第四章一節 水無月の戯れ その2
翡翠に追いついた二柱は、翡翠の両脇を固めるようにして歩いていた。
右を向けば中性的で美しい顔立ちをした碧泉、左を向けば涼やかで凛とした雰囲気を纏う、こちらも負けず劣らずの美貌を持ち合わせた東雲。
そのような美形に挟まれて歩く翡翠は、周囲から一体どのように見られているのだろうか。
そんなことを考えながら、二柱とのとりとめのない会話を楽しんでいた。
近況を話していたところで、碧泉がふと思い立ったように呟いた。
「ところで、本日はどのようなお店に行こうとしてるんですか?」
質問を投げかけられた翡翠は、そういえば説明してなかったな、と思いながら、話し始めた。
「今日行こうとしているお店は、江戸後期に建てられた日本家屋を改造したところらしくて、昔ながらの雰囲気を楽しみながらお菓子をいただけるそうなんです!
店内は畳ではなくテーブルと椅子という西洋スタイルですが、お店の雰囲気に合うように、全て暗めの色調で統一されていて、とても落ち着く空間だと、行った人から教えてもらいました。」
そこまで口にしたところで、あることに気がついた。
「先ほど昔ながらと言いましたが、何千年という時間を過ごしているお二方からしたら、昔というよりは最近かもしれませんね……」
翡翠がそう言うと、東雲と碧泉が顔を見合わせた。
「僕は特に気にしませんので、そういったことはお気になさらず。
そもそも、生きている人の子と神が同じ時間を共有することなど、あり得ませんから。」
なんでそんなことを気にするのかわからない、とでも言うように、碧泉はあまり抑揚のない声で言った。
「我々の時間と人の子の時間は、あまりにも違いすぎるので、こういった認識の違いが起こってしまうのは当然です。
翡翠さんは、ご自身の時間軸で話をしてくださって構いませんので。」
東雲は、子どもを諭すようなふわりとした声音でそういった。
「ありがとう……ございます……」
翡翠は若干複雑な気持ちのまま、とりあえずのお礼を言う。
二柱の返答に彼らなりの優しさを感じると同時に、人と神の絶対に超えられない隔たりのようなものを感じてしまった気がする。
『いやいや、今はそんなこと気にしている場合じゃない』
翡翠はブンブンと首を振って、気持ちを切り替えた。
せっかくのお出かけだ。楽しくなれるようなことを考えよう。
翡翠の両脇を固める二柱に視線を向けると、身にまとう着物の美しい柄に目がいった。
確かこの前までの東雲の着ていた着物は、白の地が裾の方に行くにつれて薄い橙色から濃い橙色に染まっていた。裾や袖には扇子の柄が描かれており、いつ見ても惚れ惚れするほど素敵だった。
一方の碧泉も負けず劣らず美しく、また儚げな雰囲気によく合う着物を纏っていた。
水縹色の地の着物に、白と水縹で交差する波線紋が描かれた紺青の帯を締めていた。裾の方は行くにつれて水縹が紺青、漆黒へとグラデーションしており、その色がとても鮮やかで美しかった。
さらに、裾には白と洋紅で鞠が描かれ、その上に金が散りばめられていた。
全体的に青系統の色でまとめ上げられた碧泉の装いは、彼の纏う落ち着いていて儚げな雰囲気とよく調和していた。
二柱とも透き通るような白い肌を持ち合わせているが、どちらもその特性を生かし、かつ自分の持つ雰囲気を引き立たせるような色使いの着物で、何度見ても見惚れてしまうほどだった。
しかし、今回彼らが纏っている着物も、負けず劣らずに素敵だった。
着物のことを考えているうちに、気がつけば翡翠は抱いた感想を口にしていた。




