バディにさせられた。
これ以降クローザー卿はなにかと絡んでくるようになった。
魔法の授業では、魔力供給の為バディを組むのだが──
「シェリル、貴様を俺のバディにしてやろう。 有難く思うがいい」
奴に一方的にそう宣われた。
「はァ? あ、いえ、いいです。 遠慮しときます」
全く有難くねぇわ。
寝言は寝てから言え、このすっとこどっこい。
「……そうか。 決まりだな」
「『いい』ってそういう意味じゃな……ぐえっ?!」
「『遠慮』とは随分殊勝な心掛け。 ふむ、早速練習がしたいとは。 仕方ない付き合ってやろう」
「『遠慮』も違……大体後半の一言も言ってないんですけどッ?!」
挙句、魔法授業用ローブの首筋を掴まれ、鍛錬場まで引き摺られる始末。
「俺から逃げられると思うなよ……」
「……それ悪役の台詞ですよね」
そんな訳で、バディになってしまった。
これは……ウッカリ『おもしれー女』ポジを獲得してしまったのだろうか。
奴は人気者である為、バディになったことで女子から大いに不興を買った私はぼっちになってしまった。ハンバーガーを食べる為ではない、リアルぼっちである。
しかし皆、アレを見ていて何故私が不興を買うのか。
釈然とせぬ。
「寂しい……」
特に嫌がらせはされていないが、ぼっちなの、案外しんどい。気配を消してひとりの時間に耐えるのは結構辛いのだ。
むしろ嫌がらせのひとつもあれば、反撃のしようもありモチベも上がるというのに。
(この際攻略をしてみようか……いやいや)
奴は相変わらずだが、それに対してもう嫌悪感はない。友人と言ってもいいくらい。
まあ、ぼっちだから他に構ってくれる人おらんし。
そんな訳で時間外鍛錬にも付き合う私。
クローザー卿、案外真面目。俺様系のくせに。
「術の発動がいつもワンテンポ遅い!」
何気に奴の指摘は的確であり、時間外鍛錬のおかげで魔法の授業はいい成績。ついでに魔力も増えた。
これなら就職先にも困らないかもしれない。
「ハッ、そのテンポの悪さ……貴様さては音痴だな!? 音楽好きという森の精霊も貴様の的はずれなリズムにはへそで茶を沸かすに違いないな!」
「しっ失礼な!」
向こうも私のおかげか、多彩な言い回しで嫌味を放ってくるようになった。
なんの役に立つかはわからないけど。
だが『おもしれー女』ポジを獲得していたとしても、クローザー卿と甘い空気になったことなど全くない。
それっぽいことと言えば精々『ジェラルドと呼べ』と言われたくらいで『トゥンク』も当然ない。
名前呼びはあっさり断り、あっさり受け入れられている。私のことは勝手に名前で呼んでくるけど、別に甘さはない。
ふたりの関係は『ケンカップル』というより、『口喧嘩友達』と言ったところ。
一切忖度などしてやらないので、彼の高貴な血筋をディスることすらある私に、『俺のことなど家柄と見た目でしか見てくれない』や『与えられた立場に重責を感じ、反発してしまう』などのテンプレお悩み相談などしないと思われる。
そして、私も聞きたくない。
聞いても多分、それを弄る気がする。
『私だけはアナタのことをちゃんと見てるわ』などのテンプレ正解など片腹痛過ぎて、仮に言えたところで最後に(笑)とか(棒)とかつく感じになることは目に見えている。
また私の方も悩み相談をする気など、一切なかった。
「まーしょうがないか! 『俺は自由だー』とでも思うことにしよう!!」
こういう時は開き直るに限る。
そう思った矢先のことだった。
「マクブライト様、残念でしたわね」
「……はい?」
珍しく女生徒から話し掛けられたが、それには嘲りとかそういった類の臭いがプンプン。
なんでもクローザー卿は、最近度々美少女と一緒にいるんだとか。
「……ああ~」
私は膝を打つ……代わりに右拳を左掌にぽんと叩いた。
「もしかしてピンクブロンドの?」
「そ、そうですけど」
「魔力量を買われて男爵家に入った平民の子ですわ。 先程もおふたりで鍛錬に行きましたのよ」
「魔力量の……ふたりで鍛錬に……」
私はそれを聞いて、少しショックだった。
──なんで今まで彼女が出てこなかったのかと。
おかげでこのことを忘れていたではないか。
やはりこの世界は乙女ゲー!!
……ヒロインちゃんだな?
ヒロインちゃんが攻略にかかったんだな?!
これはワクワクが止まらねぇぜ!
「ふふ、なんの取り柄もない貴女では、クローザー様のバディという立ち位置も怪しいのでは──」
「鍛錬場ですか?!」
「ひっ!?」
コロコロとご機嫌に笑っていたご令嬢方に尋ねると、突如勢いづいた私にビクッとなりながらも「う、裏庭じゃないかしら?」と答えてくれた。
「貴女まさか、邪魔しに行くつもり?」
「いいえ! 出歯が……ゲフンゲフン! ありがとうございます!」
ウッカリ馬鹿正直に『出歯亀』と言いそうになりながら、礼を述べつつ裏庭に走る。
出歯亀──すっかり忘れていたが、これこそモブ転生の醍醐味と言っていい。
私が前世の記憶を思い出した意味などそうあるとは思えないが、思い出したからには『モブ転生あるある』も満喫しておきたい。
はたして三次元でいかほどときめけるのかは謎だが折角のチャンス、無駄にはしたくない。
だって、ちょっと興味あるけど結局観なかった映画がTVでやっててその日になにも予定がなかったら、当然観るでしょうが!