VSスタンフィールド【2】
ルーシーと男は学校の外に出た。すると、空を覆っていた分厚く灰色の雲がうねり始め、徐々に何かのかたちへと変わっていった。それは巨大な灰色の狼となり、こちらに向け大きな口を開いた。その口の喉奥辺りは暗闇で、雷雲が渦巻いていた。
「なにあれ!?」とルーシーは声をあげた。
それに対し、あとからついてきたスタンフィールドが答える。
「それが私の言った特別という意味だ。相手は雲であり空。それを相手にこれまでのルーンが通用する筈もない。当然、君の水や炎もだ」
スタンフィールドはそう言ってルーシーを一瞥してから、今度は男の方を見た。
「それとも、お前にはアレをどうにか出来るとでも?」
「いや……無理だ」
「そうだろう」
「しかし、分からないな。特別なエリミネーターがあるなら最初から出せばよかった筈だ。それとも理由があるのか?」
「私はお前には殺されはしないし、それにお前程度で邪魔出来るとは思えないからだ。例えルーンを順調に集めたとしてもだ。そして現に既にこちらの準備は整った」
「何!?」
「計画はいよいよ大詰めを迎える。分かるかね? その段階にきた時『選別』が始まるのだ」
「選別だと?」
「そうだ。新たな世界の住人に相応しい生き物だけがその『選別』に選ばれ、新世界へと行くことが出来る。そして、選ばれなかった者達は……世界と共に滅びてもらう」
「何故そんなことをする?」
「新世界がせっかく誕生したのに、何もないでは寂しいだろう。神の遺体から生まれた生命として、一部は保護してやろうという話しだ」
「お前は……いや、お前達は人間なのか?」
「いや、違う。だが、たいした違いでもない。神から生まれたという点では。違いがあるとしたら、私は神から直接生まれ、君達は神の遺体から生まれた人間といったところか。もう少し詳しく話してやろう。大昔、最初の神がいた。神は新たな世界と命を生み出す為に自らを犠牲にした。神は自殺をしたのだ。そこから、新たな神と大地、世界が誕生した。一つの神から生まれた神々は最初の神がしたように自らを犠牲にし、新たな世界を更に増やし、ユグドラシルを成長させ、根を広げ世界を増やし続けた。だが、ある時点で根の、ユグドラシルの成長が完全に止まった。世界というのもまた、永遠ではなく、命のように終わりがあったのだ。世界は増えたが、一方で滅びもした。人間の細胞に近いかもな。古い細胞は死に、新しい細胞が生まれる。それが生命ということだろう。それは世界も同じだった。ユグドラシルそのものが最初の神から生まれた新しい生命なのかもしれない」
「なら、それでいいじゃないか。いや、お前達は人間ではなかったな。つまり、ユグドラシルはお前達の親の生まれ変わりであり、親が恋しくなって復活させようってことか? その為の必要な材料が神の遺体、つまりユグドラシルの根、世界というわけか。最初の神や他の神がしたようにはせず、また、エリミネーターにもなれなかった、それがお前達」
「ヴェロニカは少し違うが、あとはその通りだ。人間にしてここまで辿り着いたのはお前だけだ。やはり、最後まで立ちはだかる壁となるか。だが、それも最後だ」
空から巨大な雲、否、灰色の狼が口を開けたまま地上にいるルーシー達へ襲い始めた。
「なんとかして! ここにはまだ沢山の生徒がいるの!」
サンサとルーシーは頼みの綱にすがった。
「分かっている。だが、ルーシー。もう手助けはこれで最後だ」
「え?」
「あれを止めたあと、私はもうこの世にいない」
「どういうこと?」
「スタンフィールドは私と本気で決着をつける気だったってことだ。今までの私なら、簡単に逃げて状況を立て直す。でも、そうさせない状況に追い込んだのはこれも奴の作戦だったということだろう」
「まさか私のせい?」
「いや……誰のせいでもない。私自身が決めたことだ。ルーシー、最後に私が成し遂げられなかったことを君に託す!」
次の瞬間、ルーシーの右頬にルーンの文字が刻まれた。男からルーンを与えられたのだ。
「待って!」
「さらばだ」
男はそう言って風のルーンで空を飛んだ。
(すまない……君に与えられるルーンが一つだけだった。あとは自爆に残りのルーン全てを使わなきゃ、あれは倒せない)
男は振り返りルーシーを見てから口を開く灰色の狼へと飛び込んだ。
それを地上から見上げていたルーシー達は叫んだ。
空が爆発し、空気が揺れた。
爆発の光は、暗い空をまるでキラキラと光る星々のように舞った。
スタンフィールドは男の最後をじっと見届けていた。
「それがお前の出した最後の選択か」
直後、スタンフィールドは突然体が持ち上がり、そのまま空中高く飛ぶと、その高さから急降下し、その勢いのまま地上へ落下した。
ルーシーの一本釣りからの叩き落しがスタンフィールドに見事に大ダメージを与えた。だが、水の糸はまだ反応があった。それは釣り竿を持つ手に伝わってくる。
脳天そのまま落下したのに、まだ奴は生きていた。
「普通の人間だったら今ので即死だったろう。全く容赦がないな」
急に釣り竿が引っ張られ、ルーシーは寸前で踏ん張った。ずっと戦闘で使い続けてきた手製の釣り竿がギチギチと悲鳴を鳴らしている。そして、それは遂に訪れる。
バキッ!
釣り竿が力に負け、折れた瞬間だった。




