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導きの神様  作者: 夕月夜
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第三章一節 弥生の邂逅 その2


冬に落ちた樹々の葉がまた芽吹き始め、アーチを生み出している参道を通り抜け、東雲と翡翠は公道へ出てお店のある方角へ向かって曲がった。


日に日に外気温が暖かくなり、春の野花がちらほら姿を見せ始めてはいるが、まだ夜は冷えるため、午前中はまだひんやりとした空気が残っている。


さらに、昨日まで降り続いた雨のおかげで、神社近辺の山際の道には、水分を含んだ冷ややかな空気と濡れた草木の匂いがあたりに漂っていた。


翡翠は一つ大きく深呼吸をして、瑞々しい空気を取り込んだ。


その瞬間に心が洗われたような晴れやかな気持ちになり、翡翠は知らず知らずのうちに微笑む。



「何か良いことでもありましたか?」



翡翠の表情の変化を敏感に感じとった東雲が、翡翠に問いかける。



「山際のひんやりとした空気と、湿った草木の瑞々しい匂いが気持ちよくて。自然の近くで過ごせることの幸せを噛み締めていました」



翡翠の返答を聞いた東雲は、柔らかく微笑んだ。



「そうですか。私も日々自然を愛でて過ごしていますが、翡翠さんの言葉や行動の節々から自然に対する愛情を感じると、常々思っていました。

失礼かも知れませんが、翡翠さんほどの歳の頃で、自然の持つ力、その良さを感じ取り、自覚的に目を向けて愛でている人の子は現代では少ないように思うのですが、翡翠さんが自然に目を向けるようになったきっかけのようなものはあるのですか?」


「自然に目を向けるようになったきっかけ、ですか……。この自然に囲まれた土地で育ち、小学校の課外活動で植物のスケッチに出かけたり、ハイキングコースに行ったりと自然と親しんでいたというのもありますが、きちんとこの土地の自然の素晴らしさを自覚したのは、別の土地で数年過ごしてからのことだと思います。

その土地も自然は豊かだったのですが、横にあるという感じが強くてあまり自然を感じられないなってどこか違和感を感じたんですよね。その時から、ああ、この土地の自然は大切なんだなって認識して、今まで以上に慈しむようになりました」


「確かに、一度離れてみて外から見ることで初めてわかることもありますよね。

何にせよ、現代で日々を送る人の子が、神とも深い結びつきの深い自然を大切に想ってくれて嬉しい限りです」



そう口にした東雲の表情はとても柔らかく、本心からの言葉であるということは一目瞭然だった。


東雲の嬉しそうな表情を見た翡翠も何だか嬉しくなり、自然と笑みが浮かんだ。



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