旅の出発
【前回までのあらすじ】
森に住むルーシーは田舎から抜け出したいと思うようになる。だが、中々それは実現しないまま時間は流れていく……そんな中、国は表意文字やその他の学力強化をし、より素晴らしい人材を育てる為に義務教育を徹底させる政策を打ち出すこととなる。農村など反対派があったものの、国王の決定に国民は従わなければならない。これが、ルーシーにとって田舎を脱け出すきっかけになる。そこでルーシーは新たな生活、新たな出会いをするが、一方で不満もあり、思ったよりいい事ばかりではなかった。勉強は嫌いではなかったが、冬でも女の制服はスカートだとか、学校内での制限とか色々と。そんな中で、新任の校長が現れ事態は一変。校則はどんどん厳しくなり、自由が遠いものになっていった。我慢の限界を通り越したルーシー達は遂に学校を脱け出す決意をする。そして、そのままルーシーは学校で得た仲間と念願だった旅へ出た。
仲間のジャスミンは自信のない子で何をしても上手くいかない……そんな自分を変える為に。
ベルは富豪の家の娘だが、本当の親ではなく、その家で本当に自分は娘のように甘えていいのか分からないベルはこの旅で自分を試す為に旅へ。そこで自分を知ろうとする。
ただ、ルーシー達の旅は幾つもの壁が立ちはだかる。
人攫いのリーゼント族から上手く逃げ出したルーシー達は乗り物を得て、海を渡り遂に国境を越えようとしていた。
そんな裏でロジャーがルーシーを追い…… 。
世界はここから始まる。海の彼方、地平線を眺めながらルーシー達は国境を越えた。ここから先、どんな事が待ち受けているのか行った者にしか分からない。大海原の自由を風で全身に感じながら、更に先へ進む。こうしている間にも故郷はどんどん距離を離していた。親からも。
ルーシーだって分かっている事の一つや二つはある。大人達が好きで支配しようと思っていないということとか。大人も好きなことばかりだけでなく、やりたくない事も時にやらねばならないことも。こうして逃げ出しているうちはまだ子どもだということも。正直に白状すれば、自分は子どものままでいたいのだ。大人のように社会に沈み生きる前に逃げ出したに過ぎない。そして、そんな自分についていった皆も何かから逃げ出している。
自分が単に反抗的である自覚はあった。ただ、あの後、田舎の森で女としての役割を果たすぐらいなら、他の道がないのか探してみたいという欲望もあった。
無鉄砲とはよく言ったものだ。単に不器用なだけだ。皆のように空気を読めばいいことを頭で理解していても、自我がそれを拒絶した。原因に心当たりはある。それは理性だ。私はこの社会で生きていくには到底向いていなかった。ルーシーにとってただ、自分が愛される世界が欲しいだけだった。でも、それは叶わない。そもそも愛とは本来欲しがるものではない。与えるものだ。でも、その本当の愛をそもそも人が持ち合わせているものなのだろうか? 愛されていると思うことも出来れば、本当に? と疑うことも出来る。愛はそれ程に不確定で、とても難しい。それを人は愛をあたかも簡単に口にして語り、時に物語になる。でも、自分が単に愛を知らないだけかもしれない。ならば、愛とは何なのか。
考えれば考える程に底なし沼に沈んでいく感じがし、ルーシーは違うことを考えだした。
「唐茄子が食べたい」
ルーシーは突然そう呟いた。それにサンサとジャスミンが反応した。
「いいね。煮物とかにして食べたいかな」
「私はスープかな」
皆小腹を空かせていた。鞄にある水と食料はまだあるが、後の事を考えて残しておく必要がある。その食料の計算はサンサが行っていたが、サンサはどこかで補給が必要だと言った。
すると、ルーシーは一つ皆に提案する。
「クマノミに魚を捕まえさせて、それを食べるのは」
「私、魚捌けないよ」「私も」とサンサとジャスミンは言うと、ルーシーは「私は捌けるよ」と答えた。
ベルはというと「問題はどこで調理するかだ。クマノミの上で火を使うわけにもいかない。適当に無人島を見つけて、そこで休憩するのはどう?」と提案した。
「なら、そうしよう」
国によっては魚を生で食べる文化があり、ルーシー達の国も魚の種類によっては生でいただくことも無いわけでないが、主流は塩を振った焼き魚だった。
ルーシーは鞄から一冊の分厚い本を取り出し、冒頭の頁に描かれてある地図を見た。国境を出た先にどの国にも所属しない島がこの先にあった。どの国からも遠い位置にある島で、管理維持費を考えるとどの国もその島をさほど重要視されずにある。もし、島やその周辺海域で貴重な資源が見つかりでもしたらきっと島を巡って新たな火種になっていただろう。そうならなかったのは幸いだ。
島には鬱蒼とした森と、奥は糸杉が沢山あり、岩があるだけだという。私達は周辺を見渡してみたが島は見当たらない。今の場所からあとどれぐらいなのかも方角も分からない。この本を書いた詩人はいったいどうやって航海していたのか。本に書かれてあるのは聞いたことのない道具の名前ばかりで、私達の旅には全く参考にならなかった。因みに、サンサや他の皆に聞いてみても、だいたい同じ答えで知らなかった。
気づけば肌寒くなり、ルーシーは乾かした上着を頭から被り裾に腕を通し服を着始めた。すっかり黄昏になり、いよいよ夜の戸帳が降りる。その前に島を見つけたいところだが、この大海原では無謀過ぎた。
「どうするのよ……」サンサは肩を落とした。
「そんなことよりヤバいんじゃないのか?」
ベルがそう言ったので、サンサとジャスミンは首を傾げ「どういうこと?」と聞き返した。
ふと、ルーシーは本に書かれてあった注意事項を思い出す。
「確か、夜はほとんどの生き物が凶暴になるんだったような」
遠い場所で水飛沫が起こる音が複数起こった。
バシャ。
バシャ。
暗闇でよく見えないが、海の生き物同士が荒そっているかのような生き物の鳴き声と、水飛沫の音が連続して起こっていた。
「大丈夫なのこれ?」サンサは不安そうに言った。
するとジャスミンが「見てあれ」と指差しだした。皆がそちらの方を向くと、白い明かりが見えた。
「島かな?」とジャスミンは言い、サンサは「灯台って感じじゃないから船じゃない?」と言った。だが、ベルは「嫌な予感がする……」と二人とは真逆の事を言い出した。クマノミは光の方へ進んでいる。このまま行っていいのだろうか。
ルーシーは手綱を握りながらクマノミの上から海の流れが変わったのに気づいた。流れはあの光へ向かっている。
「メガコウだ!」
ルーシーは突然そう叫んだ。それを聞いたサンサとベルは顔を青ざめた。
ジャスミンだけが分からず「メガコウって?」と皆に訊いた。
「メガコウは光で獲物を誘い込み食べる肉食のバカでかい魚だよ。見たことないけど」とサンサは答えた。
「噂では船も丸呑みするとか」
「えぇー!?」
ジャスミンは目を大きく見開いた。
ルーシーとベルは握っていた手綱を引っ張った。
「そっちじゃない! そっちに行くな」
しかし、二人の言う事を従わずクマノミは抵抗し続けた。その間にも光はこちらへとやって来る。明らかに光は移動をしていた。流れが早くなっていき、突然暗い海面から巨大な口が現れだした。沢山の細かく鋭い牙の間を海水がすり抜け更に暗闇の底へ落ちていく。まるでそこに滝があるかのように、クマノミは大きな口に気づきようやくルーシーとベルに従って方向転換し逃げ始めたが、それよりも早く巨大な口がルーシー達を襲った。ルーシー達は悲鳴をあげながらその口の中へ飲み込まれ、巨大な口は蓋をし海へ再び沈みだした。




