夜の怪物ガーゴイル
ロウボサムは少女達が店を出て行くのを黙って見届けた。その背中はどう見ても同じくらいの子達の背と何ら変わらない。何が彼女達を特別な存在にしているのか。ロウボサムには分からなかった。自分が成せず諦めた旅を彼女達は果たしていた。それが途中であっても羨ましく嫉妬してしまう。
ロウボサムは一冊の分厚い本を取り出した。世界を渡り旅した唯一の男が書いた本だ。何度も読んだせいか本はいつの間にか傷んでいた。本とはそういうものだ。大切に使うより使い古した本の方が本にとっては幸せだろう。その本を開く。すると、本は語り始めた。
穴に落ちると、そこは不思議な世界が広がっていた。自分は気づかないまま死んであの世にでも来てしまったのか? そう彼は何度も考えたが、その世界は自分の知らない言葉や文化はあっても、そこに住む人々と自分には大差違いがないと分かった。それはまるでまだ行ったことがない国外へ旅行しているようだった。実際、そうなのだ。世界と区切っているだけで、それは一本の縦に繋がっていた。それはまるで、ある神話の木に登場する『ユグドラシル』のように。それがきっとこの世界の全体像なのだ。そして、世界は木のように生きている。世界が生まれたようにいずれ死が訪れるように、世界も始まりがあれば終わりがある。その時、人がそれに遭遇するかは誰も知るところではないが、私は一つの仮説を立てた。世界がそれぞれ独立せず繋がっているのは、全てが運命共同体であり、生まれた時もほぼ同じだったのではないだろうか? だとしたら終わる時もまた同じではないのか? 一本の木ならば当然だろう。もし、多元宇宙がそれぞれ宇宙が繋がらず独立しているならそもそも多元宇宙について考える必要はない。互いに干渉も出来ない宇宙を気にすることに意味を感じないからだ。だが、そうでないのならば、その繋がりはいったい何で結ばれているのだろうか。私は宇宙人や隣人の存在を否定しない。世界が私達の為だけに生まれたと都合よく解釈しない。ならば世界とは何か。それはそこに住み生きる私達とどう関係するのか。
一つだけ言えることがある。それは
ロウボサムはそこで本を閉じた。
そろそろ時間だ。もうじき閉店時間だ。それにもうじき夜になる。夜になればアレが動き出す。人々は鎧戸を閉め、静かな夜を起こさないよう人も静かに眠りに入る。もし、静かな夜を起こすようなことをすれば夜に住む怪物がその者を襲うだろう。これまでしてきたようにこれからも。
◇◆◇◆◇
街に明かりが消え、静かな夜にただ風だけが唸っていた。それがとてもルーシーには気味が悪いと感じていた。何か不安にさせるような嫌な風が吹いていた。それは警鐘にも聞こえた。ルーシー達は学校から一番近いホテルにいた。例の男は何故かやることがあると言って直ぐに消えてしまった。随分と私達をここまで連れてきた張本人のくせに勝手に自由行動してなんて無責任な奴だと思う。だから奴は今はこの場にはいない。現在はホテルのロビーには明かりがなく当然従業員もおらず皆布団の中に入っている頃だからロビーにはルーシー達しかおらず、故に出入り口の扉を内側から開けるのも難しいことではなかった。ただ、そこから先は何が起こるかルーシー達には分からない。知っているのは噂程度の不確かな情報。夜になると街に点在する石像が生き物のように動き出し、夜を出歩く者を怪物が襲うということくらいだ。その正体は魔法という呪いにかかったガーゴイルの像だ。ただ、前回と違いこちらにはルーンがある。いざとなればその力を使うまでだ。
「行くよ。皆いい?」
ルーシーの問いに皆が頷いた。
「GO」
ルーシーが先頭に皆ホテルを出て夜の外を駆け学生寮に向かう。
すると、空から羽ばたく音が近づいてきた。
「来た!」
夜の闇であまり見えないが空に何かいるのは確かだ。それでもルーシー以外の皆は振り返らず全力疾走で寮のある門扉まで辿り着く。だが、門扉には施錠がされており開くことが出来なかった。
ベルは「ルーシー」と呼ぶと状況を察したルーシーが水のルーンを使って門扉を水の糸で絡めると、釣り竿を持ち上げ門扉を破壊し引っこ抜いた。
ガシャーンと派手に破壊し、その釣り上げた門扉をそのまま空高くに投げ飛ばした。黒い何かはその飛んできた門扉を避ける。その間にベル達は敷地の中へと入っていった。あとはドアの鍵くらいはベルでも破壊でき、ルーシー以外は寮の中へと避難が出来た。
あとはルーシーだけになり、ルーシーも走り出すがそこをガーゴイルが追いかけた。翼を持った黒い影のようなものが低空飛行を始め素早く目の前を走るルーシーを捕らえようとする。だが、その直前で氷の壁が突如現れ、影は急上昇し空へと回避する。その間にルーシーも建物の中へと避難した。
「お疲れ」と避難したルーシーにベルはそう言った。
「なんなのアレ!? 予想よりすばしっこいんだけど」
そんな時、寮に突然明かりがつき、そこに寮生と寮母が一斉に現れ出した。
サンサは額に手を当てながら「まぁ……あんなに派手にやったらこうなるわよね……」と愚痴をこぼした。
そんな私達を見た寮母の顔といったら、まるで死人を見たかのような恐怖する目と驚いた表情をして更に腰まで抜かしていた。
ルーシーは久しぶりの皆に「やぁ……ただいま」と言ってとりあえず小さく手を振った。サンサは横から直ぐに手を振り払いそれを止めさせた。
「冗談言ってる場合じゃないでしょ」
「そ、そうだよね」
さて……どうしたものかな。




