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ラン・ルーシー  作者: アズ
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救出作戦【1】

 シーラの家から緩やかな坂を下りていくと、建物がぽつぽつと現れ、そのまま細い道を道なりに進んでいくと徐々に二人は町へ入っていった。その町の中心辺りの広い道に出ると、その通り沿いには色んな店が並んでいて、手製の看板に手書きで書かれたメニュー(筆記体で書かれてあるが読めない)と値段が記されてあり、その店の前にはテーブルと椅子があって、客達は店で買ってきたものをそのテーブルに広げ各々食事を始めていた。そのせいか、辺りは美味しそうな匂いで充満していてルーシーはそれだけでもうよだれが出そうだった。

 色鮮やかな町を歩く人々はだいたいサンダルで、若い女性の中には鼻ピアスをしている者までいた。皆褐色の肌をしており、髪は黒い。シーラと同じだ。男は半袖半ズボン、スーツを着て歩いている人はまず見かけなかった。そして、驚くべきことに道を通るのは人間だけではなかった。家畜(豚や牛など)が道を自由に散歩をしていたのだ。通行人はいつもの事かのように自然と避けて歩いている。

 町はそれなりに賑わっていた。その中でルーシーはある事に気がついた。

「海が近いのに魚は見かけないね」

「誰も海の魚は食べないわ。食べるとしたら川魚ぐらいかしら。でも、小骨が多くて子どもには不人気」

「この国の食事ってどんなの?」

「辛い料理が多いかな」

「へぇー」

 黒い鉄鍋にグツグツと煮込まれた真っ赤なスープを見て、大丈夫か心配になった。

「辛くないのもある?」

 シーラはクスクスと笑い「ルーシーは辛いのが駄目なんだね」と言った。

「辛いのが駄目というか辛すぎるのはちょっと無理ってだけ」

「大丈夫。辛くないのもあるよ。子ども向けなのが」

「むっ!」

 ルーシーは頬を膨らませムスッとした。

「ごめんごめん、そんなに怒らないでって」

「許さないぞー」

「それじゃ帰りに何か奢るから」

「なら許す」

「フフフ……ルーシーって本当に面白いね」

「そう?」

「うん」

「それよりさ、これから会わせてくれる人について会う前に教えてくれないかな」

「あぁ、分かった。名前はジャック。当局に対抗するグループのリーダ。因みに本名じゃない。皆彼の本当の名を知らないの」

「それじゃ彼がこの国のヒーローだね」

「フフフ、そうね。私達はそう言ってるけどジャックは認めようとしないの。自分の手は既にここまでくるのに血まみれだって。でも、守る為に戦うことは悪じゃないわ。戦うことも必要なのよ。彼は皆が出来ないことを率先してやってくれる」

「その人にお願いするの?」

「当局に捕まったって言ったら逃がすのを手伝ってくれると思う。出来るとしたら彼ぐらいよ」

「その当局ってどんな奴らなの?」

「私達を上から支配する奴ら。その為のシステムを生み出し力で従わせるの。逆らう者は下級市民、逆に媚びを売るずる賢い奴には上級市民という身分を与え私達を分断し、どちらが得かを私達に選ばせるの。クソな連中程、システムを賢く利用してるからむしろそのシステムが長続きすることを望んでいる。でも、そんなのは一部に過ぎない。ほとんどは貧しいまま。だから、私達は当局からの支配がない自由を求めるの。勿論、それで犠牲になった者も沢山いる。もし、捕まったりしたら関係のない家族まで巻き込まれる。リスクは自分だけじゃなくその一族まで及ぼすの。あれを見て」

 細い路地に襤褸を身につけ痩せ細った少女がいた。その少女の両頬には目から下にかけて太い線の入れ墨がされてあった。

「国家反逆罪はこの国では人殺しより罪が重い。当局に反抗するということは国家に対する反逆行為と見なされ、犯人は死刑は勿論、家族はああして入れ墨をされ見せしめにされるの。死なないよう当局がぎりぎりの配食をするけど、それも見せしめの為よ」

「酷い……」

「もし、あの子を助けようとしたら当局に捕まって拷問される。だから、誰も少女には近づけられない。手を差し伸べることすら出来ないの」

「そんな」

「これで少しは分かった。私達がどうして当局が憎いと思っているのか」

 ルーシーは頷いた。

 それから、シーラは通りにあるスパイス専門店に入った。ガラス瓶に入ったスパイスが沢山棚に置かれた店には眉が長く細目で白髪のお婆さんがいた。シーラは口を手で擦りながら人差し指と中指の間を開けた。すると、片方だけ目を大きく明けるとシーラは頷いた。シーラはルーシーに小さく手招きしたのでルーシーはそれに従った。店内奥の扉を開けるとそこは裏口に通じていて、そこを進むとまた扉が現れた。その扉の前に喫煙しながらサングラスをかけたたくましい巨漢が立っていた。

「シーラか。そいつは?」

「この子はルーシー。例の生き残り。リーダに会いたがってる。例の当局に捕まった仲間を助けるにリーダの手助けが欲しいの」

「入れ」

 男はドアを二人に譲り、シーラはそのドアを開けて入った。ルーシーも一緒に続く。

 中は酒場だった。そこでは昼間っから沢山の客が入っていて、皆ビール瓶で飲み合っていた。カウンターの奥の棚には見た目高級そうな酒瓶まで置かれてある。

 するとシーラはルーシーに小声で耳打ちしだした。

「ここにいる全員リーダの仲間」

「え?」

 シーラはカウンターにいる店員に親指と小指を立てて合図を送った。

「暫くここで待てば幹部が来る筈よ」

「リーダが来るんじゃなくて?」

「最近は中々姿を現さなくなって。一番狙われてるから。二日前にもここじゃない拠点が狙われて大火事になった。なんとかその前に全員逃げ出せたけど、リーダは自分のせいで周りを巻き込みたくないから用心してるんだと思う」

 そう会話をしているうちに、軍服の兵士が現れた。肩には銃を掛けて軍帽を深く被っている。そいつが私達のいるテーブルに近づいてきた。

「未成年が酒場に何の用だ?」

「あら、軍人さんこそどうして一人で酒場へ?」

「質問はこちらがしている。答えなければ当局へ通報するぞ」

「あら、それで困るのはあなたじゃない? サム」

 すると、兵士の口元が急に緩んだ。

「悪かったよシーラ」

「久しぶり」

 そうして二人は抱き合いハグをした。

「この子が生き残り?」

「そう。ルーシーって子」

「本当に空から振ってきたのか?」

 ルーシーは「はい」と答えた。

「スーパーヒーローじゃないけど」

「ハハハ、冗談が言える子か。悪くないね。気に入った」

「でしょ? この子面白いの。それで、この子の仲間が当局に捕まってて助けるのに手助けして欲しいの」

「あぁ……状況は分かっている。でも、なんて言ったらいいのか」

「まさか断るつもり?」

「いや、いつもだったら間違いなく協力してるところだが、今は最悪なタイミングなんだ」

「どういうこと?」

「もうじき、大きな作戦が行われる予定なんだ。詳細は話せないがつまりそういう訳なんだ」

「なによ! ならリーダに直談判ぐらいさせて」

「悪いがそれも出来ない」

 シーラは顔を赤くし大きな口を開けて次の言葉を発しようとしたその時、寸前でルーシーはシーラの肩に手を置き「ありがとう。あとは自分でなんとかする」と言った。

「ルーシー、あなた一人じゃ無理よ」

「ううん。元々危険で無茶なお願いだって分かってるから。当局の場所だけ教えて。あとは自分でなんとかする。第一、ここまでしてくれただけでも充分過ぎるくらい助けてもらったもの」

「すまない。これが地図だ。それと」

 そう言ってサムは地図と一緒に拳銃を渡してきた。

「これはお詫びだ」

「ありがとう」

 ルーシーは拳銃と地図を二つ受け取った。

「幸運を祈る」

「あなたの作戦も」

 そう言ってお互い握手して別れた。

「シーラもここまでありがとね」

「私も行く」

「え?」

「ううん、案内させて。それにルーシー地図読めないでしょ?」

 ルーシーは渡された地図を見た。

「読めない……」

 言葉が同じだから失念していたが違う世界の違う国では文字も同じとは限らない。

「ほらね」

 シーラはルーシーから地図を奪い取るとシーラは「こっちよ」と先頭を歩きだした。

「ルーシーはさ、なんで空から落ちてきたの?」

 ルーシーはこれまでの経緯を簡潔に説明した。

「あなたぐらいの子どもだけで旅!?」

「あはは……」

「私には分からないわ。聞いた限りあなたの住んでた場所はここより良さそうだもん」

「シーラはこの国が嫌い?」

「私が嫌いなのは国じゃなくて当局」

「なら、似てるかも」

「そう? 世界が違うと価値観も違うのね」

「ううん。そうじゃなくて皆それぞれの価値観があって皆違うの」

「当局はその思想を酷く嫌っているけどね。それを認めたら一つの国としてまとまらないって」

 シーラはそう言って空を見上げた。

「空は一つなのに、私達人間は一つにはなれない。それは本当なのかもしれない」

「……」

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