光芒
ドラゴンを倒し余った大量の水をルーシーはそれを一気に冷却しだした。その瞬間、辺りは冬のように寒くなり、水は激しく踊りだす。
「冬濤の霞技」
刹那、海水は全て消え辺りは白くぼうっとかかり、遠くの山には雪が降り積もりだした。浸水した水は綺麗さっぱりなくなると湿った土には霜だけを生み出した。
それから比較的短時間で空が晴れ出すと、そこから太陽が差し込み美しく輝きを放っていた。
遠くの高台からそれを見ていたサンサ達や村人からは光芒がまるで神々しく、また希望の光に見えた。
最悪は過ぎ去った。
蜘蛛神は消え、田んぼや畑は駄目になってしまったが、命が助かっただけまたやり直すチャンスがある。復興には時間がかかるだろうが、全員が協力すればそれも早く出来る。そう思うと体は勝手に動き出し村人は早速復興に取り掛かった。
水とは不思議なものだ。水は個体にも気体にもなるし、液体にもなる。しかも、個体を液体からまた個体に戻すことが出来る。これ程自由なものが他にあるだろうか?
ある頭の良い学者が云った。世界は、ビックバンという爆発によって生まれたと。この世界がまだ丸いという説があった時代にだ。しかし、だとしたら水はどの過程で生まれたというのか。その謎が神秘性を生み出す。
ある者は万物の根源は水だと考えた。そう思うのも分からなくはない。当たり前にある水をまだ人は全てを解明しきれていない故にそう信じる者もいた。
だが、その逆に異論を唱える者もいた。火を根源とする説。ある者は数と。ある者は四大元素と。しかし、そのどれもは一元論であり、そこに神は実在しなかった。
神は死んだ。
それに異論を唱え、神の実在を取り戻すことがあの男の目的だ。
スタンフィールドの思想の中に悪の根源がある。性悪説からの宗教的思想は彼の思想に相性が良かった。人間が戦争するのも悪事をするのも基本的には悪から始まると考えたスタンフィールドは無数にある根源、それによって生み出された無数の世界は異常と見なし、本物は一つしかない、根源は本来一つしかない、それを強引に一つに絞り出そうとしていた。多元宇宙論から一元になった時、その世界こそが本物である。
つまり、スタンフィールドは多元宇宙を否定していた。そして、本物に足りる世界かどうかを試して、そうでなければ躊躇なく破壊する。その世界のエリミネーターを使って。
顔の入れ墨、それは全て刻まれたルーンである謎の多き男はそんなスタンフィールドを追って世界を行き来し、そこでルーシーと出会う。
これは何かの運命かもしれない。そう感じた男はその運命を無視することは出来なかった。
そして、この後ルーシー達の前で語り始める。
世界滅亡の危機、自分の正体、そしてスタンフィールドが生まれた世界を探していることを。
◇◆◇◆◇
数日後。村人はドラゴンを倒したのはルーシーだと知り渡り、村人は空から現れた少女達は天使だったんだという噂が流れ出した。そして連れ戻されたルーシー達はその村で歓迎され、その後もあの家での滞在が許されることとなった。
そんな歓迎を受けて悪い気なんてする筈がないが、ルーシー以外の皆はなんだかむしろ悪い気がして遠慮がちだった。
「ルーシー、やっぱり早くこの村を出た方がいいと思う」とサンサは言った。それに対してルーシーは「なんで?」と訊いた。
「皆は私達が天使だって勘違いして歓迎してくれてるんでしょ? でも、私達は天使でもないんだから、なんだか騙してるみたいで悪いよ」
「うーん……そうかな? でも、ドラゴンを倒したのは本当じゃん」
「その力だってよく分からないのに使って大丈夫なの? カッコよく技名までつけてさ。私は心配だよ」
「なんともないし、あの時はそんな事で悩んでる場合じゃなかったから。それに技名はいいじゃんかよ」
するとベルは「確かにリスクはあるかもな」と横から言い出した。
「分かったよ。もう使わない」
「本当に大丈夫?」とジャスミンは心配になって訊いたが、本当に何もなかった。
「大丈夫だって。それに入れ墨の男の人だってそう言ってたじゃん」
「それが一番信用ないんだけど」とサンサは言った。
ドラゴンを倒したあの後、入れ墨の男はルーシー達の前に再び現れだし、ルーンについて、スタンフィールドについて語りだした。そして、スタンフィールドを阻止しなければ世界滅亡の危機となることも。
「あの人、スタンフィールドを追っているとしたらこの世界にそいつがいるかもしれないって事じゃないの?」とシーラは言った。
「そういえば、シーラが描いた絵の中に見せたあの塔を見たっていう女の子がいたよね。やっぱりその人から話しを訊いた方がいいんじゃないかな」とジャスミンは言った。
「そうね。でも、あの様子じゃ何かありそうね。簡単に話してくれそうな感じじゃなかったけど」とサンサは言った。
そういう難しい話しはルーシーは苦手だった。だからそこんところは皆に任せようとルーシーは甘く考えていた。
だが、その子が抱えている問題は思った以上のもので、まだその時のルーシー達は知る由もなかった。
◇◆◇◆◇
同国、最南端。そこに禍々しい雰囲気を漂わせる塔が建っていた。塔の壁には一面目の模様が埋め尽くされてある。そこに黒いフードを被った裸足の数十人がその塔の中に入っていた。
塔の内部には中心に大釜があり、それはグツグツと水が沸騰していた。それを囲むように皆同じ格好の老若男女が跪いて呪文を唱えだしていた。
内部の壁にもぎっしりと外と同じく目の模様が埋め尽くされていて、まともな者が入ったりでもしたらたちまちまるで本当に見られているような目線を感じ、長時間居ようものなら精神を病んでしまう。そんな異常な場所だった。
当然、急に現れだした塔を気味悪く感じた人々が偵察に何人か向かわせたが、それら全員が戻ってくることはなく、全員がもれなくそこのカルト宗教の信者になっていた。
そして、その信者の中にあの少女の、リアの両親の姿があった。




