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導きの神様  作者: 夕月夜
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第四章一節 水無月の戯れ その12


それからさらに三十分ほど経ってから、翡翠は東雲と碧泉に付き添われながら、家路を歩いていた。

既に日は落ち、辺りは暗くなり始めている。



「すみません、お二方に付き添っていただいて」


「いいえ、翡翠さんが気にすることではございませんよ。今回のことは碧泉に起因することなのですから、むしろこれは当然のことなのです」


「その通りです。僕の知的好奇心にお付き合いいただきありがとうございました」


「碧泉」



また言い合いになりそうな気配を察知した翡翠は、慌てて口を挟んだ。



「ありがとうございます、東雲。大丈夫ですよ。きっと碧泉さんは少しでも反省の気持ちがあるからこそ、こうしてついて来てくださってると思うので」



東雲は翡翠の言葉を聞き、はあーっと深い息を吐いた。



「翡翠さんはお優しい。__翡翠さんに感謝するのですね、碧泉」


「……言われなくてもわかってる」



碧泉は袖に手を入れながら、そう答えた。


翡翠は上手くこの場が収まったことにホッとしながら、視線を道の向こうへと向ける。


もうすぐ見慣れた横断歩道に差し掛かる____

その時、漠然と違和感を感じた。



「あれ?」


「どうかしましたか、翡翠さん」



翡翠の声に反応した東雲と碧泉が歩みを止め、翡翠を見つめる。



「あ、その……。私の記憶違いかもしれないんですけ、この横断歩道の向かい側にある信号機と電話ボックスって、逆にありませんでしたか?

まあでも、よくよく考えてみればあんな大きなものがそうそう動くことなんてないので、きっと私が間違えて覚えてたんでしょうけど……」



口ではそう言ったが、翡翠は内心首を傾げていた。

以前から何度かこのようなことがあったが、その都度自分の思い違いだろうと流していた。


でも、よくよく考えてみればおかしい。

東雲や碧泉と比べてしまえば自分などは赤子同然だろうが、人間の年齢で考えればもう後一年で二十歳、立派な成人だ。


私は生まれてからずっとこの街で育った。自分が違和感を覚えた箇所は何度も通っている。それなのに、複数箇所に及び記憶違いが起こるものなのだろうか。



「あの、少しでいいので私の話を聞いていただけませんか?」



翡翠の真剣な表情に、碧泉と東雲は無言で頷いた。

それから、翡翠は自分が思っていることを話した。

以前からこのまちで見かけるものの位置関係に、違和感を感じることがあること。


そして、それは一度や二度ではないこと。


翡翠の真剣な表情に、碧泉や東雲も真剣に向き合ってくれているような気がした。

話が終わった後、東雲は「頭に入れておきますね」と優しく笑った。

その笑顔を見たこと、そして二柱に話したことで、頭の中の整理がつき、少し落ち着くことができた。



「お付き合いいただきありがとうございました。それでは、これで失礼します」



既に家の前に辿り着いていた翡翠は、これ以上神様たちを縛るわけにはいかないと、別れの挨拶を告げた。



「いえいえ、礼には及びませんよ。……信号機と電話ぼっくすのお話しですが、似たような配置の場所がこの街にあるので、翡翠さんはそれと混同してしまったのでしょう。なので、あまり気にしすぎずに。____それでは、おやすみなさい」


「ありがとうございます。おやすみなさい」



二柱の瞳が闇の中に光るのを見ながら、翡翠は家の扉を閉めた。





一方で、翡翠と別れた二柱の神は、しばらくその場で佇んでいた。沈黙ののちに口を開いたのは碧泉だった。



「もう少しなんだね、翡翠さん。」


「__そのようですね。私としては、時期が早まるのはありがたいことです。あなたの相手をしなければならない期間が減ります。それに……」



一瞬だけ視線を宙に彷徨わせた後、再び東雲は口を開いた。



「あのことへの対処も必要ですしね。____まさかこんなことになるとは。最初はあなただけ警戒していれば大丈夫だと思っていたのですが、今となってはその浅慮を呪いたいです。」



珍しく覇気のない東雲の言葉を聞いていた碧泉は、腕を組んだまま表情を曇らせた。



「『あの話』のこと、か。僕も正直、それを耳にしたときは驚いたよ。

君と同意見なのは釈だけど、今回ばかりは賛成する。君は僕を警戒するよりも、まずはあちらを対処すべきだと思うね。」



碧泉の表情も心なしか険しい。それほど、突きつけられた現実は厳しいものであった。



「そんなこと言って、私が向こうに気を取られている隙に何かしでかす気でしょう。」


「さあ、どうだろう。まあ、今の状況下において敵を見誤らないことだね。それじゃあ、僕は失礼するよ。」



そう言い残して、碧泉は東雲の前から忽然と姿を消した。


取り残された東雲は、思案すべきことの多さに頭痛を覚え、一つ深いため息をついた。



「……面倒ですが、一つずつ対処していくしかありませんね」



東雲の声が小さく辺りに響いた次の瞬間には、既に東雲の姿はそこにはなかった。




[第四章一節 完]

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