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導きの神様  作者: 夕月夜
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第四章一節 水無月の戯れ その3


「以前拝見した着物も素敵でしたが、今回お二方が着用なさっている着物も本当に素敵です……。どちらもとってもよく似合っていらっしゃいますね」



うっとりとした表情で着物を眺めていた翡翠は、はっと我にかえり、口を押さえた。


『私、変なこと口走ってないよね……?』


無意識のうちに口から言葉が漏れていたことに気がついた翡翠は、自分が口にした言葉を頭の中で反芻した。


『多分、大丈夫……なはず』


翡翠が脳を慌ただしく働かせている一方で、東雲は長く艶やかな髪を耳にかけながら、伏目がちに微笑んだ。その頬は、ほんのりと赤みがさしている____ような気がする。



「不思議ですね……正直称賛の言葉は世辞にしか聞こえないのですが、翡翠さんの今の言葉は素直に嬉しいと感じました。その、ありがとうございます。」



その様子が形容し難いほど美しく、また何故か色っぽく、翡翠は逆に動揺してしまい、返答に詰まった。



「あ、いえ。その、こちらこそありがとうございます?」



本当に、どんな仕草でも絵になるな、と感嘆しながら、翡翠は改めて東雲の全身を見た。


今日東雲が着ている着物は、鳥の子色の地に白百合があしらわれていた。葉の萌黄と花蕊の苅安がとても綺麗だ。

白の帯には、太く薄黄色の線が入っている。

暖色系の色がメインにも関わらず、落ち着いた雰囲気を持ち合わせるこの着物は、東雲によく似合っていた。


足下に視線を落とすと、視界に草履が映った。白をメイン色とした草履の鼻緒には浅緑で植物の葉と蔓が描かれていて、着物との相性は抜群だ。


全体を見ても個々を見ても、何ひとつ浮いたものはなく東雲に馴染み、彼の持つ優しい雰囲気をより引き立たせている。


加えて、その着物は夏用の素材で仕立てられているらしく、透け感がある。

それがまた彼の人間離れした____実際、人間ではないが____容姿に調和し、より神秘的に見える。


その一方、碧泉が着ている着物は、ライラック色の地に白百合があしらわれていた。

東雲の着物には百合とともに葉が描かれていたが、碧泉の着物は花だけだった。


裾の方は古代紫で彩られており、百合の白さを一層際立たせている。


袖に模様は描かれていないが、裾と同じようにライラック色から古代紫のグラデーションになっていてとても綺麗だ。

襟と帯は紺青、草履と足袋は白で、着物との相性もいい。


さらに、草履の鼻緒は古代紫に染め上げられていて、全体的に見てもとてもバランスの取れたコーディネートになっている。

帯についている房飾りは碧泉の瞳と同じ、瑠璃色をしていた。


これら全てが、碧泉の持つはかなげな雰囲気をさらに引き出している。


どちらも百合を着物の柄に取り入れているが、色使いや配色が違うだけでこんなにも異なる雰囲気になるものなのかと、翡翠は驚きを隠せなかった。


装いを褒められた二柱は、嬉しそうに目を細めている。



「ありがとうございます。今日の僕の格好は、僕なりのこだわりを詰め込んでいるものだったので、褒めてもらえるのは嬉しいですね。」



碧泉は、意外にも素直に礼を口にした。

コーディネートを褒められたことが、よほど嬉しかったのだろう。

そう思うと、少し子どもっぽく、それが可愛くも思えてしまい、翡翠は知らず知らずのうちに笑みをこぼしていた。



「翡翠さんのお召し物も素敵ですよ」



碧泉からの思いがけない言葉に、今度は翡翠が頬を緩ませる番だった。



「ありがとうございます。私、この洋服がお気に入りなんです」



そう言って、翡翠は自身が身に纏っているスカートの端を少し摘んで見せた。


今日の翡翠の服装は、紺色の地に黄色と白の小花が描かれた半袖のワンピースに白のカーディガンを羽織っていた。


ワンピースはウエスト部分に切り返しが入っており、全体的にすらっとした印象を与えてくれる。 二柱と同じように、ワンピースの生地は夏用のサラサラとした薄い生地で仕立て上げられていた。軽いので、動くたびにスカートの裾がふわふわと揺らめく。布がふんだんに使われているため、広がった際の形が綺麗なことも、翡翠がこのワンピースを気に入っている理由の一つだ。


靴は、サーモンピンク色のヒールサンダルで、全体的に暗めの色彩に華やかな印象をプラスしてくれる。


自分の中ではお気に入りのワンピースで、可愛いと思っているが、二柱の着物と比べてしまうとどうしても見劣りしてしまう。


そんな考えが浮かんだところで、翡翠は『いや、待てよ』と心の中で呟いた。


と言うか、この世の中に二柱の纏う着物に勝るものはないだろう。

比べるだけ無駄。自分が着ていて嬉しい気分になれるのであれば、それ以上を望む必要はない。


そう思うと、翡翠はなんだか気持ちが軽くなったような気がした。


この心意気を持っていれば、人の視線なんか気にならない……とは、流石にならなかった。


突き刺さる視線から逃げるようにして、翡翠は顔を背けた。



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