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導きの神様  作者: 夕月夜
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第四章二節 鳴神月の鎮魂歌 その6


「後一つ質問させていただいてもよろしいですか?」


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます。碧泉さんが笛を奏で、東雲が舞を舞うという役割分担には、何かしらの意味合いがあるのですか?」



翡翠が抱いた疑問に、目を弓形に細めながら答えたのは碧泉だった。



「翡翠さんは、古代の人の子により編纂された『古事記』や『日本書紀』という書物に書かれた「岩戸隠れ」というお話をご存知ですか?」


「朧げではありますが、知っています。確か、天照大神が怒って天の岩屋に隠れてしまった、というお話でしたよね。」


「その通りです。太陽神である天照大神は弟である素戔嗚命の悪戯に激怒し、天の岩屋に閉じ籠ってしまいました。

最終的には、大神は天の岩屋から引っ張り出されることになるのですが、そのきっかけを作ったのが天鈿女命(あめのうずめ)という女神でした。」


「天鈿女命……?」


「はい。彼女は、天の岩屋の前で足を踏み鳴らして踊ったのです。これが、神楽を含む後世の様々な芸能の起こりとされています。____東雲に舞ってもらったのは、彼が天照大神の系列を組んでいることのほかに、天鈿女命から直々に舞を教わったからです。」


「えっ」



衝撃の事実に、翡翠はただ驚きの声をあげることしかできなかった。


その様子を見た碧泉は、ますます笑みを深める。



「本当に、翡翠さんは良い反応をしてくださいますね。

一応、僕も彼女から舞を習いましたが、どちらかと言うと弁才天に楽器を習うことの方が多かったので、今回は楽器を担当しました」


「お二方とも、女神様から舞や音楽を習得されたのですね。もしかして、お二方の正装が男性の正装である袴姿ではなかったのも……」



今度は東雲が翡翠に答える。



「ええ。天鈿女命を意識してのことですよ。最も、翡翠さんのおっしゃった男子の正装は袴という概念は現代のものですね。

平安の頃は束帯だったわけですし、その身分によっても違いましたので。」


「言われてみれば、確かにそうですね。難しい……」


「人の子の風俗は時代によってコロコロと移り変わるものですから、把握しきれないのも当然です。

それに、人の子は何よりもまず自分を精一杯生きることの方が先決ですから、自分の生きる時代についての諸々を把握できていれば大丈夫です。」


「私は歴史を学んでいるので、できれば昔の風俗も把握したいのですが……」


「では今度、私が直々に教授しましょう。

東北対には何千年も昔から集めていた、人の子の装束が保管してありますので、それを見ながら」


「本当ですか!!!是非お願いしたいです。というか、そんな貴重なものがあったなんて……」


「君、そんなことやってたの?」


碧泉が呆れの混ざった声色でそう言った。



「あなたの蒐集物よりは、遥かに良いと思いますがね」


「碧泉さんも、何か蒐集しているものがあるんですか?」


翡翠の問いに、碧泉は妖艶とも言える笑みを湛えた。

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