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導きの神様  作者: 夕月夜
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第四章一節 水無月の戯れ その6


「翡翠さんが嬉しそうで何よりです。術を使った甲斐がありました。」


「へー!碧泉さんが術を…………って術!?術をかけたんですか!?何に!!?」



碧泉があまりにも普通のことのように言ったので、翡翠は一瞬流しそうになったが、碧泉の言葉を自身で反芻したことによりその可笑しさに気がついた。



「何にって、このお店にですよ。僕たちがいる間は他の人の子やら何やらが近づかないように、少しばかり細工をしたまでです。」



何か問題でもありましたか?と言いながらキョトンとしている碧泉の姿を見た東雲が、翡翠の横で盛大なため息をついた。



「問題しかありませんよ。良いですか、碧泉。ここはあくまで人の子のための場所です。それを奪うような真似はしてはいけません」


「他の人の子が充満していたら、鬱陶しいだけじゃないか。感謝はされても、説教を受ける筋合いはないと思うけど?」


「ま、まあまあ。碧泉さんは何も知らなかったのですから、ここまでにしましょう、東雲。____碧泉さん、お心遣いありがとうございます。ですが、東雲のおっしゃる通り、ここは皆の憩いの場ですので、次からは術などはかけないようにお願いします」



翡翠の言葉に、碧泉は顔を顰めながらも、頷いた。



「わかりました。翡翠さんがそうおっしゃるなら、次からは術を用いないようにします」



碧泉の言葉に、翡翠は内心ほっとしながら、「ありがとうございます」と頭を下げた。


東雲はまだ不服そうな表情だったが、碧泉が素直に従ったためか、何も言わずにいる。



「では、注文する品を決めてしまいましょう」



そう言いながら、翡翠は二つのお品書きを手に取り、神々に手渡した。



「ありがとうございます。よければ、翡翠さんも一緒にご覧ください」


「ありがとうございます!それでは、お言葉に甘えて失礼します」



横にいる東雲がお品書きを開いて中央に置いてくれたので、翡翠はありがたく一緒に見せてもらうことにした。


お品書きは見開き一ページのみで、それもほとんど写真付きだったので、大変見やすかった。


これなら、碧泉も自分が興味のあるものを選べるだろうと、翡翠は心の中で安堵のため息を吐いた。


普段メニュー決めには時間がかかる翡翠だったが、お店に来る前にしっかりと下調べをしていたので、すんなりと決まった。


それから幾許もなく二柱も「決まりました」と声が上がったので、手をあげて店主さんを呼び、各々選んだ品を注文した。


店主さんが用意してくれたお水を飲みながら、料理が来るのを待つ。



「このお店は、以前もいらしたことがお有りですか?」



東雲の質問に対し、翡翠は首を横に振った。



「いえ、このお店には初めて来ました。ですが、以前からずっと気にかけてはいたので、お店の存在自体は前々から認識していました」


「そうでしたか。それでは、今日来訪することができて良かったですね」


「はい!お付き合いいただきありがとうございます」


「いいえ、礼には及びません。こちらこそ、心落ち着く素敵なお店にお誘いいただきありがとうございます」



東雲の言葉を嬉しく思った翡翠が笑みを返すと、碧泉がふっと息を吐いた。



「東雲、君は少し人の世に馴染みすぎていない?」



頬杖をつきながらそう言い放った碧泉を、東雲が涼しげな眼差しで見据えた。



「そうでしょうか?貴方こそ、もう少し人の子の営みに寄り添っても良いのでは?」



東雲の言葉に、碧泉は冷笑を浮かべる。



「よく言うよ。__そんなに肩入れしていると、また同じ過ちを繰り返すことになるよ」



碧泉の言葉に、東雲は唇をギュッと引き結んだ__ように見えた。


何も返さないと言うことは、碧泉の言うことも一理あるのだろう。

二柱のやりとりはそこで途切れてしまった。

翡翠は気まずい……と思いながらも、碧泉の言葉を反芻していた。


『また同じ過ちを繰り返す、か』


本神たちは不本意のようだが、この世に生み出されてから長い年月を共にしているだけあって、お互いの過去を知り尽くしているのだろう。

当然、そこには翡翠の知らない東雲の過去が含まれる。


『そういえば私、東雲の過去について、何も知らないんだよね』


出生についてはもちろん、何処にいたのか、どんな時を過ごしていたのかも、何も知らない。


何度か過去の話になりそうな瞬間はあったが、いつも曖昧な笑みではぐらかされてしまっていた。

きっと、人の子である私には話せない内容なのだろうと、翡翠もそこまで気にせずに今日まで来たが、二柱の会話を聞いて、少し寂しいと思ってしまう自分がいた。


とても気になりはするものの、いつか東雲本神が話してくれる日まで待とうと、翡翠は心に誓っている。


なので、これ以上この話題については考えないようにしようと考え、翡翠は碧泉に以前から気になっていたことを問うことにした。



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