ハバネロ・ハバネラ
「アタシの取り扱いには注意してもらわないと困るの」
鮮やかな赤が似合う彼女の勝気で高飛車な物言いが気に入った。燦々とした陽を浴びた彼女の身体は夏の火照りを帯び、触れているだけの僕でさえも熱気にやられそうなほどだ。
「アタシを最後まで味わう覚悟はある?」
スパイシーで不敵な誘いに揺らめく。彼女の香りが宙を漂い、空気に舌先が触れただけで痺れを伴わせた。
「ねぇ……しっかり奥まで触って」
導かれるように彼女の奥深くに眠る綿を指先で触れた。ありのままの指の腹から感じる刺激は、興奮によるものなのか。それとも彼女の魔性の力なのか。判別が全くつかない。
彼女が纏っている赤を一枚一枚、花弁を並べるようにばらしていく。その度に炎が踊るような灼熱を覚え、汗だくになる僕を妖しく笑って舞う彼女の幻覚を見た。
フラメンコが似合いそうだ。鮮やかな紅の羽根を持つ鳥のように、艶やかさのある舞だ。
「ふふ。味見してくれたっていいのよ。でも刺激に耐えられないかしら」
全てを暴かれた姿になった彼女が、余裕綽々で僕を見上げている。
見え透いた挑発に乗るほど僕も馬鹿ではない。彼女を唇に重ねてひりつくのは完璧に“下ごしらえ”をした後だ。
「上手く絡めてちょうだい。アタシの魅力が最大限に引き出せるようにね」
額に浮かび上がった汗を拭い、オイルで彼女を程よく絡ませあう。仕上げに茹で上がった麺を放り込み、フラメンコのように左右にトングで混ぜ合わせた。
激辛ペペロンチーノの完成だ。
換気扇を消して皿に盛ったパスタとフォークを片手に、冷房のきいた部屋へと逃げ込む。
真夏日が続くほど刺激物を欲してしまう原理はなんだろう。
答えの見つからない考え事をしながらくるくるとパスタを巻き取る。カプサイシンたっぷりの一品をぱくりと食べた。
「辛っ!」
空いた手で口元を扇ぎながらひいひいと食べすすめていく。妄想したハバネロの擬人化らしい、女王さながらの容赦のなさが燃え上がった。