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導きの神様  作者: 夕月夜
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第五章 長月の真実 その1


「暑い……」



翡翠は額に浮かんだ汗を拭いながら、太陽のあがっている方に視線を向けた。もう九月に入っているというのに、八月と同じような輝きを放っている。


今日は、夏の延長線にあるような蒸し暑い日だ。まだ午前中だと言うのに日差しが照りつけ、気温はぐんぐん上昇している。


正直、そろそろこの暑さとおさらばしたいのだが、残念ながらもう少し先になりそうだ。

そう思っている間にも、翡翠はひたすら足を前に進め続けていた。


一年前までは寄り付きもしなかったのに、すっかり慣れ親しんだ東雲のいる神社が視界に入ったところで、翡翠は左手首にしていた腕時計の針を見た。

指し示している時刻は、九時数分前。


平日のこの時間帯は、ちょうど就業開始時刻というところも多い。

そのためか、人の往来はまばらだった。

大きなショーウィンドウがあるお店に差し掛かった時、翡翠はガラスに映る自分の姿を見て、服装をチェックした。


今日の翡翠は黒のレースのパンツワンピースに身を包んでいる。胸上から首にかけては肌が透けて見える別の黒い生地のレース部分と、ノースリーブの袖口を持つこの洋服は今日のような暑い日にはもってこいだ。

靴は黒のヒールサンダルを選び、手持ちの小さいバッグも黒にした。

日差しはたくさん受けてしまうが、この服を着たかったのだから仕方がない。


太陽の光に照らされている翡翠の首元には、金木犀の印があった。季節が夏から秋へと移ろったことにより、その印も変化したのである。



「そう言えば、一年前は銀木犀だったな……」



首筋に手を当てながら、翡翠は独りごちた。


東雲と出会った日に、加護を授けた印だと言っていきなり首筋に発現した紋様。

彼に促されるままに自分の首筋を鏡で見た時には、本当に驚いたことを覚えている。

そしてその印は、季節が移り変わるごとに色や形を変えた。

秋の銀木犀から冬の柊、春の桜、夏の紫陽花、そして今回の金木犀。

最初は、どうして季節に応じて変化させる必要があるのだろうと疑問に思っていたが、今ではすっかり楽しみになっている。


『次はどんな植物が見られるだろう』


そう思ってから、はたと気がついた。


『次は、あるのだろうか』


ふと頭をよぎった疑問を、ぶんぶんと頭を振って消す。

最近、もっと言うと九月に入ってから、翡翠は自分と東雲が一緒にいられる期限について、考えることが多くなっていた。


東雲との出会いは、あまり良い出会いとは言えなかったが、約一年間一緒に過ごしていく中で、大切でかけがえの無い思い出がたくさん出来た。


今ではすっかり翡翠の日常生活の中に彼がいることが当たり前になっていて、正直一緒にいられなくなるかもしれない、なんて考えたくもなかった。

東雲と出会った際に突き付けられた、私に迫る危機。


それが何なのか、どういうものなのか、そして一体いつ来るのか。

残念ながら私がこの件に関して知っていることは、ほとんどない。


ただ、そろそろ覚悟を決めなければいけない予感だけが、翡翠の中にあった。


そうこうしている内に、いつの間にか境内の入り口まで来ていた。


そこで我に返った翡翠は、苦笑を漏らした。


考え事に没頭しすぎて、自分がどこを歩いていたのか把握できてなかったな。この間電信柱にぶつかりそうになったばかりなのに。


もう少し気をつけようと思いながら、翡翠はそのまま境内に足を踏み入れた。



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