五人の天使【5】
ドラゴンの登場に海を移動していた蜘蛛神が進路を変えて戻ってきた。先程とは移動速度が違い、明らかにドラゴンを標的にしていた。ドラゴンも自分を追ってきた蜘蛛神へ向かって飛んだ。蜘蛛神はそんなドラゴン相手に強大な足で早速踏み潰しにかかった。ドラゴンは巨大な足に今度は踏み潰されないよう足の周りを飛び回った。だが、それは簡単なことではない。まるで沢山足があるかのように素早く足を動かし次々と足を落としていく。それを起用に、そしてハエのようにしつこく飛び回りながらドラゴンは隙を見て蜘蛛神の丸い胴体の真下へ行くと、そこから炎を吹いた。蜘蛛神の弱点が早速突かれてしまい、蜘蛛は苦しそうに逃げようとするが、ドラゴンは逃さず胴体を追い続けた。丸い胴体が燃え広がると、それを村から見ていた村人達は悲鳴をあげた。
燃える胴体を消そうと蜘蛛神は足を曲げて胴体を海に沈むと、そこから大きな津波が発生しだし海辺でエリミネーター同士の決闘を見届けていた村人達は一斉に避難し逃げ出した。浜は一瞬にして海に沈み間一髪村人は逃げ切れた。
蜘蛛神が浸かった海からは白煙があがり、プシューと胴体のついていた炎が消えていった。
火が完全に消火されると再び足に力が入り蜘蛛神の胴体が海から浮上し、蜘蛛神は立ち上がると今度は長い片足を持ち上げ飛び回るドラゴンをその足で蹴ろうし、それをドラゴンは回避しながら蜘蛛との距離は離されないよう旋回した。再びドラゴンは口から炎を出すと、蜘蛛神の長い足にそれは燃え移っていき、ドラゴンは更に今の攻撃で動きが鈍った蜘蛛神の胴体に向かってまた炎を吹き出し、蜘蛛神は炎に包まれ、ひっくり返るように蜘蛛神は海へと倒れると、蜘蛛神はそのまま海へ沈んだ。二度目の大きな津波が島へ押し寄せ、村人は更に高台へと急いで避難しだした。足の悪い年寄りは男達が担ぎ、女は子ども達を誘導していった。田んぼが海に浸かり、ルーシー達のいる場所にも海が押し寄せてきた。ルーシー達は直ぐ近くの高台へ急いで逃げた。その間もドラゴンはあの時のように島へ近づくと炎を吐き出し始めた。
高台に登ったルーシー達はその場所からまたドラゴンが好き放題に人を、自然を、村を炎で破壊していった。
ルーシーは高台からドラゴンを睨みながら拳を握りしめた。
強い怒りの感情が湧くのが自分でも分かる。
刹那、右手拳の甲に稲妻が走った。
「なに……これ!?」
甲に何やら文字が刻まれていく。血が流れ、熱がこもる。
「それは水という意味のルーンだ」
突然、男にそう言われルーシーは辺りを見回してみるとそこに顔に入れ墨のある男が立っていた。かつてルーシーは前の世界で基地の脱出の際に奴と遭遇していた。その時の奴は基地の屋上にいて、黒いレインコートを着ていた。今も黒いローブとあの時の雰囲気は変わらずだった。
だが、それよりもルーシー以外の皆がまるで時が止まったかのように全員石のように動かなくなっていた。
「あなたの仕業?」
「そうだ。これは時のルーンの力だ」
「ルーンって何? ……もしかしてその顔の入れ墨」
「そうだ、全てルーンだ。そして、それぞれに意味がある。私のようにこれ程ルーンを持つ者はそういない」
「あなたはいったい何者なの?」
「君はルーンを得た。それは特別な力だ。言ってしまえば神の持つ力でもある。この世界のエリミネーターではあのドラゴンは相性が悪い。だから、エリミネーターは代わりに君を選んだ」
「私!?」
「そうだ。誰もがあのドラゴンに恐怖するなか、お前だけが唯一あれを睨みつけた。ドラゴンは常に恐怖の象徴だ。その象徴たる恐怖が効かないとなれば、それはドラゴンにとっての弱点にもなる。強大な相手を前に臆さず立ち向かう者にその力は宿される。スタンフィールドにはそれがない。奴はまだ自分より強大な相手をしたことがないからだ。ルーンを持たないあいつは化身、エリミネーターをそのまま使うしかない。お前に宿ったその力は本物だ。だが、それは簡単に扱えるものではない。例えるなら練習量が全てを決定するスポーツ競技のように、宿ったばかりのお前ではいきなりドラゴンを相手にするのは無理だ」
「無理かどうかはやってみなきゃ分からないでしょ」
「やるつもりか? 死ぬぞ」
「死ぬのは怖くない。怖いのはその前に色んな大事なものを失うことだ。私はそれに気づいた。もう、そんなのは見たくない。それに私に全てこの世界の運命が任されたなら、私はやるよ。私はもう逃げない」
「……そうだろうな。でなければそもそもルーンは宿らないか。お前のその力は水だ。温度や水の性質を変えたり自在に操作したり出来るが、火のような破壊力はない。だが、流動的な水はイメージ次第で技の範囲は広がる」
「イメージ……なら、考えがある。でも、あいつはそもそも頑丈な上に不死身でしょ? 倒し方なんてあるの?」
「ない」
「おい」
「だが、あのエリミネーターの火を君が取り込めることが出来れば話しは変わってくる」
「それ、具体的に教えて」
「いいだろう」




