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導きの神様  作者: 夕月夜
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第三章二節 風光る雛月の寿ぎ その15


帰りも、行きと同じくバスで帰ることにした。


流石に、行きのバスよりもはしゃぐ東雲の様子は見受けられなかったが、やはりどこか嬉しそうにしている。


神社近くのバス停でおり他ところで、翡翠は持ってきていた東雲へのお裾分けを食べ忘れたことに気がついた。



「あ、忘れるところでした……!実は、先日お気に入りの和菓子屋さんの前を通った際に美味しそうな桜餅を見つけたので、桜を見ながら一緒に食べようと思って購入しておいたんです。

でも、出すタイミングを逃してしまったので、今ここでお渡ししますね。とても美味しいので、ぜひお社の皆さんと召し上がってみてください」


「そうだったのですね……。翡翠さんが桜餅を持ってきてくださったことに気づかず、申し訳ないです。もし、翡翠さんが良ければ今から一緒に食べませんか?お茶をお出ししますよ。」


「え、良いんですか?私は朝もお邪魔してしまっていますが」


「ええ、もちろんですよ。以前と同様、池を眺めながら共に食しましょう。今朝お話ししましたが、丁度境内の桜が満開になっていますし、庭園に植えてある水仙や桃の花も見頃ですから、ぜひ。」


「それでは、お言葉に甘えてお邪魔させていただきます」



そう言って微笑んだ翡翠の目の前にいる東雲も、まるで花が開いたかのように美しく、それでいて本当に嬉しそうに笑うので、翡翠はなんだか嬉しくなった。





釣殿に到着し、すでに用意されていた座布団に腰を落ち着ける。


吹き抜ける爽やかな風と、池のほとりに咲く水仙や微かに芳る桃の花の匂いに、翡翠は改めて素敵な場所だと思った。


池を眺める翡翠に、東雲は優しい笑みを向けながら声をかけた。



「ここで少しだけお待ちいただけますか?少し準備をしてきますので」


「承知しました。私に何かお手伝いできることがあればおっしゃってください」


「ありがとうございます。ですが、その気持ちだけで充分ですよ。翡翠さんは客人なんですから、ゆっくりしていてください。それでは」



翡翠の目線に合わせて屈んでいた翡翠は、スッと立ち上がり奥の部屋へと去っていった。

衣擦れの音が次第に遠くなり、聞こえなくなってから、翡翠はふーっとため息をついた。


もう何度も見ているはずの東雲の所作の美しさに、少し緊張していたようだ。


少しだけ足を崩した後、翡翠は改めて陽の光を反射して煌めく池の水面を見つめた。


そよそよと柔らかく吹く風は暖かい空気を孕み、翡翠の身体を温める。

そよぐ風は翡翠の横を通り抜け、池の端に咲く水仙を揺らした。

少し離れた場所に見える平橋の奥には、桃の花が風に花びらを散らしていた。


そういえば以前蓮が咲いていた時には東雲が術をかけていたけど、この花たちにもかけているのだろうか。


そんなことを考えながら、しばらくぼーっと景色を眺めていた。


モンシロチョウがひらひらとこちらに寄ってきたときに、翡翠はこの春の日の長閑さを詠んだ和歌があったことをふと思い出し、口ずさんだ。



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