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導きの神様  作者: 夕月夜
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第一章一節 長月の出会い その4



「なんでしょうか?何かご用ですか?」



赤い目の持ち主の凛とした声で、翡翠はやっと我に帰ることができた。



「あ、し、失礼しました!とても綺麗な目だったので、つい見惚れてしまいまして……」



男性に謝罪の言葉を述べながら頭を下げようとした時、翡翠(ひすい)はある事に気づいた。



______体が動かない。

正確に言うと、顔から下が動かないのだ。


その事実に気づいた瞬間、恐怖が体を支配する。


そして、耳に届く声。



「正直なことは美徳ですね。しかし、無闇矢鱈(むやみやたら)に他者の目を見るのは控えた方が賢明です。特に、私たち“神“の目は」



男性が放った一言で、私の頭の中はさらに混乱した。



『え、どういうこと?今、自分のこと神って言った?……そうしたらこの人……いや、この目の前に佇んでいるモノ(?)がおばあちゃんが言ってた神様……?と、とにかく、何か返さなければ。』



そう思って、必死に声を絞り出した。



「……私の祖母、桜をご存知ではありませんか?私の祖母は、あなた様の話を私にしてくれたことがありました。」



翡翠がそう言うと、赤い目の神様は何かを考えるそぶりを見せる。


透き通るように白く綺麗な顔に笑みを浮かべたかと思うと、ゆっくり顔をあげた。



「存じ上げています。翡翠さん、でしたよね。桜がよくあなたの話をしてくれましてね。

ご存知ないとは思いますが、実はあなたが生まれる前からあなたの存在を知っていたのですよ。

そんな縁もありまして、今回この社にあなたを招かせていただきました。」



神様の言葉に違和感を抱いた翡翠は、反論した。



「社に招く……ですか?私は、自分の意思でここに来ましたが。」

「そう思うのも無理はありません。ですが翡翠さんは、桜に『この社の周辺に近づくな』と釘を刺されていたのではないですか?」



神様に尋ねられ、翡翠はうっと声を漏らした。その通りだったからだ。



「あなたはその言いつけを堅く守り、桜が生きている間は決してこの場所に近づかないでいましたよね。それなのに、なぜか今日に限ってはこの社に足を踏み入れてしまった。

そしてその結果、今こうして私と相対している。

________こんなにも偶然が重なることは、あまりないと思いますが」



言われてみればそうだ。毎日通る場所にも関わらず、なんで今日に限って私はここに足を踏み入れようと思ったのだろう。

その理由を思い出そうとしても、浮かんでくるのはただ『なんとなく』という言葉だけだ。



「こちらに足を踏み入れる際に、参道の色づいた木々を見て綺麗だと思いませんでしたか?」



彼に尋ねられて、翡翠はようやくこの社に足を踏み入れることになったきっかけを思い出した。



『そうだ、思い出した。私は太陽の光が当たって黄金色に輝いた木々に魅せられて、ここに足を踏み入れることにした。…………でも、なんで忘れてしまっていたんだろう。ついさっきのことなのに』



翡翠は内心首を傾げながら、首を縦に動かした。



「はい、確かにそう思ってここに来ました。今の今まで忘れてしまっていましたが」



翡翠の言葉に、神様は優しい笑みを浮かべた。



「植物の魅力に目を向けることができるのは、とても素晴らしいことですね。でも、考えてみてください。おかしいとは思いませんでしたか?今はまだ長月で、木々が色づくには早い時期です。

それなのに、参道の木々は色づいていた。その美しさで、あなたを誘い込めるほどに」



彼の言葉に、翡翠は鳥肌が立つのを感じた。神様の言わんとしていることが分かったからだ。



「つまり、私を誘い込むために何らかの方法で参道の木々を紅葉させた、と」



神様は答える代わりに、ふわりと微笑んでみせた。どうやら正解のようだ。



「あなたが入ってくる時に見た参道の姿は、過去の姿です。

過去と未来で言えば、私に備わった性質は過去なので、その性質を活かした術を使いました。ちょうど、去年の秋が深まった頃、そうですね_____霜月の下旬頃の姿を見せました。さらに、こちらに興味を向けるように、翡翠さんの精神に働きかける術をかけさせていただきました。」



霜月____つまり、11月頃の木々であれば納得が行く。


その時期であれば気温も下がり、全国各地で綺麗な紅葉を見ることができるだろう。



にこにことした人の良い笑みを浮かべながら、何でもないことのように言う神様の姿を見て、翡翠は痛感した。


ああ、今目の前にいるのは本当に人ならざるものなのだ、と。



「随分と困惑していらっしゃるようですが、それが事実なのです。翡翠さんには頑張って事態を飲み込んでいただくほかありません。」



何でもないことのように淡白にそう言い放った神様を、翡翠は恨めしく思った。



「確かに神様のおっしゃる通り、事態を飲み込むしか道はないんでしょうけれども。わりと強引ですよね。」

「そこは目を瞑っていただけると嬉しいです。さて、そろそろ本題に入らせていただきましょうか。私はそのために貴方をここにお呼びしたので」



翡翠の体に少しだけ力が入った。



「……なんでしょうか」


緊張と少しの恐怖とで強張った顔の筋肉を動かして、なんとか口を開く。


翡翠の様子を見た一柱の神は口に手を当て、ふふっと笑い声を漏らした。



「そんなに怖がらないでください。別に、とって食おうなんて考えていませんから。

今日私があなたを呼び寄せたのは他でもありません。


城崎翡翠さん。


あなたを監視させていただきます。」



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