五人の天使【3】
数日が経った頃、シーラが描いた漫画が子ども達にウケた。セリフのない絵だけの漫画であるが、シーラは徐々に四コマから長編に挑むようになり、気づけば取り憑かれたように熱心に描き続けていた。そんなシーラに村の人達は十二色の色鉛筆をプレゼントした。流石にカラーとなると時間はかかりそうだが、シーラは喜んで早速それを使い始めた。子ども達はそんなシーラの漫画が出来上がるのを待ち望みするようになり、次第に空き家だった家には毎日何人かが出入りするのが当たり前の日常へと変わっていった。
大人達も子どもが楽しんでいるのを見て、野菜を持って家に現れるようになった。野菜はどれも立派なもので、今まで食べてきた野菜より一番美味しかった。それをシーラの絵で表すと、村人は喜んで更に野菜を持って現れるようになった。
そもそも家周辺は農家に囲まれており、その先に人家や店舗がある。
やって来るのはほとんどが農家の子どもだったが、次第に人数が増えるとそうでもなくなった。
会話は相変わらず通じないが、ルールが簡単な遊びならルーシー達にも出来た。子ども達と遊ぶようになって、時々海へ行って泳いだりした。海は相変わらず温泉だった。その日は蜘蛛神は現れなかった。蜘蛛神はずっと移動しているらしく暫くしたらまた現れるらしい。
ここの蜘蛛神がドラゴンのように人々を襲わずに、むしろここでは神と崇めているあたり、不思議な関係性だとルーシー達は思った。
それから半月が経過し、ルーシー達はいつものように子ども達と外へ遊びに出掛けた。海に向かって石を投げる遊びでは、ルーシーの石が一番遠くへ飛んだ。ベルは最初こそ悔しがっていたが、何度かやっていくうちに「ルーシーには敵わなん」と諦めて別の遊びをしだした。
すっかり今の世界を満喫していたルーシー達だったが、そこに振動が起こった。揺れは徐々に大きくなり、子ども達は「蜘蛛神様だ」と言った。遠くの湯気から巨大な足の影が見えた。ドラゴンを踏み潰したこの世界のエリミネーターだ。海を温泉に変えながら移動し続ける巨大な蜘蛛。世界にそれぞれエリミネーターがいるのだとしたら、ドラゴンや蜘蛛のような巨大生物がいるということだ。
「世界は広いな」
ルーシーは一人そう呟いた。
赤いドラゴンの話しだが、村人もあの後ドラゴンがどうなったのかは気にして警戒はしていたようだが、蜘蛛神に潰された以降目撃者は現れていないことから死んだんだろうということにされていた。それ以上気にして神経質に生きても仕方ないということだ。問題は、そのドラゴンを連れて現れたのが私達だということになっていて、大人によっては私達が子ども達と遊んだりしているのも嫌なようでそういう大人達は関わるなと子どもに叱り、一時は家に子ども達が現れないこともあったが、子どもは大人達より純粋でコソコソと現れだして、また数が増え、結局元に戻った。警官と数人の男は念の為に遠くから見張っていたが、それをよく子ども達はからかっていた。子ども達の目からはルーシー達は悪者には見えないようで、大人達をからかうのは見る目のない大人達に向けてのことだった。警官はそんな子ども達にだんまりで無視し続けていた。仕事だからしているといった感じで、またに紙煙草を吸っていた。そこに女の大人が現れると急いでその煙草を踏み潰し消すと、その足をどけずに女が過ぎていくまで吸い殻を隠した。それを子ども達はクスクスと笑った。
大人達は大人達でそんな子ども達の姿を悪い兆候だとし、今すぐにでも正したい気持ちでいた。友達にしても一緒に遊ぶ相手にしても誰でもいいわけではない。相手を選ぶべきだと大人達は子ども達にそう教え続けた。それでも漫画という今までなかった娯楽に熱心になった子ども達には大人達の言葉を真に受けることはなかった。すると大人達は今度は漫画が悪いと言い出した。漫画を読むと馬鹿になる。だから小説を読めと言い出した。すると子ども達はどうせ農家を継ぐのだから勉強はいらないと言い出した。というのも、ほとんどの農家では上の学校へ進学せず、そのまま家の仕事に就くからだ。しかし、子ども達が大人達に反抗したことにいよいよ悪影響が出て素直さが無くなったと騒ぎだした。
そして遂に暮れ頃、男達数人が家に現れルーシー達に数日以内にこの村から出ていくよう言われてしまった。
しかし、次に行く宛があるわけではないルーシー達はその日の晩にルーシー達で会議を始めた。最初に喋り出したのはサンサだった。
「順調にいってたと思ったのにこうなるなんて」
「まぁ、仕方ないよ。こうなったら村を出て近くの町に行くしかない。そこで宿を探してからその後のことを考えよう」とベルは冷静にそう言った。
シーラの絵ならそれなりに金になると分かった。町で似顔絵や絵を描いて稼げば金は少しは入るかもしれない。
「いっそ、次の世界か別の国を目指すか」とベルは提案した。
「方法は?」
「やはり金か」
旅には金が必要になるのは分かっていた。でも、別世界に行くと前の金は使えないのが難点で、幾ら稼いでも別世界では無一文の乞食集団から始まる。それもどうにか考えないといけなかった。
考えれば考えるほどに言葉数が減り、ルーシーに至っては睡魔が襲ってきた。だが、こんなところで寝てしまったらサンサに叱られるから、なんとか必死に目を開けた。
「お金なら頑張って絵を沢山描くよ。漫画描いてくうちに描けるスピードも少しは上がったし」
それは無理して言っているとルーシーは直ぐに分かった。シーラがこっそり徹夜しているのをルーシーは知っていた。
「シーラだけに頼っちゃ駄目だ。私達も稼げる何かを持たなきゃ」とルーシーは真面目に言った。
「それじゃルーシーは何が出来るの?」
サンサの問いにルーシーは唸りながら考えた。
「釣りかな」
「釣り道具持ってないじゃない」
「作ればいい。それくらいは出来る」
「釣りなら私も出来る」とベルは言った。でも、釣りの上手さはルーシーの方が上だった。だが、それは黙っておくことにした。競争においてベルは熱心で負けず嫌いなところがある。そして、勝てない勝負はしないタイプでもある。かけっこで負けたあの日以降ベルは足を鍛えているようで、筋トレも欠かさず毎日していた。今、普通に勝負すれば今度こそ負けてしまう。もし、ベルがリベンジを仕掛けてきたらどうしようかと不安があった。ルーシーも負けるのは嫌だった。勝ち逃げしたままにしておきたいが、最近は自分も密かにトレーニングしようかと思っていた。
ジャスミンはというと、最近は子ども達と一緒に海で泳ぐ練習をしていた。少しは出来るようになったようで、ジャスミンはジャスミンなりに自分の苦手な部分を少しでも克服しようと努力していた。
結局話し合いの結果、村の大人達に言われた通り数日内に出ていくことになった。
世話になったのにこれ以上迷惑はかけられなかった。
◇◆◇◆◇
翌朝。私達は準備に取り掛かった。といっても大きな荷物はない。明日には村を出よう、そう決めた時に玄関の戸が叩かれた。
出たのはシーラだった。引き戸を開けるとそこには少年少女の二人が立っていた。




