな?)
すると、ルアーの炎が強くなった。
「漁火」
ルーシーがそう言った直後、二人のエリミネーターはその火を見た瞬間取り憑かれたように自ら森を出て燃える火へと近づく。
ルーシーはタイミングを見計らってから、火を消して一気に一人のエリミネーターのポケットから金色の鍵を釣りあげた。それはルーシーの手の中へと移る。
「あ……」
エリミネーターは呆気にとられた。
「どう?」
「今のはいったい……」
「火は単なる直接的な攻撃だけじゃないってこと」
どうやらルーシーの火を見て心を持っていかれたようだ。
「他のエリミネーターでは多分効かなかったと思う。でも、君達は人間より過ぎた。『愛』を司るように心を持ったエリミネーターだから、多分通用したんだ」
「成る程ね……いや、負けたよ。まさかこんなかたちで取られてしまうなんてね」
「それより教えて。あなた達エリミネーターのことをもっと詳しく」
◇◆◇◆◇
その頃、ベル達はアトリのアジトからアトリ達が持つ立派な帆船へと場所を移動していた。勿論、ベル達は拒否出来る筈もなく、ほとんどアトリの言いなりだった。
「それで、お前達は魔の三角海域へ行こうとしていたんだな?」
ベルはなんとか声を絞り出して「ええ」と答えた。なんとか怯えや恐怖を隠そうとしたが、アトリの前ではそれが上手く出来なかった。
「それじゃ出港だ!」
アトリが部下達にそう命令すると、錨があがり帆が張られると、船は徐々に動き出し本当に出港しだした。
「さて、これから長旅になるんだ。仲良くやろうじゃないか」
アトリはそう言いながら順々にベル達の顔を見て回った。
ジャスミン、シーラ、サンサはすっかり怯え涙を流し震えていた。ベルだけが必死に涙をこらえていた。
雨の中、アトリの船は港からだいぶ離れると、大きな波に揺られながら魔の三角海域へ突き進む。
だが、アトリ達はまだ知らなかった。その海域にメガコウが出現することを。




