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導きの神様  作者: 夕月夜
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第四章一節 水無月の戯れ その11


「あ、味がないですね。普通に水を飲んだ時みたいです。」



なんの異変も起きなかったので、翡翠は心の中でほっとため息をついた。


『なんだ、そこまで身構えなくてもよかったかもしれない』


そう思った直後、殴られたような強い衝撃が、翡翠の思考と動作を停止させた。


世界が歪んで、グルグルと旋回しているように見えるこれは、間違いなく目眩だ。


あまりのことに翡翠は座ったままの状態でいることができず、どさりと上半身を畳に投げ出した。



「翡翠さん!?大丈夫ですか!!!」



それまでは口を挟むことのなかった東雲が、必死の形相で翡翠に呼びかける。



「なんか、世界が回ってるように見えて……それに、すごく、気持ち悪いです…………」



やっとのことで絞り出した声は、とてもか細いものだった。それでも、東雲には聞き取ることができたようである。



「目を閉じて、深呼吸をしてください。大丈夫です。それを続けていれば四半時ほどで治るはずです」



それから、東雲は東の対にあるという来客用の毛布を持ってきて、そっと翡翠にかけてくれた。

碧泉は特に何もせず、ただ座ってじっと東雲と翡翠を観察していた。


東雲の言葉通りにしてしばらく横になっていると、酔ったような、もしくは目眩のような症状は治まっていった。

もう大丈夫だと思ったところで、翡翠は側で見守ってくれている神々に声をかけた。



「お二方とも、ご心配をおかけしました。だいぶ楽になってきました。」



そう言って体を起こそうとすると、東雲に「まだ横になったままでいてください」ととても心配そうな表情で言われたため、起き上がりかけた上半身をもう一度床へと投げ出した。



「以前、親戚の集まりで誤って強いお酒を口にしてしまった時の状態と似ていました。その時より今回の方が断然キツかったですけど。」


「『水鏡』を口に含んだ際、その副作用として酔いと同じような症状が出ることがあるのですが、まさかここまでとは……。申し訳ないことをしました。」



翡翠に謝罪を述べる碧泉だったが、特に反省をしているようには見えない。


内心溜め息をつきながら、翡翠は再び口を開いた。



「いえ、大丈夫です。でも、金輪際『水鏡』を持ってくるのはやめてくださいね。」


「もちろん、心得ていますよ。それに、私の長年の夢は叶ったわけですし、もう他の人の子で試そう、とも思いません。」



碧泉の言葉を聞きながら、翡翠は東雲からの忠告を思い出していた。


『神の出す食べ物をむやみやたらに食べてはならない』、と。


これからは気をつけよう。


先ほどの強烈な目眩を思い出しながら、翡翠は密かに心に誓った。



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