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ラン・ルーシー  作者: アズ
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この世界

 片腕のない女は意識を取り戻し体を起こした。幾つか骨をやったが百メートル以上の場所から落下してその程度で済んでるだけマシだった。背中にある十字の模様の【偽】のルーンによる加護が働いたおかげだ。それが無ければ死んでいただろう。即死を回避する加護。とはいえ、たかが子ども相手に自分がここまでやられたのはかなり屈辱的だった。辺りを見回してみてもそのガキ達の姿は見当たらない。モグラのエリミネーターがつくった巨大な穴、その入口は遠くにあり、青空が小さく見えた。

 早く塔に戻らなきゃ…… 。

 女は脇腹を支えながらよろよろと歩いた。

 しかし、片腕をしかもあの【偽】ルーンを失った損失は大きい。あれは吸収と反発の両方が出来る自分の発明の中でもかなりお気に入りのルーンだった。毒矢を刺されたあの片腕に毒を集め切り落とさなければ助からなかったとはいえ、こんな姿を組織の連中に見られたらと思うと腹が立って仕方がない。

 とりあえず浮上させておいた塔を降ろさなければ。

 その時だった。後頭部に銃が突きつけられた。

「どうやってあの状況から生き延びた!?」

 銃を突きつけていたのはシーラだった。前回ルーシーが基地で手に入れた拳銃をシーラが抜き取っていた。

「今すぐ死ぬか私達に従うか選びなさい」

 馬鹿な……あの女は力尽きてルーンを使う余裕なんてなかった筈だ。あの高さから生きていられる筈がない。なのに、これはなんの悪い冗談だ? いや、今はそれよりこの状況をどうにかしないと…… 。

 女は両手をあげて「降参よ」と答えた。

「この後どうやって脱出するつもりだったか言いなさい」

「私には空を飛ぶことが出来る。あの塔を浮かせているのも同じ【偽】のルーンよ。でもあなた達には出来ないでしょうけど」

「他にもルーンを持ってるってことね」

「そうよ。私は【偽】のルーン使いだもの」

「代償は?」

「代償? ないわ。神に与えられたルーンならともかく、それに比べて遥かに劣るルーンに気にするほどの代償なんてないわ」

 それは本当だった。ただし、ルーンを生み出すにはそれなりの贄が必要なだけ。信者を集めることは組織の目的の一つ神の復活を果たす為だけでなく、同時に贄を集めること。これ程効率的なものはない。信者に犠牲を求め、教祖はそれを上手く活用する。世の中はそうやって上手く回っている。支配する者、支配される者。そして、私は支配する側。お前達は搾取される側。

「スタンフィールドとはどういう関係?」

「!?」

「知ってるんでしょ、スタンフィールドを」

「さぁ」

 すると、前方の暗闇から突然男の声がかかった。

「嘘をつくなヴェロニカ」

「私の名前を何故……いや、お前は!?」

 暗闇から現れだしたのはルーンだらけの顔の男だった。

「お前はスタンフィールドが相手にしてる筈! 何故ここに」

「奴ならこの世界にもういない。私も奴を追ってるのだが、中々会えなくてね」

 スタンフィールドがこの世界にいない? まさか、あいつこの男を放置して自分が担当している世界に戻ったのか!?

 クソッ……嘘を私にまでつきやがってあの詐欺師め!

 いや、だとしたら全員こいつに助けられて生きてるということだ。後ろを振り返られなかったから気づけなかったが、私の後ろには銃を突きつけている女以外にもいるってことだ。

「クソッ!」

 でも、私にはまだエリミネーターがいる。

 再び大きな揺れが発生しだした。

 男はため息を漏らした。

「いくらエリミネーターを使っても無意味だ。お前達組織に告げる。混沌とした世界の調和の為にロゴスを、肉体を持った神を生み出し世界を導いてもらう、そんな計画はそもそも破綻している。そんなお前達の暴走を放置するわけにはいかない」

「では、人は混沌のまま生きろと? 既に私の故郷だった世界はもう存在しない。調和が取れなければ世界はどちらにせよ消滅に向かう。世界を覆い一つにしようとして何が悪いというの? それが人の理想で目指すべき世界よ」

「世界は元々一つだったんだ。神もだ。だが、神が病んだ時、それは人間にも電波された。神は死に、遺体はバラバラとなり、世界は無数に増えた。元々一つだった神の遺体から新たな神が生まれ、その神も死に、エリミネーターが誕生した。全ては自然の流れの中で破壊されていった。それはもう二度と修復することは出来ない。人は自然には歯向かえない。神もそれは同じだったんだ。一つの神から複数の神が生まれ、世界が複数あり、それは木のように一本に何層にも繋がっている。私はそれを一つの総称として『ユグドラシル』と呼ぶことにした。今の私はそれを守護する役目にある」

「くだらない」

 ヴェロニカ達のいる場所に巨大な顔が現れた。モグラのエリミネーターだ。

「神も死からは逃れられない。人もだ。世界もいずれは消滅する。死は平等だ。それを避けることは出来ない。受け入れるしかない。それが死というものだ。そもそも死から世界が勝てるようには出来ていない」

「世界が元から一つなら再び一つになるべきとは考えないわけ?」

「修復は不可能だ。そして、エリミネーターが誕生した。お前の中にもエリミネーターは存在する筈だ」

「まさか」

「何故、エリミネーターの力であるルーンを人間が取り込めると思う?」

 男は視線をヴェロニカから上に現れたエリミネーターを見た。手をかざすと、無数の風の刃が巨大モグラを刻み込んだ。

 血が流れ、力は男に宿った。 【土】のルーンが彼の左耳に刻まれて。

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