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ラン・ルーシー  作者: アズ
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五人の天使【1】

 ドニーは崖の下にある学校へ向かった。そこから浜へ向かう道がある。途中田んぼのあぜ道を突っきり、林があって、ようやく浜が見えた。その白い浜から先は湯気が立つ温泉の海が広がっていた。その地下には大きなパイプが海から陸へと吸い上げ各家の風呂の蛇口に流れるようになっている。時々男達は家の湯船より広いこの場所に現れては裸になり温泉にそのまま入っていったりした。今はその姿はないが、冬の雪が降る季節、熱燗で湯に浸かりながら景色を楽しむ大人達を見ていつしか自分もそれが味わえる大人になりたいと羨ましく思ったことがある。今もそれに変わりはない。

 湯気は視界を時に霧のように悪くする。この島国は資源が少なく、ほとんどは他国からの部品を組み立てて製造する工場が主要になっていた。蒸気によるエネルギーを生み出しながら、機械も少しは使うけど、ほとんどは肉体労働。それ以外の農業だとしてもここの島国はほとんど山が多くて平地が少ないもので他国のような広大な土地での大量生産には不向きだった。それでもドニーはこの国が好きだった。それはまず飯が美味い。海に囲まれているから魚も沢山獲れる。主に青魚、白身魚でかなり腹が太った魚達が地引き網で大量に収穫できる。それを今度は生きたまま冷やし、そうすることで魚の身が引き締まり、冷えたまま捌くことで、それは美味しい刺身になる。冷やさず煮魚にして食べるのもいい。それだけで白飯が進む。

 すると、ドニーの腹が突然鳴り出した。ドニーは腹を擦りながらよだれを裾で拭った。

「腹が減ったな」

 そこにクスクスとリアの笑い声が聞こえてきた。振り返るとそこは茂みで、笑い声はそこから聞こえた。ドニーは探す手間が省けたと思いながらその茂みへと入っていった。やはりそこにリアがしゃがみ隠れていた。

「駄目じゃないか。もし、連中が危険だったらどうするつもりだ?」

 リアは笑うのを止め真剣な顔になると「空を飛んできた人間なのよ。この目で見てみたいじゃない。それよりドニーこそなんでここに来たのよ」と聞き返してきた。

「そりゃ……」

 心配してと言おうとしたが、ドニーは素直に言えなかった。

「ほら、あなたもじゃない」

 ドニーは仕方なくそういうことにしてリアの隣で一緒にしゃがみ込んだ。

「それで見つけられたの?」

「あそこ」

 目線で合図してきたので、ドニーはそちらに目をやった。




 おぼろな海からまるで人魚のように現れた女がいた。




 ドニーは一瞬気づかなかった。女は一人ではなかった。びしょ濡れになった服の重さで動きにくそうにしたがら五人は浜へ陸へと向かって泳いでいた。

 浜に上がるなり、その五人は何か喋っていた。知らない言葉だった。そこに、大人達が武器を持って丁度現れ、その女達を囲い込んだ。そして、まず最初に巨軀な男が女達に向かって「お前達は何者だ」と訊いた。女達は何かを喋っていたが、やはりこちらの言葉ではない。大人達も彼女達の言葉が分からないようで、お互い困り果てていた。

「どう思う?」

 ドニーはリアに尋ねた。

「知らない」

「え?」

 リアは突然怒っていた。何故怒っているのかを尋ねてもリアは答えようとしてくれなかった。むしろリアは「つまらないからもう行く」と、急に無関心になってその場から離れ去っていった。

(一番興味を持っていたのは君の方じゃないか)

 大人達はまだなにか喋っていた。そのうち巨軀な男はリアの保護者である警官に「捕まえられないのか」と訊いた。周りは少しざわついた。まだ子どもである彼女達を逮捕しなければならない程なのかという疑問があったからだ。特に対応に困らされてるのはリアの保護者と今はなってしまった警官だった。とりあえずは服の上から身体検査をして手荷物検査をすることになり、最初の一人目でいきなり拳銃が出てきた。周囲が静まり返る。銃の所持事態は少なくともこの島国では違法にはならない。違法にしてしまえば猟銃だって違法になってしまうし、なんだったら武器になるものは日常生活の中にも鎌や包丁といったものも違法にしなくてはならなくなる。だから簡単に所持を禁じることは出来なかった。とはいえ、その年頃が持つにはあまりにも不自然だ。

 銃は結局その子だけ持っていて他の皆は所持をしてはいなかった。

 巨軀な男は煙草をふかしながら警官に「服を脱がせ徹底的に調べた方がいいんじゃないのか」と提案した。だが、警官は男だし、ここに来たのも男達のみだった。周りがそれはいけないと反対し、とりあえず銃は制服警官が預かることとして、警官はあることを皆に話し出した。

「そもそも未成年を逮捕なんて出来ないよ。それに言葉が通じないんじゃ取り調べだってしようがない。ここは一つ、交番近くにある空き家を使ってとりあえずは保護というかたちで大人達がかわりばんこで彼女達を見張るというのはどうだろうか」

 大人達は色々と相談し合った結果、警官の案でいくことが決まった。




◇◆◇◆◇




 ドニーは暮れになるまでリアを探し続けた。彼女は真っ直ぐ家に帰らず他の子と遊んでいた。見つけた頃にはその遊びも終わり皆にお別れを言っていたタイミングだった。

「リア、例の子達どうやら交番近くの空き家で大人達がかわりばんこに見張るらしいよ」

 だが、リアは明らか不機嫌そうに「あっそ」と答えた。

「どうしたんだよ。俺、何か君に気が障るようなことした?」

「別に」

「なにかしたなら謝るよ」

「だから別にないよ」

「じゃなんで怒ってるのさ」

「怒ってなんかいないよ」

「怒ってるじゃないか」

「ほっといてよ」

 これ以上しつこくするのはむしろ逆効果になると察したドニーはリアを追うのをやめた。

「君、今日変だよ」




◇◆◇◆◇




 その日の夜、自分家に大人達が集まった。ドニーは布団に入り寝たふりをしながら聞き耳だけは立てていた。

 薄い壁の隣の部屋で大人達の話しがする。

「それで、あの銃どうしたと思う? 盗んだんじゃないだろうな」

 その声は日中の体軀な男の声だった。ということは父の仕事仲間の人だったんだ。

「作ったかもな」

 これは父の声だった。ビールをコップに注ぐ音が同時にする。

「いや、それはない。銃を見た限りかなりのものだ。だが、あんな銃は見たことがない。よその国のもんだろうが」

「ますます謎が増えたな」

「本部には伝えたんだろ?」

「本部には言っていない」

 これは警官の声だ。

「なんでだ」

「空を飛んだ子どもを捕まえたから応援を要請だなんて出来るわけがないだろ」

「言うだけ言ってみろ」

「馬鹿なこと言うな」

「怖いんだな」

「それ以上は言ってやるな。警察組織の厳しさは理解している」

「すまない。悪戯だと思われ殴られたら暫くは動けなくなる」

「酷いものだ。同じ仲間だというのに、組織内の虐めや体罰は中々無くならないものだな」

 逆らえないものには無理して逆らうな、ドニーはふと父の言葉を思い出した。何故父は自分にそんな言葉を送ったのだろうか。今なら少しだけ分かった気がした。

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