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導きの神様  作者: 夕月夜
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第四章一節 水無月の戯れ その9



「あ、もう神社に着いちゃいましたね。もう少し、お話ししていたかったのですが……」



鬱蒼と木々が生茂る参道の入り口を見ながら、翡翠はそう呟いた。


お店から東雲の神社まで距離はあったものの、行きと同様に始まった二柱の言い争いや、碧泉の術のことなどを聞いているうちに、瞬く間に神社の前に到着してしまったのだ。


翡翠の表情を横目でチラリと見た東雲が、腕を組んだまま口を開いた。



「ここで話しているのも何ですから、この続きは私の社で。____碧泉も、今回は特別に招待して差し上げます。」


「では遠慮なく。」



碧泉は張り付けたような笑みを東雲に向けてから、颯爽と鳥居の奥へと進んでいく。

翡翠と東雲もその後に続いて鳥居を潜った。



「ありがとうございます、東雲。私の気持ちを汲んでくださって」



小さい声で、翡翠は東雲にお礼を述べた。

翡翠の声をしっかりと拾ったらしい東雲は、表情を緩める。



「……翡翠さんにはいつも笑顔であってほしいですから、これくらいは。それに今の段階で碧泉がこちらに何か仕掛けてくる、と言うこともなさそうですので」


「碧泉さんが……?」



翡翠の問いに、東雲ははっとした顔をしたが、すぐに普段通りの美しい笑みを浮かべた。



「いいえ、何でもありません。それより、少しだけ急ぎましょうか。彼が待ちかねているようですので」



そう言って東雲が視線を前方へと滑らせたので、翡翠も前を向くと、参道のずっと奥でこちらを振り返る碧泉の姿があった。



「本当ですね。急がなくては」



翡翠と東雲は少しだけ笑い合ってから、急足で碧泉の元へと進んだ。

閑静な境内の中に、一人と二柱の息遣いだけが聞こえる。

その静寂を裂いたのは、一足先に二ノ鳥居を潜っていた碧泉だった。



「相変わらず、向こうとは違って何もない境内だね」


「碧泉」



碧泉の言葉に被せるように、東雲は一声かの神様の名を呼んだ。



「……ああ、まだ伝えていないのか。____それはさて置き、翡翠さん」


「は、はい!」



まさかこの流れで自分の名前が呼ばれるとはつゆほども思っていなかったため、少しうわずった声で答えた。



「翡翠さんに、一つ試していただきたいことがあるのです」


「試してほしいこと……?」


「はい。詳しくは後でお話しさせていただきますので。……そして東雲」


「何でしょう」


「頼み事をするのは癪だが、君のところの釣殿、もしくは寝殿を貸してほしい。これは座れるところの方が都合がいいから」


「__その翡翠さんへの頼み事、と言うのは、私が承認できる内容なのでしょうね」


「ああ、もちろん。その辺は考えてあるさ」


「では、とりあえず釣殿へと移動しましょう」



東雲の承諾により、一行はぞろぞろと邸宅へと続く門の内へと入ることになった。





釣殿に到着し、一番に口を開いたのは碧泉だった。



「到着早々本題に入らせていただきますね。__まずは、こちらをご覧いただきたい。」



そう言って碧泉がガサゴソと持っていた風呂敷包みを開けはじめた。

何だろう。

翡翠は不思議に思って碧泉の手元を注視していると、小さな水瓶とお猪口が一つずつ姿を現した。


水瓶は碧泉の瞳と同じ、瑠璃色で彩られており、光が当たってキラキラと輝いていることから、ガラスでできているように見える。


お猪口もガラスでできているように見えるが、こちらは水瓶と違って色がなく透明だ。



「綺麗でしょう。これは僕のとっておきの品なんです。せっかくですから、翡翠さんにお見せしようと思いまして。」


「思わず見入ってしまうくらい素敵ですね……。光の当たり具合によっては、七色に輝いているようにも見えます。これは何でできているんですか?」


「実はこれ、どちらも玻璃でできているんです。人の子がよく使う言葉で表せば、水晶ですね。水瓶の彩色は私が行いましたが、詳しいことは秘密です。」



人差し指を口元に当て、微笑む姿は玻璃にも負けず劣らず美しい。



「それで、碧泉さんが私に試してほしいことって、何ですか?」



翡翠の問いに、待ってましたと言わんばかりに碧泉が口を開いた。

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