第一章一節 長月の出会い その3
二つ目の鳥居がだんだんと大きくなっていく。
それと同時に、境内の様子が少しずつ見えるようになってきた。
二つの鳥居は綺麗な朱色をしているが、それと同じように、境内にある建物の柱も朱色で彩られていた。
どこを見ても綺麗で、色あせたところが一つもない。
____まるで、今しがた塗り上がったような。
内心、翡翠は戸惑いを覚えていた。
普通、こんなに山の近くにあれば少しの雨で土汚れがついてしまうものなのに、白で塗られた壁にも汚れひとつない。
さらに、神社の規模が思ってたよりも大きかった。
敷地はもちろんのこと、殿舎も大きく立派だ。特に、向かって左側に見える築地塀からのぞく建物の屋根は大きく、その下にあるであろう建物も相当な大きさであることは容易に想像がつく。
少し大袈裟かもしれないが、国津神の最高峰である大国主神を祀った出雲大社を彷彿とさせる規模感がある。
近所にこんなにも立派な神社があることに心底驚きつつ、境内まであと一歩のところまで来てしまったので、意を決して足を踏み入れることにした。
「失礼します……」
鳥居の下で、そう呟きながら潜った。
静まりかえっている境内で聞いている人は誰もいないとは思いながらも、神社に入るときは必ずすることなので、今回も普段と同じように振る舞った。
境内に足を踏み入れた翡翠は、改めて周囲を見回した。
入ってすぐの右手には手水舎があり、前方には舞殿と思しき殿舎が配されている。
四方にかけられている御簾や釣行燈は豪華絢爛でいかにもな感じではないが、気品があり、選び手のこだわりを感じた。
何とも言えない美しさに翡翠は数分の間じっと観察をしたあと、その横を通り過ぎて、奥にある立派な拝殿へと歩みを進めた。
視界に映る拝殿が段々と大きくなってきたところで、一瞬だけ空間が歪んだような気がした。
と同時に、急に視界に入ってきた一人の男性と、危うく衝突しそうになってしまった。
「ごめんなさい!!」
咄嗟に謝ったものの、心臓がバクバクと音を立てていた。
人の気配がしなかったので、まさか自分以外の誰かにぶつかるとは思いもしなかったのだ。
しかも、相手は歳が近そうな男性だ。
____年齢は二十五、六歳だろうか。
顔は人形のように整っており、肌も髪も雪のように白い。
後ろでゆるくまとめられている髪が、風が吹くたびにキラキラと光り輝いていて見える。
先ほどぶつかりそうになった時は余裕がなく気がつかなかったが、落ち着いて見てみると、彼が纏っているのは洋服ではなく、和服だった。
その色は純白で、袖と裾には目を引くオレンジと金、そして丹色で大きな扇子が描かれていた。
その着物以外で唯一色があるのは瞳だった。
燃えるような夕焼けを彷彿とさせる、美しい赤い瞳。
色をもう少し具体的に言うのであれば、通常の赤よりももう少し柔らかで生き生きとした、珊瑚朱色で彩られていた。
『ずっと見ていると、吸い込まれてしまいそう。』
あまりにも綺麗なその瞳に、翡翠はほんの僅かに寒気を感じるほどだったが、寒気よりも美しいものを見ていたいという感情が勝り、しばらくの間その瞳から目を逸らすことができなかった。