修行開始
雨音に紛れる足音にベルは注意深く聞き分けた。何人が私達のあとをついて来るのか。無闇に何度も振り返りながら進むわけにもいかない。しかし、まさかマフィアに目をつけられるようになっていたとは……裏社会では私達は既にブラックリスト入りというわけか。
大抵、人というのは法という倫理上人を殺せはしないが、奴らの社会は表社会の法や倫理が違う。やろうと思えば今ここで銃を向けて引き金を引いているかもしれない。例えば、裏社会に巻き込まれた元・表社会の住人だった誰かが脅迫を受け鉄砲玉にされた奴とか。聞いた噂では裏社会から借りた金を返せなくなった人間はマフィアの言いなりになり、従わなければ家族が人質として狙われたりする。裏社会から逃げる為に鉄砲玉になって最後は警察に捕まり獄中を送る。
人の出会い付き合いで人生どん底に落ちた人間程、連中にとっては使い捨ての駒にしやすい。
ベルは少なくとも二人の気配を感じていた。
(ヤバいな……早くこの都会から出ないと)
それはロウボサムも同じことを思っていた。むしろロウボサムは無関係だ。それがベル達と同行したばかりに厄介事に巻き込まれてしまった。こんなことなら……と心の中で悔やんでいた。
それでも、何事もなくベル達は船のある場所まで辿り着くことが出来た。
港にはよその国の国旗が掲げられている船が幾つかあり、どれも大型船ばかりだった。ベル達はその港にある警察署へ向かおうとした。だが、そこに傘も差さない中折れ帽を被った男達が複数人現れるとベル達を一斉に取り囲んだ。
(やはり二人以外にもいたか……)
ベルは一瞬迷った。護身用の銃はある。でも、自分達より早く連中が撃ったら? 外は雨のせいで私達以外人の気配がない。
すると、連中の一人が口を開いた。
「大人しく我々と同行してもらおうか? そうすれば怪我人は出なくて済む。代わりに護身用の銃は持ったままで構わない」
「っ!?」
(気づかれていた!?)
「どうやらそれ以外に選択肢はないようだな」
ロウボサムがそう言うと、男は「賢明な判断だ」と答えた。
こうしてベル達が連れて来られた場所は港近くの繁華街、そのうちの片隅にある看板のない店だった。中に入るとそこは薄暗い部屋で客が水タバコを会話をしながら楽しんでいた。客の中には全身に入れ墨が入った客やリーゼント族も紛れていた。
ジャスミンはそれを見て唾をゴクリと飲み込んだ。
中折れ帽を被った男は更に階段をあがり二階へと上がる。私達の後ろにも男達がいて、私達は素直に案内に従った。
二階はフロア全てが事務所になっていた。黒色のソファーに座り葉巻を加えるもの、テーブル席で薬物をやってるもの、その中で奥中央の席にここを仕切る赤色のスーツ姿の恰幅のいい男がいた。男は金髪で肌は白い。そして男はサングラスをかけていた。
「お前達だな、別世界に行き、そして無事この世界に戻って来たというのは。もう一人はどうした?」
(この男、どこまで知ってるんだ?)
「死んだか? まぁいい。それよりこいつは誰だ?」
サングラスの男はロウボサムの方を見た。サングラスをかけているというのに、その男と目を合わせることすら恐怖で出来なかったロウボサムは視線を外した。すると、質問した男がいきなりテーブルを叩きだし怒号をあげた。
「誰だって聞いてんだろ! 自己紹介も出来ねぇのかてめぇは!」
その瞬間、空気がピリッとしたのがベル達にも伝わった。
「ロ、ロウボサム……」
「ロウボサム?」
「彼女達とはつい最近会って」
刹那、ロウボサムの額に風穴があいた。血が額から流れ、ロウボサムは後ろへと倒れた。ジャスミンとサンサはそれを見て泣き叫んだ。ベルだけがこの光景に絶句した。
「悪かったな。用があるのは別世界に行った奴だけだ。おい、始末しろ」
部下は短く返事をし、手際良く布をかけ遺体を運び出した。まるでここではよく人が死ぬみたいに。
「それじゃ本題に入ろうか。俺はアトリ。俺の目的は詩人が見た別世界にあるとされる黄金の山だ。もう分かるよな? お前達は別世界に行き、俺はそれに同行する。船の用意はしてある。俺は黄金が欲しいだけだ。お前達に危害を加えるつもりはない。勿論、お前達が案内役として協力する限りはな。俺が黄金を手に入れたらお前達は自由だ。それでお前達が俺達のビジネスに損害を与えたことは目をつむることにしてやる。悪い話しじゃないだろ?」
◇◆◇◆◇
その頃、ルーシーは泉で『愛』のエリミネーターの指導のもと修行しつつ、釣り竿をここにある森の材料から新たに作り直していた。
「それは何?」エリミネーターがルーシーに尋ねた。訊いたのは釣り竿のルアーのことだろう。本来疑似餌であるルアーが炎で燃えていたのだ。
「これは私が新たに生み出した新ルアーなのだ!」
「へぇ~面白そう。どんなの?」
「簡単に言えばこのルアーはルーンの役割を果たしているんだ。ルアーの種類は私が持っているルーンの数分。今までは水のルーンばかり使ってたでしょ?」
「そう言えばそうだね」
「それは流動的な水のルーンが自在で操作しやすかったから。でも、今後は火のルーンも釣り竿で操作しちゃおうって感じにしたの」
「ちょっと凄くなったんだね」
「ちょっとね」
「でも、どうして釣り竿なの?」
「私、剣とか銃とか慣れてないから。武器というより昔から釣りをしてたから馴染みある釣り竿にしたの。やっぱりダメ?」
「ううん。いいと思う。でも、釣り竿の竿はやっぱり素材的に弱いかな」
「うーん……そこなんだよねぇ」
「僕達が最強の釣り竿に相応しい素材を別世界から集めて来ようか?」
「え、いいの?」
「いいよ。その間ルーシーはその新しいルアーでもっと強くなってよ」
「分かった!」




