俺様系ときめきと三次元の壁。
そんなワケで、裏庭の茂み。
気分はさながら隠密である。
やってることは『出歯亀』でも『隠密』と言うと聞こえが良くてなかなか良い。
(おお……いるいるぅ~)
流石にヒロイン(仮)と攻略対象(仮)。
見目麗しいふたりがなんかやってるだけで、それが単なる鍛錬であってもなかなかの破壊力。
さあ、私のときめき値を上げてたもれ!
こうして草葉の陰(※誤用)から見守っているわ!!
「──成程……よくわかった」
「うふふ、クローザー様は勉強家ですのね。 充分に能力をお持ちですのに」
「当然だ。 俺を誰だと思っている」
そういつも通り尊大に言い放った後で、クローザー卿に変化が現れた。
「だが……それに胡座をかいていては、欲しいモノなど手に入らん。 学園などつまらんと思っていたが……それを知ることができたのは良かった」
「……お察し致します」
(おお……なんか真面目に話している!)
台詞自体に俺様みはあるが、なかなか良いではないか。
いつもも俺様ではあるが、大概陸でもないことしか話してないんだなーと改めて思う。
私とはそんな話にならなかったというのに……まあ、高位貴族様のお家の御事情や、 そこでの奴のお立場なんて一切興味はないし、なんなら関わりたくないけどね!
それに比べてヒロインちゃんたら流石の包容力。
そういうの『めんどくせ!』とか感じないのかな?
「フン、わかったような口を聞く」
「ええ。 私も同じような想いですもの……御存知でしょう?」
(こ・れ・は!!)
私の前世による『二次元俺様系ときめきエピソード(※妄想)』では、間違いなくこの流れ──
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
『生意気な女だ……』(※顎クイ)
『キャッ』
『勿体ぶらずにハッキリ口にして貰おうか……それともこのまま唇を塞ぐ方がいいか?』
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
──うむ。
と き め く !!
(しかしこりゃほんまもんの出歯亀になってきたわね!?)
だが興味は津津なので、勿論立ち去る気はない。むしろがぶり寄るぐらいの気持ちを抑えながら息を潜める。
ここで見つかるとか、台無しだ。
そう思い、息を止め気配を消して見守っていたというのに、
「では、クローザー様。 ご健闘をお祈り申し上げます。 私のこともお忘れなきよう」
「舐めるな、俺は約束を違えん。 貴様こそ精々励むことだな」
なにも起こらず終わってしまうどころか、なんか事務的な感じで別れてしまった。
(──……なんでだ)
見つめ合ってたし、イイ感じだったじゃないか。
なんだかガッカリ。
(まあ……いうてもここ、学園だしな)
そして貴族。貞操観念高い、お貴族様。
婚約者ならまだしも、ふたりはまだそうではない。
とはいえ、もし仮に全年齢乙女ゲーでも、
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
『もうっ! 冗談がすぎます!』(※可愛くポカポカ叩きながら)
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
……みたいな寸止めムービーくらいあってもいいじゃないか、と正直思うところ。
立場云々とか言ってたし、あんまりはっちゃけられないのだろうか。
三次元、世知辛い。
まあ、これでバディは解消かな~と思っていたのだが。
「……」
「ん? なんだその間抜け面は」
「イイエエ、ナンデモ(棒)」
(……なんでだ、解消する気配がない)
ついでにヒロインちゃんも奴に構わなくなってしまったご様子。
(フラれたのだろうか。 よし、ここはデリカシーなど一切無視して聞いてみるか!)
「ねぇ……むきゅ?!」
聞こうとしたら、いきなり頬を両手で挟まれ揉みしだかれた。非常に嫌そうにこう言い放ちながら。
「元々間抜け面だというのに、そんな面をするのではない。 拍車がかかる」
私が奴の両腕を掴んで抵抗すると、少し頬から離れた。
「アンタこそ外面をもう少し、その麗しき御面相に合わせて良くしたらいかがかと」
「ハッ、漸くマトモに口を開いたと思ったら……」
「ふぬっ?」
クローザー卿はいかにも俺様系らしく意地悪く口角を上げながら、左手で私のひとつに纏めた髪の毛を掴んで引っ張る。
「相変わらず生意気な女だ」
右手は……なんと顎クイ。
「……ッ」
まさか俺様ときめき妄想が自分にされるとは1ミリも思わなかった私は、反応に困って固まった。
羞恥、ましてやときめきからではない。
三次元の正解が不明すぎるのである。
いかにも『私慣れていませんから』という感じでの可愛くポカポカは、真に慣れていない者にとっては無理ゲーである。
かといって、「なんのつもりですか」と即座にクールに切り返すのもまた無理ゲーである。
いずれもモブには『コイツ調子に乗ってんぜ』的反応。ハードルが高い上に返しとしてさしたる面白味もない。
そのせいで、変な間が空いてしまった。
そして変な間が空いただけに、益々ツッコミ辛い。
「……」
「なんだ、照れているのか? ……おぶっ!」
クローザー卿がなんか吐かしよったおかげで、ようやく私は手刀を額にお見舞いするというかたちでツッコむことができた。