ルーン
サンサ達は『マーニ』に到着した。前回ここに来た時はリーゼント族という連中に巻き込まれ、私達はその連中から逃げた。あの時の街は大変賑わっていたが、その時と状況が変わって人の数は半分以上減っていた。原因は風によって運ばれてくる毒砂による影響で人々はその脅威から逃れるように人の大移動が始まり、非常に寂しい街の姿となっていた。店が並ぶ通りも三分の一が閉まったままになっている。そしてここでもルーシーの雨が降り続いていた。
しかし、皮肉なものだ。人間が科学を生み出し発展していく裏では環境を破壊し、大地に毒を生み出し、それによって住処を奪われるとは。
サンサ達はとりあえず港へと向かう。その道中、ベルは刺さるような冷たい視線を感じた。振り向くと、店前の屋根で雨宿りしている男がいた。その男の上着の肩は濡れており、上着の襟を立てて、中折れ帽を深く被って立っていた。男は一人だ。背は175くらいだろうか。顎髭を生やし、片手は上着のポケットに突っ込んだままだ。
すると、ロウボサムは小声でベルに「気づいたか」と訊いた。ベルは小さく頷く。
「『マーニ』に入ってからずっとつけられてた。恐らくはここを牛耳るマフィアの連中だろうな。心当たりは?」
「多分だけどリーゼント族と私達で騒動があって、その仲間の何人かは警察に捕まったんじゃなかったかな」
「人攫いか。なら、それだろうな」
「どうする?」
「大通りに沿ってそのまま港に向かう。連中も堂々と騒動は起こせない筈だ。この街で違法行為をすれば街にある像が動き出す。私達はとりあえずそれに守られている」
「なのに、連中はなんでそんな都会で活動しているわけ? 他行った方がよくない?」
「そういうわけにもいかないだろう。この場所はいわばこの国の玄関口のようなものだ。当然、治安維持強化に国は働くが、裏社会にとってここを縄張りに出来るか否かは組織拡大にもっとも重要になる筈だ。そう考えれば連中にとってこのリスクは込みの上なんだろう」
「随分詳しいのね」
「詳しくはないよ。そういう小説からそう想像しただけだ」
「小説かよ」
「皆そうだろ。裏社会に詳しい人の方が信用ならない」
「それはそうだけど」
確かにロウボサムの言う通り連中は監視こそしているが、連中がこれ以上近づいたり襲ってきたりはしなかった。
◇◆◇◆◇
その頃、ルーシーは何度も泉から脱出を試みてみるが、人型エリミネーターの言う通りこの泉の前へと何度も戻ってしまった。
「あなた達の仕業?」
二人はニヤリとしてから「これで僕達と遊ぶ気になった?」と訊いてきたので、ルーシーは手でピストルをつくり水鉄砲を放つと、二人が座っていた木の枝を根本から撃ち抜いた。枝ごと二人はそのまま泉へと落ちた。
「ふざけないで」
二人は泉から顔を出すと「酷いな」と言いながら泉からあがった。
「スタンフィールドを止めなきゃいけないの分かってるでしょ」
「しょうがないな。ほら」
二人のうち一人がポケットから金色の鍵を出してルーシーに見せた。
「これがこの世界に脱出出来る鍵だよ。これを持って出れば脱出出来る」
ルーシーは手を出した。だが、何故かそれを渡そうとしなかった。
「欲しかったら僕達からこの鍵を奪ってごらん」
「成る程、そういうこと」
ルーシーは鍵を持っている男の子を追いかけ始めた。二人は「そうこなくちゃ」と走り出す。三人は泉の周りをぐるぐると何度も走り回った。
ルーシーは足にそれなりの自信を持っていた。だが、二人はそれより遥かに足が速かった。どんどんルーシーの体力だけが消耗し、対して二人は体力が無限のように全然元気に目の前を走り続けていた。
気づけば二人の服は乾ききっており、ルーシーは仕方なく水鉄砲を発射し男の子の足元そばを撃ち抜いた。だが、男の子はうまくそれを避けて走り出す。
「駄目だよズルは。人間は直ぐにズルしてでも勝とうとするんだから。次やったら罰を与えるからね」
どうやら此方の考えが見抜かれているようだった。
結局、ルーシーは二人に全く追いつけず途中で走るのをやめた。前の二人も止まる。
「もう諦めるの?」
「そもそも私は人間、そっちはエリミネーターでしょ? こんなのフェアじゃない」
「他のエリミネーターと戦う時になっても同じことを言うつもり?」
「え?」
「君がここまで来れたのは幸運が続いたからだ。でも、ずっと続くとは限らない。その時、君はどうするつもり? 君の敵はなにもスタンフィールドだけじゃないだろ? 連中を相手に君は一人で立ち向かおうとしている。それは無駄死にに近い無謀だ。君は自分の命を軽く見過ぎだ。世界を救う為に君は自分を特攻のように突っ込む気だろう。僕達はそれが許せない。間違っているからだ。もっと人間は命を大事にすべきだ。それに、なにも君一人の命で救える程、簡単なミッションでもあるまい」
「ならどうしろと?」
「諦めて逃げるのも一つだけど、もしくは君自身がもっと強くなるしかない。そもそも君はルーンを百パーセント使いこなせていない。その結果が君の釣り竿が折れた理由だ。あれが君の今の限界さ。もう一度挑んだところで、今度は君自身が折れることになるだろう。高い絶対という壁の前でね」
「なら、どうやったらそのルーンを使いこなせるのさ」
「さっき君は僕達とかけっこしても追いかけられなかっただろう? なら、君は釣り竿を使って、ルーンで僕から鍵を奪い取るしかない。勿論、僕達は抵抗するよ」
「つまり、あなた達から奪い取れるようになればいいってことね」
「勿論、簡単にはいかせないよ。今の君では折れた釣り竿の山が出来るだけだ」
「ただ突っ込むだけじゃ駄目ってことね」
「そう、その通り。それじゃヒントをあげようか? 例えば今の君ではどれくらい扱えているのか。今の君はだいたい50パーセントといったところかな」
「たった半分……」
「最初からそれぐらいはたいしたものだけどね」
「ねぇ、もし百パーセント使えるようになったら例えばどんな感じになるの?」
「世界を一つ滅ぼせる程に。例の男が君に百パーセントを教えなかったのはそれが理由だよ。君だって大量の水を空に発生させた時に気づいた筈だ。巨大な力は扱いを間違えれば大量虐殺に繋がると。だから力を持つものは慎重に扱う必要がある」
「……それって私に出来るの? 正しく水のルーンを使いこなせるか」
「そもそもだけどルーシーは水の勢いを制御しようと出力に制限をかけてるでしょ? つまり、フル出力の場合コントロール出来ないから本来の力も出し切れていないんだ。釣り竿が折れたのは力に身を任しているからで、本来水のルーンは流れに身を任せるものなんだ」
「流れに身を任せる……」
ルーシーは自分の両手を見た。確かに言われればそうだ。私のこの手じゃ力で百パーセントをコントロールするなんて無理…… 。
「水は火より破壊力が弱いみたいに思われているけど、全開状態での水のルーンの力は強大だ。もし、君がこの力をフルで出せたなら、君は海の王者、いや、それ以上になり得るかもしれない」「ルーンは手持ちの数より、どこまで極めたかで強さが大きく変わるんだ」
「成る程……うん、分かった。やってみるよ!」
二人はニヤリと笑顔になった。
「君なら出来ると信じてるよ」




