第二章二節 月冴ゆる冬の安らぎ その8
一方、翡翠を見送った東雲は、すでに暗くなった参道を歩いていた。
この後に少し力を使うため、あえて参道の灯をつけることはしなかった。
冬になり参道の木々の葉も地に落ちているため、他の季節よりも木々の声は小さい。
その代わり、星々が綺麗に見えた。
小川の水が流れる優しい音色に耳を傾けながら、東雲は少しの間澄んだ星空を見上げながら歩いた。
一ノ鳥居を潜り、邸の門の前に立つと、闇の中でも白さを失わぬ猫と二羽の小鳥が東雲を待ち構えていた。
東雲にとっては、幾星霜の間何度も目にした光景だった。
白猫は何かを咥えている。
東雲は膝を下り、白猫が口に咥えているものを受け取り、そのまま境内の中央へと足を進めた。
中央には、舞殿と同じ高さほどの薪が積み上げられ、さながら小山のような相貌で東雲を待ち構えていた。
あとは毎年同様に東雲が火をつけるだけだ。
東雲は先ほど白猫から受け取ったものを掲げ、一度力強く振り下ろした。
と同時にごおっと音を立てて火柱が上がり、薪がパチパチと乾いた音を立てて燃焼を始めた。
風の届かぬ境内で、その姿を刻一刻と変化させながらゆらゆらと燃える炎が、東雲の赤い瞳に映る。
一柱の美しい男神は燃え盛る炎を目の前に顔色ひとつ変えず、何事かを考え込むようにしてただ一心に紅蓮の炎を見つめ続けた。
その心のうちに燻らせた炎を重ね合わせ、眺めでもするかのように。
________導く者、導かれる者、そしてそれを阻む者。
それぞれの想いを胸に、いよいよ運命の年が幕を開ける。
[第二章二幕 完]




