百鬼夜行
夜になり、朱雀大路と九条大路の境目で突っ立っていると、
太鼓の音、シャンシャンとなる弦楽器の音がした。
応天門が開き、大勢の何かが行進を始める...
〈百鬼夜行〉
日が落ち、大路に開かれていた屋台は全て片付けられた。
人一人いない。
そんな大路と九条大路の境にぽつんと俺と式さんはいた。
時刻はおそらく21時を回っていた。
すると突然、
ドン、ドン、ドン。
太鼓の音。
シャンシャンとなる弦楽器の音。
その音の発生源は大路のはるか遠く、応天門付近だった。
応天門にはなにやら左右に神輿が置かれている。
すると閉まっていた応天門が開いた。
ずらずらとなにかが行進してくる。
これが書物にあった百鬼夜行。
この光景、見たことがある。
そういえば羅生門の下で寝ていた時、こんな夢を見た気がする。
予知夢だったのか?
「零さん、零さん、この音をよーく聴いて好きになってくださいね」
そう言われるとプレッシャーがすごい。
だが、最悪戻れなかったらまた来年まで待つしかない。
逆にまだ戻れるチャンスがあるのだ。
それを考えると心にゆとりができる。
だが、またお屋敷に泊まらせてもらうなんてことはさすがにできない。
となるとここで戻るしかない。
よーく音を聴く。
.....
ドン、ドン、ドン。
シャンシャン、シャン。
太鼓の音が体の芯まで響き、三味線の音が耳を震わせる。
そして百の妖怪の列の先頭が羅生門に差し掛かった時、
ギギギギギギギ...
木が軋む音と共に羅生門が開いた。
というか今羅生門をくぐれば良いのではないか?
とも思うが、どうやら今はただ単に開いているだけらしく
音を好きになるか酒を供えるかをしないと羅生門の時を跨ぐ力は使えないらしい。
.......
列が中盤に差し掛かった。
鬼や巨大な骸骨、首が長い女性などが行進していく。
まだ好きになれていない。
やばい。
焦ってきた。
思うように音を聴けない。
行進している神輿が見えてきた。
だがあと少し。
......
ダメだ、好きになれない。
どうやって好きになるんだ。
わからない。
「零さん、大丈夫どす?」
式さんが心配している。
気が付くと神輿と鵺が見えてきた。
もう少しで目の前を通りそうだ。
本当にやばい。
そろそろ演奏も終わりそうだ。
明らかに終盤の演奏だ。
太鼓と三味線の音が激しくなっていく。
神輿が羅生門の前まで来た。
もう終わりだ。
どうしようもない。
また来年まで待つしか。
バサッ。
突然何かが飛んで来て、式さんの目の前に行った。
すると次の瞬間。
ザシュッ。
紅色の液体が宙を舞った。
〈百鬼夜行-終-〉
紅一点。