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導きの神様  作者: 夕月夜
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第一章一節 長月の出会い その8


『今日はもう暗いですから早くお帰りなさい』



と東雲に言われて、翡翠はやっとあたりが暗くなっていることに気がついた。



翡翠の意識が東雲に注がれていたのもあるが、神社の照明が殊の外明るく、夜闇の暗さを感じさせなかったことも、翡翠が夜になったことに気が付けなかった大きな要因だろう。


言われるがままに東雲と別れて家に帰った後も、翡翠はまだ半分夢を見ているのかと思った。


しかし、手を洗おうと洗面台に立ち、鏡にうつる自分の首筋の銀木犀の印を見ると、先ほど起こったことは現実であるということを嫌でも思い知らされた。



階段を上り、二階の角に位置する自分の部屋に戻ると、崩れ落ちるようにしてベッドにダイブした。

そのままゴロンと横を向き、去り際に言われた東雲の言葉を思い出す。



『もし、何かありましたらいつでも私を呼び出してください。そのための方法をお教えしておきますね。』



そう言って、東雲はある言葉を教えてくれた。


翡翠は目を閉じ、その言葉を思い出しながら、声に出して詠み上げた。



「我を守護するモノよ 我が願いに答え その姿を現せ」



唱え終わってから数秒後に目を開けてみたものの、視界に東雲の姿はなかった。

言葉が間違っていたのか、それとも言葉自体がまやかしだったのか。

翡翠はうーんと唸りながらクルリと方向転換をして、壁に背を向けた。



「こんばんは、翡翠さん」

「うわあ!!!!!」



振り向いた瞬間いないと思っていた東雲の顔が間近にあったので、翡翠は驚きのあまり叫び、バッと勢いよく体を起こした。



「び、びっくりした……!!もう、いるならそう言ってください!!!心臓飛び出るかと思いました!!!!」



顔を真っ赤にして怒る翡翠を面白そうに眺めてながら、東雲は口を開いた。



「すみません。翡翠さんに呼ばれた時、早速翡翠さんの身に何か起こってしまったのかと心配して飛んで来たのですが、特に危険が迫っている様子もありませんでしたから、安心すると同時に少しの悪戯心が生じてしまったのです。


もう二度とやりませんから、そんなに怒らないでください。」



口では謝りながらも、ふふっ……と笑いが溢れているところを見るに、全く反省していないと見える。

しばらくの間東雲は翡翠に視線を注いでいたが、ふいに視線を他所へ逸らした。



「それにしても、素敵なお部屋ですね。ここは、翡翠さんの自室ですか?」



少し遠慮がちに、それでも溢れ出る好奇心を抑えることができないといった表情でキョロキョロと部屋の中を見回している。


特に見られてまずいようなものはなかったので、翡翠は特に咎めることもしなかった。


側から見れば、年頃の女性の部屋を成人男性が興味ありげに見回している、というあまり歓迎できる状況ではないが、相手は人間では無いのだから特に問題はないだろう。



「はい、ここは私の部屋です。あまりものを置かないようにしているので、特に面白味もないとは思いますが……」



ベッドと本棚以外特にこれと言って特筆するようなものもない自分の部屋を眺めながら、翡翠は東雲の言葉に答えた。


何度か自室に友人を招いたことがあるが、その全員から『生活感がないね』と言われてしまった自室だ。東雲から見ても、きっと面白みのない部屋に映ってしまっているだろう。


しかし、翡翠の予想に反し、東雲は「そんなことありませんよ」と言って、また物珍しそうに室内を眺めている。


どうやら、現代の人間がどんなふうに暮らしているかと言うことに興味があるようだ。


しばらくは東雲の気の赴くままに部屋を見てもらっていたが、流石にいつまでもこうしているわけにはいかないと思い、再び口を開いた。



「あの、もし良ければ少し休んで行かれませんか?急に呼び出してしまったのはこちらの方ですし、そのまま帰ってもらうのは申し訳ないので」


「その点に関しては全くもって気にしないで大丈夫なのですが……。せっかくなのでお言葉に甘えて、少し休憩させていただきましょう。」


「承知しました。それでは、一緒に一階に降りましょう」


「はい」



翡翠の部屋を出た二人は、階段を降りてすぐの右手に現れる扉をあけ、リビングへと足を踏み入れた。



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