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導きの神様  作者: 夕月夜
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第四章一節 水無月の戯れ その4


東雲と一緒に街を歩いていると、毎回たくさんの人の視線を受けていたので、人から向けられる視線にはだいぶ慣れたと思っていたが、性別不詳の美貌を持つ碧泉が加わったことにより、今までにないくらい多くの視線を浴びている。


正直なところ、お二方には顔を隠していただきたいが、神様相手に自分が所有している変なお面を被ってもらいたい、とお願いするわけにはいかないので、諦めることにした。


救いなのは、声をかけてくる人が一人もいないこと。


それはきっと、東雲の持つ特性に起因しているのだと思う。

東雲には、人間から認識されにくい、という性質が備わっている。

そのため、見た瞬間は鮮明に覚えていても、すれ違った後は曖昧な存在になってしまう。

つまり、東雲の顔を見て綺麗だと思った人がいたとしても、東雲とすれ違った後は、『綺麗な人を見かけたような気がするけど、どんな顔だったかは覚えていない』という状態になる。さらに数分で東雲の姿を見たことへの意識がなくなってしまう________のではないかと考えている。


以前、『人間から認識されにくいという性質が備わっている』ということは教えてもらったが、その具体的な効果については教えてもらわなかったので、私の憶測の域を出ない。


しかし、これは大概当たってるのではないかと翡翠は考えている。


というのも、何度か東雲と外出した先で、彼に視線を向ける人々を注意深く観察して、導き出した答えだからだ。


何はともあれ、この性質のおかげで東雲と歩いていて声をかけられたことは、今のところ一度もない。


碧泉もそういった特殊な性質を持ち合わせているかは不明だが、彼と遭遇した時は決まって人の往来が途切れることから、人を寄せ付けないような特異性を持つか、術を使っていることはまず間違いない。


ただ、人間である翡翠が碧泉と一緒にいることができるので、後者の何らかの術をかけているという説が濃厚なのではないかと翡翠は考えている。


頭の中でぐるぐると考え事をしていると、不意に、周囲の地面の色が暗くなった。



翡翠が自分の左手側を見てみると、碧泉が手に持っていた和傘をさしていた。


彼が傘を開いたことにより、翡翠の目線の先にも影ができたのだった。


変化したのは、それだけではなかった。

和傘をさしたことにより、こちらに向けられる視線が物理的に遮断されたのだ。


そのお陰で、先ほどから少しささくれ立っていた翡翠の心が、いくらか落ち着いた。


碧泉の行動の意図に気がついた東雲は、じっと碧泉を凝視した。



「意外でした。まさかあなたにそんな配慮ができるとは」



心底驚いたように、東雲が言った。



「僕もそろそろ我慢の限界だったんですよ。ジロジロと好奇の目で見られるのには。これだから人に姿を晒すのは嫌なのです。」



そう言って、碧泉はふいっと私たちから表情を隠すように、そっぽを向いた。


翡翠と東雲が顔を見合わせていると、顔を背けていたはずの碧泉が、こちらを、正確に言うと東雲を睨みつけながら口を開いた。



「というか東雲。指摘はしなかったけど、さっきの発言、だいぶ失礼では?」



碧泉の言葉に、東雲は満面の笑みを浮かべる。



「そんなことはありませんよ。あなたの日頃の行いを見て出た発言なので、事実です。」



間違いなく煽ってる。


翡翠はそう思ったが、口を挟まずにいた。

案の定、碧泉の表情は先程よりさらに厳しいものへと変貌を遂げた。



「一々感に触ってくれるね。大体君は昔から________」



流石に止めようかなと思ったが、後の祭りだった。


翡翠が止めに入る隙もなく、気がつけば言い争いに発展していた。


そんな二柱を見て、思わず苦笑を漏らしてしまう。


まだ碧泉とは出会ってから日が浅いはずなのに、東雲と言い争う姿を見るのはこれで何度目だろうか。


二柱が内心でどのように思っているかはわからないが、少なくともお互い気になっていることは間違いない。


嫌よ嫌よも好きのうち、とは言うけれど。


絵に描いたような、あまりにも模範的とも言える二柱の神の関係性を思いながら、翡翠はため息を漏らした。



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