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導きの神様  作者: 夕月夜
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第三章二節 風光る雛月の寿ぎ その9


そこには様々な種類のコーヒーの銘柄が書かれており、メニューの最後には「全て自家焙煎です」と書かれている。


どうやらここ『Light Snow』は、以前訪れたことがある『笹鳴』と同様、自家焙煎のコーヒーが売りのようだ。


さまざまな種類のコーヒーの名前が列挙されていることに翡翠は内心喜んだが、ふと『東雲は大丈夫だろうか』と思った。

以前コーヒーを口にした際、東雲は自分には苦すぎると言っていた。

何か他の飲み物はあるだろうかと次のページをめくってみると、カフェオレや紅茶、甘酒やリンゴジュースなど、他のソフトドリンクの表記も見えたので、翡翠はほっと息をついた。


そのまま次のページを捲ると軽食が記載されており、翡翠の本日のお目当てのメニューもそこに書かれていた。



「決まりましたか?」



翡翠がメニューをパタンと閉じたところで、東雲が声をかける。



「はい!実は、ほとんど来る前には決めていたので。東雲は決まりましたか?」


「そうだったのですね。私も決まりましたので、注文してしまいましょうか」


「そうしましょう」



お水を持ってきてくれた店員さんにお互い食べたいと思ったものを注文し、一息ついてから翡翠はふと窓の外を見た。


硝子の向こう側に在る桜並木と川、そして桜を楽しみながら歩く大勢の人々の姿が翡翠の視界に映る。


一瞬、少し路地を入ったこの場所で先ほどまでいた並木路が見えるのかと驚いたが、どうやら入り口が路地側だっただけで窓側は並木路が見える通り沿いに面しており、それゆえに窓際に座ると桜並木が見えるのだった。


春色に包まれた世界と、そこで楽しそうに笑顔を浮かべる人々の姿を微笑ましく思っていた時、なんの前触れもなく突然翡翠の脳裏に映像が流れた。



その映像は今翡翠が現実に見ている視点と全く同じ角度からの視点で、同じように満開に花開く桜と、その並木道を歩く多くの人々の姿があった。


間に見えて異なることといえば、道を歩く人々の顔貌だけだった。


現実と頭の中の映像とを比較し認識したことにより、翡翠の中でとある予感が生まれた。



『もしかして、私はこの場所に来たことがある?』



そう思いはしたものの、直感的に出てきたこの考えに対して、翡翠は心の中ですぐさま首を横に振った。



『いや、まさかね。だって、私にはこのお店に来た記憶が一切ないんだから、きっと他の場所で似たような光景を見たことを思い出したんだ。』



翡翠はそう思いながらも、先ほどの光景は自分の中で生まれた白昼夢なのか、それとも現実に見たことがある光景なのか、考えれば考えるほどその判断__区別が難しくなっていった。


夢と現の現実の境が曖昧になり、危うく意識がのまれそうになっていたところで、翡翠を現へと呼び戻す凛とした声が耳に届いた。



「翡翠さん」



東雲に名前を呼ばれたことにより、翡翠は思考の海から意識を引き上げられた。


どうやら俯いたまま考え込んでいる翡翠を心配したらしいことが、その表情から窺える。

東雲の優しさを嬉しく思いながら、翡翠は口を開いた。



「すみません、大丈夫です。少し考え事をしていました。__それより、ここから桜並木が見えるんですね。見えるとは思っていなかった素敵な景色をみることができて、少し驚いてしまいました」



翡翠が窓の外に視線を向けると、東雲も上半身を斜め後ろに捻りながら、外を見つめた。


桜並木の上手側にお店が位置しており、翡翠は斜め向かい側に視線を向ければ視界に桜が映るが、東雲からすると後方にあるので見にくそうだ。


窓の外に視線を向ける東雲の艶やかな白い髪を見つめながら、翡翠は自分でも意図せずに東雲に提案をしていた。



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