⑦ロビン様とフィッツロイ先生のお茶を飲みました。
学園生活も初年度の半分を過ぎた。
「基礎の座学と実技はここまで。 以降の授業はそれぞれのクラスで行う」
魔法学も一部本格的な実技を伴ったものに変わるらしく、いよいよ異世界ファンタジー学園みが増す。
魔法のある世界とはいえ、皆が簡単に魔法を使えるワケでもない。むしろ教わらずに魔法を使えるようになる人は極めて稀なので、魔法学の授業を楽しみにしていた人は多い。
また、この授業は基礎まで学年全体で行われる。高位貴族と一緒になることも、皆が浮き足立つ理由のひとつのようだ。
もっとも、履修済みと認められているロビン様はいないので、私にしてみればどうということもないのだけれど。
本格的な実技に入ると魔力量の多いAクラスと、少ないBクラスの2クラスに振り分けられる。
どうしてもできることに差が生じるのもそうだが、魔力供給の為にバディを組むからである。
別に魔力が少ないというのはそう悪いことでもなく、コントロールがしやすい、魔力干渉を受けづらいなどの利点もある。
ちなみに『魔力が全くない』というのは逆に激レア。魔力干渉を一切受けないのでそれはそれで凄いらしいが、現在学園にはいないらしい。
Bクラスになるとまず術式の勉強をしたあと、能力に応じたいくつかのコースに別れて履修することになるのだが、コース選択には希望も考慮されるそう。
なのでロビン様ともっとお話したい私は、魔道具制作コースを選ぼうと思っていたのだけれど。
「──えっ?」
「どうしたんです?」
各々に配られた、魔法学の実技クラスの通知。
私のに書かれているのは、まさかの『A』。
「嘘ぉ……」
「そんなにショックなんですか?」
「ショックっていうか……間違いじゃないかと……」
入学前にした魔力検査で、私の魔力量は大した量ではなかったのだ。5歳の時に受けた、神殿での検査でも。
「間違いがあるとは思えませんが、不思議ですね。 フィッツロイ先生のところに聞きに行ってみては?」
フィッツロイ先生とは、私が『クールで影のある魔術師の攻略対象』と勝手に決めつけたイケメン教師である。
「そ、そうしようかな……」
──と言ってはみたものの、正直行きたくない。
『ロビン様以外の攻略対象風の方々には、あまり近付きたくない』という乙女ゲーム的な不安よりも、私の気持ちの問題から。
あまりよく知らないイケメンは、知らないフツメンよりもなんとなく怖い気がしてしまい、どうしても腰が引けるのだ。しかも癖強キャラ風イケメンなのがまた、それに拍車をかけている。
(どうしようかなぁ……)
悩みに悩んだ末、放課後迎えに来たロビン様にお願いして、ついてきて貰うことにした。
ちょっとしたお願いができるまでになったことに、努力の成果と確実な進歩を感じる。
勿論、ロビン様は「チッ、しょうがねぇなあ」と快く引き受けてくれた。
学園では研究や別の職に従事しながら教師をする講師と教員を含む学園の職員に別れており、前世のような職員室というものはない。
フィッツロイ先生は魔術塔にお部屋をお持ちで、そちらにいることが多いらしい。
「ふむ。 結論から言おう、間違いではない」
「えっ、で、ですが……」
「まあ座りたまえ、落ち着けるよう茶でも出そう。 ちょっと待っていてくれ」
塩対応で有名なフィッツロイ先生だが、意外にも席を勧めてくれただけでなく、お茶まで出してくれるらしい。 ロビン様がいるからだろうか。
今は給湯室へと行ってしまったが、間近で見たヴィクター・フィッツロイ先生の容貌は、いかにも影のあるクールキャラそのものだった。
長身痩躯の肢体に、真っ黒な長いローブのフードを深く被った下には、怜悧な印象の物凄く整ったお顔。
スチームパンクちっくなデザインの片眼鏡が、またそれっぽく、勝手に決めつけたとはいえ『私は悪くない』と訴えたい程だ。
お部屋の応接スペースの部分以外は、積み上げられた分厚い本と書類の山。それにビーカーや試験管などの理系み溢れる小物で溢れている。
(お茶をフラスコで淹れられたらどうしよう……でも給湯室だし大丈夫かしら。 『落ち着けるよう』って仰ってたけど、まさか精神安定剤的なお薬入りじゃないわよね? )
失礼な想像だが、そういう印象は拭えない。
こう……美形は美形でもなんか、世俗の常識とは違う独自の『俺ルール』がありそう、というか。
「──おいジル」
正直なところあんまし飲みたくないな~、などと思っていると、ロビン様が妙に意地悪な笑顔でこう尋ねてきた。
「嬉しいか?」
「へ?」
「『へ?』じゃねぇよ。 あのフィッツロイ先生が、わざわざお前の為に茶を淹れてくれんだぞ」
「??」
(あっ、もしかして……逆にそのこだわりの強さにより、物凄く美味しいお茶を淹れるとかなのかしら?)
その発想はなかったが、確かにありそう。
「そっか~、なら楽しみですね!」
「ん?」
「?」
「……………………茶の味のコトじゃねぇぞ」
「そうですか……」
(『味じゃない』ってことは、珍しい種類とか、お花が浮かんでるとか、綺麗な色だとかかな? それともこだわりの茶器とか)
「それはそれで楽しみです~♪」
「いやだから…………チッ、馬鹿馬鹿しい」
「えっ」
(しまった)
フィッツロイ先生のお茶が気になり、ロビン様の表情変化を見逃してしまった。
なんで舌打ちされたかがよくわからない。
ツンデレ仕草に似た動きはしたが、勿論ただ気まずいだけの時や不機嫌な時も、似たような動きはするのだから。
(待って待ってなになに~? あっ、そういえば、ちょっと笑顔が意地悪だったわ!)
「もしかしてやっぱり逆ですか?!」
「逆ってなんだよ?」
『ほ~ら、フィッツロイ先生の激マズ茶だぞ! 嬉しいか?!』的な。
「……流石にこの場では言えません……」
「わかった気がするが……ああもう! 俺が悪かったよ!」
「ええぇぇ」
何故かよくわからないまま謝罪された上、「クソボケ女め」と舌打ちつきで小さくぼやかれた。
あんまり謝る態度じゃないが、怒ってはなさそうなので別にいい。陰口は叩かないが、直に悪態は吐くのがツンデレであり、悪い単語に然したる意味などないのだ。
それに、激昂などして感情をぶつけたり、ウッカリ『率直すぎる意見』を述べる場合でない限り、本当に傷付くことは言わない。少なくとも、ロビン様は。
(はっ!? でも傷付いたフリして『酷いわ~』とか言えば、バツの悪そうな謝罪ツンデレ仕草が見れるのでは……!)
そんな名案が過ぎるも、実行する前にフィッツロイ先生がお茶を淹れて戻ってきてしまった為、断念せざるを得なかった。
そのうちやってみようと思う。
ちなみに。
フィッツロイ先生のお茶はまあまあ美味しかったが、見た目も味も普通だった。
★ロビンの台詞注釈★
「あの(美形でモテる)フィッツロイ先生が、わざわざお前の為に(←※重要)茶を淹れてくれんだぞ」
からかい混じりの試し行動みたいなやつ。
全く通じてないけど。
※ストックが切れたので、更新頻度が下がります。申し訳ございません。




